イレギュラー
化物を封印して1週間ほどしたある日、ゴルドの奴がひょっこり帰って来た。
カージャとキースをお供にその後ろに隠れながら、いつもの小部屋の隣に設置した小部屋に入った。
開かずの間から聞こえる音に皆不安そうな顔をしている。
さっそく声をつなげてみた。
「友よ!あれはどうなった?隣の部屋から音が聞こえるんだが・・・。」
あの化け物は1週間がすぎても元気だった。
時計のように規則正しく暴れている。
しかも休むことなく24時間だ。
やはりどこかのダンジョンモンスターなのかもしれない。
「隣の部屋に封印している。ダンジョンに危機が迫った時に解放する予定だ。」
「解放するのか?」
「死なばもろともだ。」
「同志ゴルドより緊急集合がかかり馳せ参じました。神よ、相手はなんなのですか?」
「ゴルドから聞いたがイマイチ要領がつかめん!こいつが見たのが一瞬だったせいもあろうが化け物としか言わんのじゃ。」
ゴルドの表現能力からすれば、それが限界だろう。
それにあれを記憶しておくのは脳に負担がかかりそうだ。
だとすれば体の自己防衛機能が働き、無意識に忘却したのかもしれん。
「体型の見た目はキースを2メートルにした感じだが頭に毛がない。
装備品はブーメランパンツとリングシューズのみ。
体中気持ち悪くテカテカと油ギッシュに光り、ポージングして微動だにしなかった。」
「他には何か?」
「うむ・・・G達が近づかず、一定時間そばにいると気絶した。
あと瞼で矢を跳ね返せる。」
「化け物ですか・・。」
「それに人を喰ったような戦化粧を施し、威嚇のため左右の胸をピクピクさせてた。」
「それで、どうやって捕らえたのですか?」
俺はココナッツクラッシュから落とし穴と鉛のコンボを決め、最後は脱出不能にするため天井を下げた事を伝えた。
「それが1週間前ですか?まだ生きているんですよね?」
博識のカージャでもあの化け物の事は分からなかった。
1週間不眠不休で暴れられる時点で人ではないだろう。
結局、化物については分からずじまいで各自調査する事になった。
「あら?あの化け物の事を調べてるの?」
アリスが夕飯のから揚げを優雅にのみ込み、高飛車に言ってきた。
この女は例の化物事件の時に嫁達に取り入り、俺のダンジョン内での自由を勝ち取っていたのだ。
そのため、我が家の飯にも顔を出すようになり3食かならず食べに来る面の皮の厚さを披露していた。
「謎の化け物だし、警戒するのは当然だろ。」
「まだ生きてるんでしょ。どうすんのよ。」
「ダンジョンバトル時に相手ダンジョンに放逐するのが一番有効に思える。」
「化物。」
「筋肉。」
「追放。」
「放逐。」
化け物を見てショックを受けていた双子が騒ぎ出した。
「もう、死んでくれね~かな~あれ・・・・。」
「イレギュラーだもの。簡単に死んだりしないわよ。」
!!!。
「お前、あの化け物の事知ってるの?」
「なっ!貴方鑑定してないの?」
俺の質問に、何この馬鹿みたいな驚きの表情で返された。
「し、してない。・・・」
「あれは神の作った失敗作よ。私達はイレギュラーって呼んでるわ。あそこまで極端なのは稀だけど。」
意味が分らん。
「ちなみに貴方とミーシャもイレギュラーよ。」
「ふざけんなー!」
言うに事欠いて俺を失敗作だと。
そりゃ色々失敗はしてるし、あれだけど、失敗作はないだろう。
「ふざけてないわ。イレギュラーは種族と職業が同じなのよ。貴方もそうでしょ。」
確かに職業も種族もダンジョンマスターだ。
「普通は違うわ。私は職業はダンジョンマスターだけど、種族は神祖、吸血鬼よ。」
「マジかよ。」
「残念ながらね。極低確率で生まれる特異体で常識の外の存在。それがイレギュラーなの。
何故、いるのか分からないけど、ある日突然あらわれるのよ。
ちなみにあの化け物は種族、職業とも変態となっていたわ。」
「だから、お前行くの嫌がったのか?」
「そうね。でも普通に嫌でしょ。あれなら。イレギュラーは常識外の生き物よ。
おまけにどんなイレギュラーでも1つか2つは常識外れの能力を持っているの。
そんな奴の元に行きたいと思う?」
「えっ!俺も何かの力持ってるのか?」
「持ってるわよ。貴方の力はダンジョンマスターのルールにとらわれないところだと思う。
あの化け物相手に小部屋に罠仕掛けてたけど、普通のダンジョンマスターなら、
自分のダンジョン外の生き物がいるところでは制約が働いて力は使えないのよ。」
「えっ!じゃあお前、前から知ってたのか?俺がそのイレギュラーって奴だって。」
「まさか、知るわけないでしょ。貴方に初めてあった時は既に貴方の配下なのよ。勝手に鑑定なんて出来ないわ。
あの化け物の件で貴方を鑑定するチャンスが出来たの。とは言ってもその前にその力の行使で分かったけど。」
「マジかよ。」
「マジよ。だから私は貴方達と争うのはやめる事にしたの。1人でも嫌なのにイレギュラー2人相手になんかしてられないわ。」
「あー!だからあんた素直になったんだ。」
「そうよ。」
キョウカが大きく頷き納得した顔をしているが、思わぬところで自分のルーツが分かってしまった。
邪神に存在を食われたから、存在自体がおかしな存在になったのか?
「別にいいんじゃない。メリットがあるならそれだけで得してるんだし。」
キョウカの能天気さに救われる思いだ。
「残念だけど、デメリットもあるわよ。貴方ダンジョンマスターにしては異常に能力値低いでしょ。
恐らくそれがデメリットだと思うわ。」
「ご、ご主人様の能力は低いとは思えないが・・・。」
「人族と比べたらでしょ。本来ダンジョンマスターは勇者の対極に位置する者よ。
つまり能力値も多少の差はあれど、本来勇者並みなのよ。」
シスが庇ってくれたので後で頭をなでてやろう。
確かにMPはスキルで増やしたがHPはキョウカと比べてもまだ半分だ。
「なー、あたいの力は何なのさ?」
「知らないわ。貴方の場合は強さに由来するものだと思うけど、おかしなスキルもってたりしないの?」
「う~ん、分かんない・・・。」
興味津々で聞くミーシャはアリスにバッサリ切って捨てられた。
ミーシャの異常なくらいの戦闘力もイレギュラー故みたいなものだったのか。
しかし、あの化け物は変態だったか。
解放はするの俺が死ぬ時にしよう。




