勇者の価値は
1週間後
リアの調合レベルがあがった。
毎日調合を練習していたおかげだ。
初めは下級ポーションですら失敗し落ち込んでいたが、今は下級はおろか中級ポーションもほぼ失敗しない。
真面目な顔で調合を行うリアの横顔を見ていた。
彼女は少したれ目で泣き黒子があり、見た目は可愛い系だ。
シスをおっぱいお化けと言うが、彼女の胸もでかい。
背が低いせいでシスより小さく見えるがバランス的には同程度だろう。
横から見ていると、その凶悪に突き出た胸が目をひく。
ボーッとそれを眺めていると、久々に侵入者を告げるアラームが鳴り響いた。
スクリーンを見ると、いつもの小部屋にボロボロにされたお笑い勇者ゴルドがロープでぐるぐる巻きにされて罪人のように膝まづいており、その後ろに例の双子が仁王立ちしていた。
嫌な予感がするが音をつなげて会話を試みる事にした。
「おい!ゴルド。どうした?」
「おお!友よ!・・・・」
ゴルドは最後まで話す事が出来なかった。
ドゴッ!という音と共に双子の片割れがハンマーのような杖でゴルドの頭を打ち付け顔から地面に沈んだせいだ。
「馬鹿には犯罪の容疑がかかっている。」
「ギルドにあった持出禁止の本が消えた。」
「何故、それがゴルドと関係する?」
「無くなった時に本を見る事が出来たのはギルド職員以外ではゴルドだけ。」
「本が消えた日から様子がおかしい。」
「本人は認めたのか?」
「・・・認めて無い。」
「・・・しぶとい。」
「証拠が無く、本人も認めていないなら、君たちの勘違いなんじゃないのか?」
「説明がつかない。」
「ソワソワ、ニタニタ、気持ち悪かった。」
勇者なのになんて扱われ方だ。
「それは、ただ100の大台に乗ったからなんじゃないのか?」
「「!!」」
「君達も知ってるようにゴルドはモテない。そしてすぐ惚れる。」
「同意。」
「肯定。」
「そんな彼ならば告白前はソワソワしたり、奇跡を夢見てニタニタするんじゃないか?」
「する。」
「気持ち悪い。」
「そして振られたら、彼は不屈の闘志ですぐに忘れる。」
「可能性は高い。」
「日常。」
「つまり、彼は盗みなどしておらず、惚れた相手に心ときめかせ気持ち悪い行動をしていただけなんじゃないのか?」
「「!!」」
双子は目を丸く見開いた後、ヒソヒソと相談している。
ゴルドの奴がピクリとも動かないんだが大丈夫なんだろうか。
「まだある。」
「本が無くなった時、ゴルドはよくここに来ていた。」
「それは相談を受けていただけだ。」
「相談?」
「何?」
「戦力強化の相談だ。お前等、俺の迷宮でコテンパンにされただろ。」
「否定。」
「時間さえかけたら攻略出来る。」
ほっぺた膨らまして拒否ってきやがった。
「無理だな。何故ならお前等が戦ったG軍団は砂漠の中の一粒の砂程度でしかない。俺には1年中攻撃し続けるだけの戦力がある。」
「「!!」」
「本来ならゴルドから渡されるはずのものだ。まだ用意が終わってなかったから、これしかないが受け取るがいい。」
俺は尊大に話しながら氷狼の杖を小部屋に転送した。
双子の片割れ、たぶんルドの方だと思うが、が走り寄って杖を手にする。
目がキラキラしてるからいい物だとわかったのだろう。
「凄い杖。」
「対価は何?」
杖を持った方は杖に夢中だが、もう片方はムッとしながら対価と言い出した。
「もう少し、ゴルドをいたわってやれ。あまりにも不憫だ。それと・・・日本人の勇者がいたら連れてきてくれ。」
「貴方は日本人?」
「ゴルドは肉の盾。」
ゴルドの扱いブレないな。
何したんだこの野郎は・・・。
「・・・たぶんな・・・・。」
ここで音声を切ると、しばらく小部屋で話していたが、じきにゴルドを引きずりながら帰っていった。
3日後
奴等がまた来た。
双子に挟まれたゴルドが不安そうな顔をしている。
余計な事を言われるとマズイのですぐに音声をつないだ。
「ゴルド、無事か?何しに来た?」
ザ「私も杖が欲しい。」
ル「凄い杖。」
ザ「私だけ無いのは不公平。」
お前等は元々敵だろが。
「わ、我が友・・・た、頼む・・・。」
ゴルドの声は小さいが必死さが伝わってくる。
杖が無いと酷い目にあうだろうか。
しかし、杖を渡せば今以上の威力の魔法がお前を襲うのは確実なんだぞ。
「・・・・少し待て・・・・。」
お笑い勇者がどこに向かっているのか分からないが、迷走しているのだけは確かだ。
暇つぶしのために杖を与えるのも一興だ。
DPストアから同程度の杖を探す。
炎虎の杖(DP2800)と炎帝の杖(DP3800)が候補だ。
妹の杖が氷狼だから無難に炎虎の杖にすべきか。
それとも姉だから、それより強力な炎帝の杖にすべきか。
よくよく考えたら敵だし、そこまで施す義理も無い。
炎虎の杖を購入し小部屋に転送する。
杖があらわれた瞬間、目を輝かせ飛びついた。
「それを使え!・・・。」
音声を切りその場を後にしようとすると、小部屋で双子が話し合っているのが見えた。
そして、双子が一斉に勇者に目を向けるとゴルドが扉に向けて逃げ出した。
だが、扉にたどりつくより早く巨大な炎の虎が奴を襲う。
火達磨になって転げまわるところをこれまた巨大な氷の狼が襲う。
火は消えたがボロボロになったゴルドが動かない。
双子に片足づつ掴まれ、引きずられて帰って行くゴルド。
期待を裏切らない男だ。




