師匠の過去殲滅の獣その3
40階層を越え45階層までの地図を便りにやって来た、ここまで来るのに約二週間程の道のりだったと思われる。
ダンジョンの中は様々な環境であるため体感でしかない。
殲滅の獣は46階層へと向かう階段を下っていく。
46階層からダンジョン内で出現する敵もゴブリンキングやトロール、単体のゴーレムといった各階層のボスとして出現していた魔獣が現れるようになったのだ。さすがにサイクロプスはまだ出現して居ないが、階層を下っていけばそのうち出てくるのだろう。
ダンジョンは下層に行けば行くほど広大となっている。
地図もなく迷宮のように入り組んだダンジョン、殲滅の獣も例外なくダンジョン攻略に時間がかかっていた。
しかしミラーナの風の精霊に力を借り、行き止まりとなる通路は避けつつ進む、またマークの魔力感知の魔法により魔法型の罠等は看破されていた。物理的な罠に関しても野生の勘なのだろうかアリゼアが気が付くことが多く、例え罠が作動してしまっても、ゲニアの鉄壁、アーディの神速の突きがことごとく真っ正面から罠を粉砕していく。
他のパーティーが苦戦を強いる45階層以降も広さゆえ移動に時間がかかってしまっているが、殲滅の獣は半分もかからずに下層へと続く階段を見つけるのだった。
そこからさらに二週間が経過していた。
ダンジョンの攻略に一月が経過したある日ようやく、最下層へと続く扉を見つけた。
情報にあった通り50階層のボスの部屋へと続くひときわ豪華な扉だった、その扉をアリゼアとゲニアが押し開き殲滅の獣は広間へと侵入する。
10階、20階とボスの間はどんどん広がっている。
その奥に鎮座する黒い山を思わせるような巨大な姿。
それは情報通りの最終階層に居ると言われていた竜。
その体表にはびっしりと鎧のように光を反射する鱗が生えている、一枚一枚が魔力が込められているかのようにほのかに光を放つ。
その竜はムクリと起き上がると空を駆けるための一対の翼を広げ、殲滅の獣を見おろす。
その態度は空の王者にして魔獣の頂点と言う己の細胞がそうさせているのかもしれない。
しかしその竜を眼前にした殲滅の獣達はというと……
「おいアーディよ、お主の遠い親戚がこちらを睨んでおるようじゃぞ?」
「あら、こんなところに居るなんて、何か良からぬことでもしたのかしら?」
「違うんじゃないか?人と接するのが苦手なんだと思うぞ?強面だしな。」
「来客も少ないじゃろう?アーディしばしの時間あった方がええか?」
とゲニア、ミラーナ、マーク、アリゼアの順に好き勝手にアーディをおちょくっている。
しかしとうの本人は――
「……うむ、確かに……暫し皆のもの時間をいただきたい。いざ、尋常に……ハッ!!」
掛け声と共に三又鎗を構え走り出すアーディ。
「ちょっ!? アーディ抜け駆けはずるいぞ!!」
アーディを先頭に殲滅の獣は戦闘を開始する。
走り出した人間達を見た竜も開戦の咆哮をあげる。
「ゴッァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」
先手をとったのは魔獣の頂点ドラゴンだ。
口より炎の玉を吐き出す。暗い闇の炎である、ドラゴンへと走り近寄るアーディ目掛けて放たれた炎の玉は地面へとぶつかると爆発を起こす、その衝撃により周囲へと暴風と破片が飛び散る。
ゲニアは大楯を構え耐えるのではなく、そのまま前進する。
アリゼアも同様に吹き荒れる暴風をものともせず四足で駆け抜ける。
ミラーナは土の精霊と風の精霊を同時に召喚し土の壁を、風を矢へと付与させドラゴンへ向け矢を放つ。
アーディもこの爆風を背に追い風のごとく先程よりも早い速度でドラゴンへと駆けている。
マークはすでに雷纏によりドラゴンの足元へと移動していた。
ドラゴンの最初の攻撃だが、五人は飛んできた瓦礫などによる切り傷などができた程度で、致命的とはならなかった。
殲滅の獣の攻撃の初手はミラーナの矢であった。
風の祝福を受けた矢は寸分の狂いもなくドラゴンの右目へと突き刺さる。
「ギャイ……ギャァァァアアアアアアアアア!!」
ドラゴンの右目からは血が滴り落ちる。
痛みによる咆哮、翼をばたつかせ回りへ強風が吹く。
そのばたつかせた翼の近くに二つの影がひとりは雷を纏い剣にて、もうひとりは遠い親戚とは本当か?三又鎗を持ったアーディ共に別々の翼の根本への攻撃。
鋭さを増す、風装を施した剣で叩き斬った。
鎗に光がが溢れる、サイクロプスの体に三つの穴を開けた神速の突きが放たれる。
空の王者の自慢の翼はマークとアーディによって機能を失った。
その間にもミラーナからの矢はやむことはなく継続的に放たれる。
遅れて到着したアリゼア、背後の尻尾へと向かう。
赤いオーラの立ち上るアリゼア。
「ガァァアアアア!!」
獣のごとき咆哮で普段は使わない爪で尻尾を中半より切り裂いた。
「蜥蜴の用に動きよるぞこの尻尾。」
翼を失ったドラゴン確かに蜥蜴のようにも見えなくはないが……
最後に到着はゲニア自慢の大槌を振るいドラゴンの鱗を砕いていく、魔法に強い鱗も打撃、斬撃は効果がある、といっても並みの魔獣より遥かに高い防御力であるのだが。
ゲニアは滅多打ちにし鱗の鎧を粉砕していく。
矢や精霊魔法、剣による斬撃、鎗による突き、大槌による打撃、魂の拳様々な攻撃をドラゴンは受け、次第に動きが鈍り鱗が剥がれむき出しとなる。
「雷よ、我が望は、雷の神にして、戦神の怒り、鳴る神轟く者なり、電霆ッ!!」
ダンジョン内であるにも関わらずドラゴンの頭上には暗い雲が現れ、一筋の紫電がドラゴンへと直撃する。
いかに魔法に対して強いドラゴンでも自慢の鱗が砕かれた状態では自身を守りきれず、プスプスと黒こげとなり煙をあげて地面へとひれ伏したドラゴンそして他のボス、ダンジョンに出る魔獣と同じように光の粒子へと姿を変えていった。
「終わったわねぇ~これでようやく帰れるわね♪」
「そうだな、大分ダンジョンにも潜っていたことだし、昇格の報告をしたら、休みとしようぜ、いいだろアリゼア?」
「こがいな窮屈な場所からさっさと撤退じゃのぉ。たんまり魔石もあるし、休暇もええじゃろう。」
こうして殲滅の獣はSランク昇格試験の迷宮攻略を終えるのだった。
ドラゴンの居た場所に魔石と魔方陣が現れた、ダンジョンの最下層のボスを討伐すると地上へと送り届ける魔方陣が今までの御褒美ではないが現れるのだ。
そそくさと魔石の回収を済ませ、帰り支度をしていたのだが………
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