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牙をむく迷宮

焼き芋事件から2ヵ月ほどしたある日、ようやく魔王軍からの使者が来た。

自称四天王の1匹を始末してからだいぶ経つ、えらくのんびりした組織だ。


小部屋に入り地面をつついている所に声をかけると自称四天王のように辺りをキョロキョロ見回している。

見てくれは鶏人間で立派なトサカが付いているが、首から下はガッチリした金属鎧でおおわれ膝下からは鳥の足がそのまま出ている。

歩く際に頭が前後するのは鳥人間の性なのだろうか。


「貴公がこのダンジョンの主殿だな。吾輩は魔王軍四天王が1人ガーフィーと申す。以後お見知りおきを。」


鳥頭かと思ったら意外にしっかりしたしゃべりだ。

三歩歩いたら忘れるか実験しようと思っていたがやめておこう。


「そうか。俺はこの迷宮の主でシリアスという。お互い暇ではあるまい。要件を聞こうか。」


「その前に確認させてもらいたい事がある。魔王軍四天王の1人が消息を絶っていて捜索中なのだ。ご存じないだろうか?」


「どんな奴だ?」


「リザードマンに似た魔獣族だ。頭が2つある。」


「知らんな。そんな奇妙な奴なら是非見てみたい見つけたら連れてきてくれ。ちなみに他の特徴は無いのか?腕が4本あったりするとか、常に火を吐いているとか。」


「そこまで特徴的では無いな。しかし、ここでも無いとは・・・。」


「あ~・・・もしかしてそいつ馬鹿なのか?」


「恥を晒すようだがそうだ。来ていないのならそれはいい。本題に入ってもいいだろうか?」


「構わん。話せ!」


「・・・・・・・実を言うと魔王様がこの度、人族との全面戦争を決意された。あと3ヶ月ほどで戦端が開かれる。貴公にも協力してもらいたい。」


「3ヶ月後だと・・・えらい急だな。」


「分かっている。本来ならば事前に連絡して協力を仰ぐのが当然だ。だが・・・。」


「ああ、なるほど。その失踪した馬鹿がその役目だったのか。」


「そうだ!それをあの馬鹿は投げ出しおって、更に行方をくらませおった。」


「今はたいしたことは出来んぞ。それと作戦はどうなっている?こちらも地上には色々やっているんでお互いを食いつぶすのは避けたい。」


「こちらはダラッダ国への進行を皮切りに戦端を開くつもりだ。迷宮主殿は何か協力出来そうか?」


「う~ん、マズイな。実はダラッダ国の方に俺は俺で仕掛けている最中なんだ。

ぶっちゃけ後2~3年ほどすれば何もしないでも地図から消えるはずだ。

だが、そのせいで今は一時的とはいえ彼の国には戦力が集まっている。

ダラッダ国を攻撃するのは決定なのか?」


「今のところはそうだな。しかし、貴公の方で既に仕掛けていたとは思わなかった。これは作戦を練り直したほうが良いかもしれんな。」


「出来ればそうしてもらいたい。既に王族までに手を伸ばしている。

今後はその力を使って他国へも干渉するつもりだったから、手を出さないでもらえた方がありがたい。」


「う~ん、これは持ち帰り検討した方がよいな。吾輩の裁量での判断を超えている。」


「出来れば、魔王軍の参謀を連れてこれないか?いちいち持ち帰って話すよりその方がスムーズに進むはずだ。」


「そうだな。一度貴公とはじっくり話してもらった方がいいようだ。」


「なら、会談の場を用意しよう。俺はここから出られないため来てもらうほかないが、歓待させてもらう。」


「分かった、持ち帰り話してみよう。会談の日時はいつでもいいのか?」


「そうだな。1週間後以降ならいつでもいいが、2日前には教えてくれ。」


「ならば3日前には先ぶれを出すようにしよう。それと人数なんだが、何人くらいまでなら受け入れられる?」


「先ぶれで教えてくれ。別に数万人でくるわけじゃ無いよな?」


「うむ!多くても護衛を含めて50名だろう。実際は20名いないと思う。」


こうして鳥頭の魔族は頭を振り振り帰って行った。


「ねえ!あんた大丈夫なの?」


キョウカがくってかかる。

普段は強気なくせに案外小心者だ。


「大丈夫に決まってる、情報を吸い上げたらすり潰してやる!」


今はミーシャの他にエンもいるのだ。

不意打ちが決まれば一瞬だろう。


「ああ・・・正面からどうこうする気は無いのね。」


「当たり前だ!そんなぬるい事してるからいつまでも拮抗状態なんだろうが!」


正々堂々とは命のかかって無いスポーツの話だ。

勝てば官軍、負ければ賊軍。

古来から勝った側が自分に都合のいい歴史を残しているのだ。

卑怯と言われる事でも、勝った後は素晴らしい作戦でに置き換わる。


「よし!大人数が来てもいいように大部屋を設置するとして、逃げられないように少し奥まったところにしよう。

それで、全員入ったら迷路を作り変えて帰り道が分からないように・・・。」


俺は夢中で自分のアイデアをメモに書き写した。


「凄い、楽しそう・・・。」


「こ奴、何か企んでる時が一番生き生きとしとるな。」


「罠が好きなんでしょ。イレギュラーも罠で捕まえたし。」


「卑怯なご主人様も私はいいと思うぞ。」


「私はどっちでもいいかな~。」


「な~、あたいが行って暴れたらいいんじゃないのか~。」



嫁達が呆れた声を出し、子供組は夢中で茶菓子を食べている。

テーブルに触手を伸ばしたメメを捕まえて抱き上げ、新しいおやつを買い与える。


「メメちゃんの事は見てるんですね。」


「お気に入りのペットだからよ。」


「あれって何なのだ?」


「小さい目玉だな。動きはかなり早いぞ。」


「ふん!あれも神の分身体じゃ。儂のような上位体では無いがの。

下の下の下の分身体じゃ。あいた!こ、こやつ、また儂の尻を!」


メメに尻を叩かれたチビ助が唸る。

馬鹿め!うちのメメはおりこうさんなんだ。


「あれも邪神の分身体なの?」


「儂と同じ神ではない。かといって善神の奴等とも違う。う~む、迷子じゃないかの。」


よく次々と話題がみつかるな。

井戸端会議がしたいなら他所でしろ。


「お前等、うるさいぞ!俺は仕事してるんだ!芋でも食いに行ってろ!」


「なっ!そんなにお芋ばっかり食べないわよ!失礼しちゃうわ!」


怒りの化身が何か言ってるが知ってるぞ。

なんだかんだで毎日石焼き芋を食べているのを。


「そうか、俺の誤解だったか。なら今余ってる芋は全部吸収してもいいよな?」


「ま、待ちなさい!落ち着いて!話せばわかるわ!」


お前が落ち着け、たかが芋で動揺が凄いぞ。


「わかったわ。私達は部屋から出ていくから、あんたは何もしちゃ駄目よ。」


キョウカは嫁達と子供達を部屋からだし、自身は後ずさる様に俺から目を離さず部屋を出て行った。

石焼き芋を食べるとわかったのだろう、メメもついて行ってしまった。

偶然だが芋質という、とてつもないアドバンテージを発見した。

これで今後は主導権を持てそうだ。



そして8日後に魔王軍の中核と言える奴等が俺の迷宮に押しかけてきたので会議室のように改装した大部屋へ誘導した。

始めは自己紹介からだった。


参謀はアドオンとかいう名前の一つ目だった。

そして、その副官のなんとかと言う奴と護衛が4名。

それにしても、目玉の大きさを考えると明らかに脳の許容量が人より少ない気がするのだが、そんなので参謀が務まるのだろうか。


そして鳥頭とその取り巻き2名と護衛が5名。

こいつらは全員、鳥の魔獣族だ。

インコの魔獣族は中々かわいい感じでうちの嫁達にも好評だ。


それとカマキリみたいな顔の虫の魔獣族キャキャと言っているがオスなのかメスなのかの区別もつかない。

こいつも四天王の1人で戦闘面で魔王軍の将軍となっているらしいと部下なのか護衛なのか分からない奴が2名。


計16名が会議のメンバーだ。

一人一人紹介されたが、ここで始末するつもりなので、ほぼ名前を覚えていない。


作戦会議となったところでまずは俺の現時点の状況を説明する事になった。


「今のところは前に話した通り、ダラッダ国の王族の1人を操るのに成功している。

他にも貴族が数名と軍部の一部を掌握済みだ。それと極秘だが勇者も何名か叛意させてある。

彼等は本当にいざという時のための保険だが、このままダラッダ国で力を増しクーデターを起こさせるつもりだ。

他にも王族の力と軍部の力を利用し他国へ侵攻するつもりだが、今はその前段階として他国の戦力を削っている。

そのためダラッダ国には少し過剰な戦力が集中している状態だ。」


「ふ~む・・・素晴らしい、シリアス殿。まだ迷宮主となってさほどたっていないと聞くが貴公の頭脳と行動力はずば抜けておるな。」


「ありがたい話だが、味方同士策を食い合っては意味が無い。魔王軍はどのような状況でどのような作戦を立てている?」


「うむ、儂等の方は手始めにダラッダ国を攻め滅ぼし、そのまま大陸の中央と周りの小国を制覇するつもりでおった。

現在は魔王国にて侵攻準備中じゃ。その後1000名規模の隊にわけダラッダ国周辺に散開し一気に攻めあがるつもりでおった。」


「悪く無い作戦だ。魔族の力で一点集中し大国を落とし、その後は残務整理の如く周辺国を掃討、それと第二次侵攻を同時にやり人族をかく乱するというわけだな。」


「さよう、物分かりが早くて助かる。だがそれだと貴公の作戦と食い合ってしまう。

我らの方はまだ実行前だが貴公の作戦は実行中じゃ。こちらが引くべきじゃろうな。」


「そうしてくれると助かる。ちなみに魔王軍の兵力はどのくらいなんだ?」


「現状で10万と言いたいが、戦闘がこなせるのはその半分じゃ。じゃが1人1人が人族等より圧倒的に強いぞ。」


「なるほどな、それで現状魔王国に集結している魔族だがいつまでそうしていられる?」


「というと?」


「いや発散の場が必要なのかとか糧食の件は問題は無いのかという事だ。食い物であれば多少融通出来るからな。」


「おお!それはありがたい。現行では半年分はある。とは言っても侵攻後は人族からの略奪で賄うつもりでおったが余裕があるのは嬉しい。」


「ちなみに何があっても3ヶ月後の戦は無くならないのだろうか?」


「うむ、それは無いな。どのような状態でも戦は始まる。」


「なるほど・・分かった。ところで、少しこちらでも相談したいので休憩を入れないか?

歓待すると言った手前、料理と酒を用意しているのだが、このまま話し込むと提供出来ずに終わりそうだ。」


「心遣いに感謝する。皆で楽しませてもらおう。」


「それでは、客人に働いてもらうのは申し訳ないのだが料理と酒を転送する。楽しんで欲しい。」


ここまで話してあらかじめ買っておいた酒と料理を会議室の方に転送した。

日本産のこだわり抜いた酒と料理だ。

最後の晩餐として楽しんでくれ。

スクリーン映る、和気あいあいとした魔王軍を見ると多少くるものがあるが、俺の自由のために奴等には生贄になってもらう。


「ねえ、いつの間にダラッダ国に仕掛けてたのよ。私聞いていないんだけど。」


「そりゃ、そうだろ全部出鱈目なんだから。ここで始末する奴等に馬鹿正直に話す必要があるか?奴等にとって耳障りのいい話をでっち上げただけだ。」


「全部嘘なの?」


「そうだ!さて、ここまで話したところで他に聞いておいた方があるものはあるか?取れるだけ情報をとったつもりだが・・・。」


「情報は出来るだけでいいわよ。欲をかくとろくなことにならないわ。後は逃がさずに首を切るだけよ。」


「そうだな。作戦は・・・キョウカ、ミーシャ、エンの3名で行う。

転送後、ミーシャはあの参謀と取り巻きの首から下を消し飛ばしてくれ。最悪、一つ目の首だけあればいい。

エンはあのカマキリ将軍を達磨にした後、取り巻きを切り殺せ!首は出来るだけ残せよ。

キョウカは達磨になったカマキリの首を取れ!その後はミーシャとエンで残敵掃討、キョウカはバックアップだ!

何か質問はあるか?」


「ないわ!」


「なら30分後、奴等がほどよく酔ったら作戦を実行する。」






30分後


「中座してすまない。酒と料理は楽しんでくれているだろうか?」


「おお!迷宮主殿か!素晴らしい酒と料理じゃ!儂も年甲斐も無く飲みすぎておる。」


「オレ、コノサケ、スキ」


一つ目とカマキリが絶賛してくる。

見ていたから酒も料理も好評なのは分かっている。


「そうか。そう言ってもらえるとこちらも嬉しい。足りなくなったらいくらでも渡すから遠慮等せずに言って欲しい。」


「ありがたい事じゃ。」


「それと、酒が強いなら、酒精の強い酒も出せるがどうだ?話のネタにもなると思うが。」


「オレ、サケツヨイ、ノム」


「これキャキャ飲みすぎじゃ。お主も女性なら慎みを持つべきじゃぞ。」


「オレ、ツツシミブカイ、チャント、ノム」


あれってメスだったのか。

カマキリはオスよりメスの方が体がでかくなるから、もしかしてとは思ってたんだよな。


「まぁ、そう言わずに。ここなら酔ってもらっても俺がいる限り大丈夫だ。」


俺は準備しておいたスピリタス100本を転送した。

見た目は綺麗な瓶を手に取り、皆が興奮している。


「余った物は土産で持ち帰ればよかろう。誰かにやるにしろ、自分で飲むにしろ、味が分からねば意味は無い。とりあえず1人1本飲んで確かめてみたらどうだ?」


「う~む・・・シリアス殿の好意に甘えよう。」


一つ目がそう言うと歓声が上がり全員が1本づつ手に取る。


「では魔王軍の未来とシリアス殿の繁栄を願って、乾杯じゃ!」


そう言うが早いか一気にグイッと飲み干した。


「グッ・・・これは・・強い酒じゃのう・・。」


倒れた奴がいないのは流石に魔族なのだろう。

全員酔ってはいるが平気なようだ。


「送るぞ。」


俺は背後に完全武装で立つ3人に小声で声をかける。

無言で頷く姿を見て転送を開始する。


まずは魔法使いの排除だ。

ミーシャを一つ目の背後に転送。

同時に一つ目の体に穴が開く。


次にカマキリの背後にエンを転送。

カマキリの四肢と周りにいた奴等の首が落ちる。


最後にエンの横にキョウカを転送。

地面をのたくるカマキリの首を切り落とした。


その後は酔っている事もあり一方的な戦いだった。

ミーシャもエンも周りにいる護衛や取り巻きを瞬殺し、キョウカも護衛を1人切った。


「クリアー!」


「生きてる奴はいないよ!」


「・・・・・・。」


「アンデットはいないのか?」


「平気よ。いたら勇者の力で分かるわ!」


「よし!キョウカは首を回収しろ!ミーシャとエンはそのまま警戒だ!ダンジョンに吸収するまで気を抜くなよ!」


「・・・終わったわ!」


「戻すぞ!」


全員、コアルームへ無事帰還した。

俺はその隙にダンジョンへ残骸の吸収を命じる。


「よくやった3人とも。ミーシャとキョウカは返り血が付いてるから風呂に行ってくれ。エンは水洗いでいいのか?錆びたりしないよな。」


そういうとエンが身振り手振りで刀を指差し、なにか伝えようとする。


「エンは平気だって、それより刀の手入れをしたいって言ってるわよ。」


「わかった、エンはもう自由にしてくれていいぞ。」


俺がそう声をかけると目礼しコアルームを出て行った。

人より人らしい行動をするのはコピーとはいえ魂を宿しているせいなのだろうか。


「よし・・・怪我はしてないな?」


2人の嫁を抱き締め聞くと血の匂いがする。


「あれくらい、あたい1人でもラクショーだぜ!」


くすぐったそうにミーシャが言うが今回は逃げたりしない。

キョウカも黙ってくっ付いている。


「じゃあ、2人とも風呂に行ってこい。シスとリアには俺から声をかけとく。子供達も一緒にいるはずだから真っすぐ風呂に行けよ。」


「わかってるって!じゃあ、物足りなかったけど、風呂にいってくらあ!」


走り出したミーシャに続きキョウカもコアルームから退出していくが扉の所で振り返る。


「今日は私の我儘きいてくれてありがとう、旦那様!本当は私、あの場に行かない方が良かったのよね?」


まぁ、戦力的に何かあるとすればキョウカしかいないからな。

だが、レベルアップするには打って付けの餌場だったし、いざという時のためにエンを付けたが杞憂に終わったな。

手をヒラヒラさせると微笑んでキョウカが出て行った。


行動はヒロインじみてるが、殺人現場からの帰還後だから、なんだか微妙な気がする。

これでしばらくは大人しくなってくれたら俺としてはそれでいいのだが・・・。

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