新たな来客
アリゼアさんが来てくれてから一週間が経過した。ジョージの傷はさらに増えたが帰ってくると師匠は大きな傷だけ治療する、本当にこのやり方で回復のスキルは習得するのだろうか?
僕の方も基礎鍛練は午前中にし、午後からは『魔纏』を使った実践だ。
この一週間で師匠の雷纏や風纏、光纏とさまざまな魔法を『魔纏』を見せてくれた。
中でも同じ風纏は参考になった、供給量や風纏によってどのように動けるようになるのか実際に見ることで得られるものが多かったからだ。
この風纏を軸に魔力の供給バランスを整え闇纏に転用するように訓練した。
そしてここでも健康体による今までの積み重ねがいい結果となった。
魔力量がすでに師匠に匹敵するのではないかと言うことだ。
魔力量の限界値を増やすには魔力枯渇状態から寝る事で回復する、その際に最大値が少し高くなる。健康体は不調を治すように、健康な体に戻すべく寝ている間の魔力回復量が尋常ではないみたいだ。
魔力量のごり押しで『魔纏』の訓練時間が長くできるのだ。
常に魔力を供給し続けるため『魔纏』は上級冒険者の切り札としてあるものだと言うことだ。
魔力枯渇により動けなくなるのは戦闘中に起きてしまっては命がいくつあっても足りないからね。
そして今日の訓練を終えようとしていたときに新たな来客があったのだ。
「ん? なにか感知に反応があるな、数は3つか?」
師匠の魔力感知に反応があったようだ、僕も魔力感知に意識を集中させ波紋を広げる。
確かに3つの反応がまっすぐこちらに向かってくる。しかし炎の翼ではないと思う……今まで感じたことの無い魔力なのだ。
『魔纏』を習得するために日々訓練していて気がついたのだが、魔力感知にも影響があるようで以前よりも感知した魔力が何であるのかがわかるようになった。
しばらくするとガサガサと森をかきわけるようにして、騒がしい三人組が現れたのだ。
しかし現れたのが北東方面から、ルダボスカのある北西側が一番ここまでの距離が短く、安全であるのだが……何者なのか……
「まったく、そんな短い手足だからここまで来るのに時間がかかったんじゃない。」
「なーにをいっとるか、お前さんが精霊がと見えもせんもんにうつつを抜かしておったのが悪かろう。」
「精霊様たちを侮辱する気!? あんただって寝酒とかいって朝まで飲んでるからあの程度の魔獣に遅れをとるのよ。」
「あれがわしの戦い方じゃ! 昔から変わっとらん。そんな細かいこと言っとるから、色気が出んのじゃ。」
「はぁ? 樽みたいなやつに言われたくないわよ!」
「…………………。」
ドワーフと思われる大槌を背負った髭もじゃと金の流れるような髪の絶世の美女、耳がとがっているのでエルフの2人が異世界の例に漏れることなく、罵り合っている。
その側にもう一人これまた絶世の美女だ、しかし先程のエルフとは見た目も違う、唯一耳が長いのが同じだ。こちらの髪は藤紫色で褐色の肌、そしてグラマーだ。
前者のエルフはスレンダーな体型だ。
ゾクッと睨まれた気がする……あれだけ罵り合って居たのに負のオーラが漂った気さえする。
出てきた三人組に師匠が声をかけた。
「ミラーナ! ゲニア! 来てくれたのか。」
名前から師匠の元パーティーメンバーであるが一人は名前を呼ばれなかったから、知り合いではないようだ。
「久しぶりじゃの、マークまだくたばってないみたいじゃな。」
「久しぶり、貴方からの呼び出しなんだから来るに決まってるじゃない♪ 来る途中で珍獣と遭遇したのが旅を台無しにしたんだけどね。」
「お前たちは相変わらずだな、安心した。アリゼアも来てくれてるんだ。でその子はどちらさんだ?」
やはり師匠も知らなかったようで、確認するとミラーナさん回答する。
「この子はレイよ、タイタン帝国で出会ってから共に行動してるのよ。ほらレイ自己紹介くらい自分でしなさいよ。」
「…………レイミューラ・グレイシア。」
ボソボソと聞こえるか聞こえないかの声での自己紹介だった。
「レイ~せっかく可愛いんだからもう少し頑張りなさいよ。悪い子じゃないから許してあげて。」
レイと呼ばれた子と目が合う。
「…………貴方も半端者なのね。」
半端者?と首をかしげてしまった、自分を指差して見るとミラは頷いている。
「ヴァン、指輪を忘れてるぞ。」
師匠の言葉そこでようやく気がついた、気が抜けていたのかもしれない……隠蔽の指輪を外し特訓していたので、左目が赤い色なのだろうそれで半端者と呼ばれたようだ……そして秘密にしていたことがばれてしまった……
「この小僧がマークの手紙にあった弟子ってことかのぉ?」
「半魔なのね、色々大変だったでしょう? 安心して私達が何かするってことはないわ。」
「まぁそこら辺の突っ込んだ話はあとでするとして、とりあえずヴァン自己紹介。」
半魔を気にする様子も無いゲニアさんと何かものすごく心配してくれてるミラーナさん。
「えっと、ヴァン・アルカードです、師匠の元でお世話になってます。冒険者ランクはEです、よろしくお願いします。……こんな感じでいいですかね? 師匠」
「まぁいいんじゃないか? あともう一匹と言えばいいか、ヴァンの従魔のジョージも居るんだがもうすぐ戻ってくるだろう。」
そんなタイミングで獣たちは帰ってきた。
「懐かしい顔がおるじゃないか。」
ジョージは僕の元に走ってくるなり、僕の背中に装備される。
「いいタイミングで帰ってきたな。ヴァンの背に居るのがさっき話したジョージだ。一応戦闘猿の幼体だ。」
「幼体ってなによ? それにバトルコングを従魔にってどうなってるの?」
「ミラーナそこら辺も話すと長くなるから、とりあえず立ち話もなんだ、狭いが俺の家に向かおう。積もる話もあるだろう?」
「そうじゃな、わしやなが耳が何をしてきたのかも伝えた方がいいと思うしのぉ。」
「うっさい、樽、私の何がわかるのよ!」
またミラーナさんとゲニアさんは罵り合いを始める……。
師匠もアリゼアさんも止めることなく家へと向かうのであとを追いかける。
その後ろをレイが続く、最後尾では未だにガヤガヤと騒ぐ2人。
そして知ってしまうこととなる殲滅の獣がなぜ解散したのかを……
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