師匠の過去殲滅の獣その5
柩の置かれた空間は不思議な魔力で満たされていた。
殲滅の獣は油断せず、周囲に注意を払って柩へと近づく、普段おちゃらけたメンバーも声も発せずにその空間には呼吸をする音、踏みしめる大地の音だけが響いた。
静寂が辺りを包むなか柩へと近づくと変化が起こる。
ドーム状のこの空間の壁面、入り口から順に明かりが灯り出したのだ。
すべてに明かりが灯ると更なる変化が現れる。
それが罠だったのか、柩を中心に引き寄せられるように殲滅の獣の魔力が吸われていく、アリゼア、ゲニアと魔力の低いもの立ちは急激な魔力枯渇を起こし、膝をつく。
魔力の高い魔法職であるミラーナ、マーク、そして竜人のアーディも先の二人よりは軽い症状であるが頭痛やめまいの症状に襲われた。
現地人として世界最高峰の五人はレベルアップや日々の鍛練により常人より遥かに魔力量も多いのだが、このような状態へとなる。一般の民達であれば死は免れなかっただろう、最下層までたどり着き、ドラゴンを倒すことがまず無理であるのだが。
いち早く立ち直る事が出来たのはマークであった。
「みんな、大丈夫かッ!?いったんこの部屋から脱出するぞ!!」
「……不覚、鍛練が足りなかったようでござる。」
次に復帰を果たしたアーディと共に膝をついている、アリゼアとゲニアの元へと行き肩を貸し柩から離れ入り口へと向かう。
全員が脱出しようとしたその時。
ガタンッ
振り返ると柩の蓋が落ちている、中からは紫色に可視化出来るほどに濃い魔力があふれでている。
可視化できるほどの魔力となると出てくるモノは相当強力なものであろう。
殲滅の獣は全員が臨戦態勢となる。
柩よりそれはムクリと上半身を起こし、辺りの確認し立ち上がった全裸の男だ。
その特徴は真っ赤な瞳に銀の短髪、外形は人に見える、魔族にも見えるのだが、肌の色が薄紫色で魔族にこのような肌の者は居なかったと殲滅の獣は記憶している。
「……クフフフ、ようやく、ようやく出ることができましたか……。人に獣人、妖精族にこれは珍しい竜人とは、我らが同報では無いようですが、あなた方には感謝いたしましょう。」
「…………。」
「なにかございますでしょうか? これは失礼しました。」
全裸の男は指をパチンとならすと魔力、属性までは判断できなかったが体を纏うと燕尾服のような服装を身に纏い、優雅に一礼して見せたのだ。
魔法知識に精通するマーク、ミラーナは驚愕した。どの属性の魔法にもあのような魔法がないからだ。
燕尾服の男は言葉を続ける。
「先程はお見苦しい姿をお見せしてしまって申し訳ありませんでした。久々に外に出れたのです、それに協力していただきましたので、あなた方には二、三質問をさせてあげましょう。さぁどうぞ。」
謎の男はこの状況で殲滅の獣に対して質問をと投げ掛けてきたのだ。
その質問が隙となり全滅するのではないかとその場を動けずにいた。
「ご質問は無いようですね、それでは……」
「われは何者じゃ!」
「おっ!? ようやくの質問ですね、言葉が通じないほどスフラギタの柩の中に居たのかと心配していたのですよ……。ひとつ目ですが、私はマルディシオンと申します。」
アリゼアの質問に、答えるマルディシオンその後お次は?と次の質問を促す。
「チッ、名前やら聞いとらん!われはなしてここにおるんじゃ!!」
「何者だと聞いたではありませんか? まぁいいでしょう、次の質問ですが、少々おいたをしてしまいまして、油断もあり閉じ込められてしまったのですよ。」
やれやれと言わんばかりに両手を広げ首を振るマルディシオン。
「次が最後ですよ、獣人の方以外で質問はございませんか?」
「スフラギタの柩とはなんなんだ!! お前の目的はなんだ!」
マークが先程気になった言葉を知るために。
「最後のひとつと言ったのに二つも質問をしてくるとは……サービスして差し上げましょう、スフラギタの柩とは封印の魔導具ですよ、そして私の目的は彼の御方の復活、下等種達を支配しこの世界を統一するのですよ。」
封印されていた存在ということか?
なぜ封印されていたのか?
この五人で倒せるのか?
彼の御方とは誰なのか?
そして聞き捨てならないこの世界の統一……様々な疑問が浮かぶ殲滅の獣のメンバー。
「彼の御方とは誰なんだ!!」
「質問は終わりですよ、少々しゃべりすぎてしまいましたが問題ないでしょう。なんせあなた達はこれから私の糧となり、彼の御方のために働けるのですから、長い間封印されていましたから力は弱まっていても、あなた達くらいなら問題ないでしょう。」
マルディシオンを中心に魔力が溢れる。
「この場は闘うには狭すぎますね。広場へと移動しましょうか。リハビリ相手にはちょうどよい五人じゃないですかね。」
先程までついていた灯りが消え暗闇が辺りを包む。
「くそっ!!」
そして何かに沈む感覚と浮遊感、浮遊感は転移の魔方陣に似ていた。
浮遊感のあと回りが明るいことに気がつく一瞬で先程までドラゴンと戦っていたボスの間へと転移していた。
「この人数を移動するだけでこれとは……相当長い間力を奪われていたようですね……それでは下等種覚悟してくださいね。」
「ゲニア!!さっきの柩の解析をしてこい!!こいつはやばそうじゃけん!!」
アリゼアの指示のもと即座に反応し走り出したゲニア。
「クフフフ、そう簡単に行かせるほど甘くはございませんよ。」
マルディシオンは闇魔法のダークボールのような魔法をゲニアに向けて投げるが、アーディがそれを阻止する、槍で弾くが爆発ではなく霧散しアーディを包む。
「ガハッ」
膝をつきアーディは吐血する。
「アーディ!? やつの闇魔法に気を付けろ!! 光よ、浄化!!」
「お辞めください、私の特殊スキルを闇魔法等という低級な魔法と一緒にしないでいただきたいですねぇ。」
ゲニアが入り口へとたどり着いたのだが、中央に居たマルディシオンがゲニアの横に立ち、殴り飛ばす。
ゲニアもとっさに大楯を間に挟み対応するも膂力で勝ったのはマルディシオン、ボゴッっと音をたて楯がへこみ、ゲニアが吹き飛ばされる、ボスの間の壁に衝突し土煙が辺りを包む、そこには血だらけの意識を失ったゲニアの姿。
「クフフフ、お次はどなたが無様に倒れ付しますか?」
ゲニアが戦闘不能、アーディも痛手をおった、残るはアリゼア、マーク、ミラーナの三人だ。
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