師匠の過去 殲滅の獣その2
ルフディフスダンジョンへと消えて行った殲滅の獣は順調にダンジョンを攻略していた。
ダンジョン内は魔光石と呼ばれる石によってある程度の明るさが保たれている、さらに言えば今までの人類の積み重ねによりこのダンジョンも45階層までの経路が判明しているため、最短距離を進む殲滅の獣。
このダンジョンは10階層ごとに階層主が居るのだが、そのボスもこのメンバーからすると肩慣らしとなっていた。
10階層ボスの間
待ち構えているのはキングゴブリンと取り巻きのゴブリン上位種が待ち構えていた。
「この階層は私が行くわね。」
先頭に出たのは癒姫ことミラーナ、得意の弓を構え走り出す。
「契約せし、風の精霊シルフィ、我が魔力を対価とし、聞き届けよ。回りの邪魔なゴブリンを倒して!」
精霊魔法を発動し、ミラーナ自信も構えた弓でコブリンキングを射る。
ゴブリンキング意外のゴブリンは旋風に襲われ、体をバラバラに切り刻まれ絶命。残ったゴブリンキングもなにもできずに眉間に矢が刺さりその場で膝をつき、光の粒子へと変わったのだった。
「シルフィありがとう♪ まぁこんなもんかしらね?」
「お疲れさん。このランクの魔獣だったらそんなもんだろ。次は俺の番だからな。」
普段とかわりないパーティーのメンバー、Sランクの昇格試験にも関わらず、次は俺だと話すマークケイン。殲滅の獣はダンジョンの階層主の挑戦権をじゃんけんで順番を決めると言う手段を取っていたのだ。
普通の者達であれば役割ごとに仕事をこなし、討伐し先へと進む。魔獣と戦うと言うことは命の危険があるのだが、どこかゲームのようなそんな印象を受ける、アリゼアの下調べにより出てくる魔獣と自分達の実力、格の違いを見せつけるよう。
ちなみにその順番だが、10階ミラーナ、20階マークケイン、30階アリゼア&ゲニア、40階アーディ、50階の最終地点のボスは全員でと言う順になっているようだ。
快進撃は止まらなかった。
20階層ボスの間
待ち構えていたのはトロールと取り巻きのオークの編成だった。
「雷纏」
マークケインは雷魔法を身に纏い、愛剣を握りしめその場から消えるように敵へと接近し舞うように剣を振るい、オークの首が飛ぶ、倒すごとに光の粒子へと変わる。
取り巻きのオークはものの数秒消滅。残るトロールも巨体が仇となり、スピードを活かした戦闘方法のマークケインをとらえることができず、トロールは体を走り上られ顔の位置まで接近を許す。
「火よ、破壊を司る、熱の解放、フレアバースト。」
火の魔法による小規模な爆発を顔で受け半分が吹き飛ぶ。
爆発音と共にパーティーの元へと戻ったマークケインはボスであるトロールを一見することなく愛剣を鞘へと戻す。
するとトロール光の粒子へと変わったのだった。
「決まったな、今の俺かっこよかったよな?」
回りのメンバーに確認をしているがカッコつけたがりなマークを無視し先へと進む。
「ご苦労の一言くらいあってもいいだろ? つれないやつらだな。」
ひとりごちりなが追いかけるマークケインであった。
30階層ボスの間
待ち構えるは二体のゴーレム三メートルはゆうに越え、岩の体である。
ここは二人で相手をするアリゼアとゲニア。
ここのボスは少々特殊で二体のゴーレムの核を同時に破壊することが条件としてあるようだ。なぜそのような仕様なのかは謎だ。
「やっとわしの出番じゃのぉ。」
「わしも退屈だったからの、暴れるぞ。」
アリゼアは身体に魔力を滾らせ、毛が逆立つ。
ゲニアも大槌を片手で掴み、肩に掲げて不適に笑う。
「「グォォオォォォォ」」
二体のゴーレムが雄叫びをあげる。それが開戦の合図となりアリゼア、ゲニアが走り出す。
通常この二人はパーティーでタンクの役割を果たし、敵の攻撃を引き付け、ミラーナ、マーク、アーディの攻撃させるための時間を稼いだりするのだが、今回は二人とも同じ作戦を取ったのだ。最終的にゴーレムの核を同時に破壊すること……その作戦は至極単純、一対一による殴り合いを選択したのだ。
アリゼア、ゲニア共に殴り合いを開始する、ゴーレムと張り合う大馬鹿者達、回避という選択肢はなくただ己の武器で殴り会うのみ……次第にゴーレムの体にヒビが入っていく。
そして足が崩れ、腕が粉々になり核を守るよう覆われていた岩がゴーレムの形を保つことができなくなり、核を露出してしまう、いや核だけが残った。
「ゲニア!!」「おうよ!」
二人は剥き出しとなった核を同時に破壊したのだった。
アリゼア、ゲニアと歩みよりハイタッチで互いを称えるがゴーレムと張り合った二人は顔に腫れやアザ肋などにはヒビが入っていた。
「あんた達誰が回復させるのよまったく……」
睨むミラーナ、しかし二人は解くに気にした様子はなく、久々に良い喧嘩をした程度にしか思っていないのだろう。
「契約せし、命の精霊ラヴィ、我が魔力を対価とし、聞き届けよ。大馬鹿二人の傷を癒して。」
アリゼア、ゲニア共に淡い光が体を包むと傷が癒えていく。癒姫の本領は精霊魔法の攻撃や、弓による遠距離からの攻撃でもない、光の回復魔法を越える命の精霊による癒しなのだ。
40階層ボスの間
待ち構えるは巨大なこん棒を携えたサイクロプス、単眼の巨人である。
殲滅の獣最後のメンバー三鎗聖のアーディだ。
「拙者の出番、いざまいる。」
アーディのもつ三叉鎗が輝きを放ちだす、竜人族に伝わる技法で作られているらしく、ゲニアですらその武器の調整はさせてもらえない。
一直線に走るアーディにサイクロプスは手に持つ巨大なこん棒を振り下ろす。
「そのような棒っ切れで、それがしを倒せると思うは笑止。」
その言葉と共に三又鎗で巨大なこん棒を受け止め、弾き飛ばす。
竜人といえど体は2メートルほど、その4倍はあるであろうサイクロプスがまさか自分の攻撃を受け止め、弾き飛ばされるとは思ってもいなかったようで後ろへとよろめく。
アーディ追撃はせず、サイクロプスに向け竜の顔で歯茎を見せ笑う、挑発しているのだ。
それに怒り、地団駄を踏むサイクロプス。
「グォォオォォォォ!!」
地団駄でボスのフロアは揺れ、絶叫がこだまする。
烈火のごとく怒るサイクロプスはなりふり構わずアーディに向けてこん棒を振り回す、しかしアーディその苛烈な攻撃を躱し、受け流し、時に受け止め、隙を見ては攻撃をする。
徐々に動きの鈍るサイクロプス、しまいには武器を弾き飛ばされ無手となる。
それが合図となり、アーディより溢れた魔力が三又鎗へと集約され、神速の突きが放たれる……
胸に三つの穴を開けられたサイクロプスはそのまま光の粒子へと変わっていった。
「この光こそ、奴の宿命。」
「カッコつけてるところ悪いんだが、弾き飛ばしたこん棒こっちに飛んできてたからな!!」
「くっ…… 未熟……」
こうして殲滅の獣によるダンジョンの階層主達は討伐されていった。
45階層までの地図が終わり、ここから先は資料もなく、自分達で進んでいく。
ここにたどり着くまで約二週間が経過していた。
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