首実検は無いらしい
ゴルドの改名騒ぎから1週間。
俺は赤ちゃん部屋で赤ちゃん達に踏まれていた。
より正確に言うなら赤ちゃん達に背中を踏まれていた。
所謂、足踏みマッサージだが、正直、軽すぎて全然効かない。
効かないが俺のためにやってくれているという事実がその効果を幻想させる。
リアとシスが俺の横に座り赤ちゃんが歩くのを補助している。
もうしっかり歩けるのだが、流石にバランスをとって歩くのは難しい。
俺の体の上を歩くとバランスを崩し転がるので両脇で手助けしていのだ。
俺が唸ると面白いらしく、体の上でキャアキャア言っている。
ローズなどは飛び跳ねて面白がっている。
ただ、面白がっているが軽すぎるせいで背中を触られている感触しかない。
メメもチャレンジしたが背中の上を転がっただけだ。
こちらは普段あれだけ食っているのに重さがまるで無い。
子供組もチャレンジしているが不思議な事に双子も軽くて少しも効かない。
「どうじゃ!儂の偉大さが分かったかぁ!!!」
チビ助は喜んでポンポン跳ねているが赤ちゃん達とたいして重さが変わらないためか乗られている感触しかない。
首を捻っていると嫁達が乗って来たがどれもこれも軽い。
「お前等ちゃんと飯食ってるのか?」
心配になって聞くと何故か喜んでいる。
どうやらレベルがあがりすぎたせいでこうなっているらしい。
指圧等もキョウカレベルの腕力が無ければ触れられている感触しかしない。
そして赤ちゃん達も飽きてしまったのか、思い思いに散らばりだした。
ローズはメメを追いかけ回し、その後ろにタカトが続く。
アイカとパルとメロンは子供組がままごとを教えているようだが、よく分かっていないようで、時折奇声を上げて喜んでいる。
大人しいのはまだ満足に歩けないアイザック達、ダークエルフの赤ちゃん達だがこちらは同胞のダークエルフが群がっているため近づけない。
しばらくするとシルキー達がおやつを用意し、そこで子供組と一緒に群がり小さな手と口を汚しながら食べだした。
子供組が赤ちゃん達におやつをとってやっている。
ちゃんとお姉さんしている姿を見ると和んで頬が緩む。
赤ちゃん達がお昼寝タイムに突入してしまったので、俺はゴルドの様子を見にコアルームにむかった。
ゴルドは結局のところ改名を拒んだ。
そのためカージャが勝手に登録し、今はドリアンが正式な名前でゴルドが綽名みたいになっている。
教会側へはゴルドは逃亡の果てに死亡したと報告している。
そのため、この男はダラッダ国から出る事を禁じられている。
ほとぼりが冷めるまでと本人には説明しているが、そうなる事は一生無い。
だが、書簡だけで指名手配犯の生死を信じるこの世界の住人は抜けているように思える。
今日もゴルドであってゴルドでないドリアンが真面目に死刑囚の管理をしている。
いくらこの男が鈍くても今回は多大な迷惑をかけた事くらいは分かっているらしく、カージャとキースの代わりに休みなく働く事を選んだのだ。
「よお!ド、ゴルド。調子はどうだ?」
「やあ!友よ!私の方は問題無い。カージャとキースには迷惑をかけた分しっかり休んでもらわないとな。」
こいつは囚われている間、俺やカージャが自分の為に動いてくれていたと勘違いしている。
無駄に自意識が高い男だが、そのお陰で得している人がいるので俺は黙っている事にした。
「そういえば、今度ダラッダ国、ピットン王国、スゲノ帝国の3国で勇者召喚をするらしい。」
ゴルドのこの何気ない一言に俺は驚きを隠せなかった。
既に魔族との休戦協定もくまれ、勇者の必要性が薄れているのに更に増やすというのだ。
呑気なゴルドは更に言葉を続ける。
「私には仕事を頑張ってもらいたいらしく、出席せずとも良いという通達が来た。」
だが、それは体のいい追いだしだろう。
要はお前は来るなと言われているだけなのだが、本人は気付いていない。
スー王女が庇うお陰で生きているゴルドだが本人は自分の能力を認められていると思っているようだ。
ゴルドの生き死にはともかく再度の勇者召喚は邪魔したい。
三馬鹿国が何を考えているのか分からないが、あんなものはただの拉致でしかない。
ただ、善神がいないのに勇者召喚って出来るのか?
俺は邪神に喰われてこの世界に来たが、キョウカはたしか登校途中に召喚されたような事を言っていた。
ダンジョンマスターは邪神がスカウトしているのに勇者の場合は違うのだろうか。
そのあたりの謎のルールの解明と勇者召喚の邪魔を今後の課題としよう。
とりあえず、ゴルドに当たり障りの無い返事をし、俺は家に戻る事にした。