まだまだ未熟
「おお、おったけん、坊主久しぶりじゃの。」
そう猛スピードでこちらに近づいて来たのは師匠の元パーティーメンバーで本部ギルドマスターのアリゼア・ゴストーニこと熊さんだった。
違った熊の獣人ことアリゼアさんだ。
僕の秘密を知る数少ない味方といっていい存在だ。
「お、お久しぶりです。」
「しっかしお前ら、辺鄙な所に住んどるな。マークはどこに居る? わしは呼ばれてきたんじゃけど。」
師匠がここに戻ってきたときに鳥形の土人形を飛ばしていたなたしか……3~4匹飛ばしていたように思うのだが、たどり着いたのがアリゼアさん宛の手紙だったのかな?
「師匠ならジョージと一緒に周辺の魔獣の討伐に出ています、夕方には戻ってくると思うのですが。」
「ん? ジョージたぁ誰のことじゃ?」
「ジョージは僕の従魔で戦闘猿の事です。」
本部のギルドマスターだから従魔登録の件とか伝わってないのか? ルダボスカのみで別の町に行ったときには再度登録とかしなきゃいけないのか……
「あぁ思い出したでぇ! 戦闘猿の従魔登録がされたって大分前に話が上がっとったな、それが坊主じゃったのか?」
独特の訛りと近距離のでかい声が響き渡る。
「そうです。今は別々の修行をしているため近くには居ないので紹介できないのですが……」
「そりゃおかしいけん、何で別々で行動できとるんだ? 坊主の従魔じゃろ? マークの指示にしたがっとるのか?」
おかしい? 何がおかしいのだろうか? この二週間朝と夜だけ一緒に過ごしては居るが、その他は師匠の指示にしたがってジョージは戦闘漬けである。
うちの子はいい子なのだ。
「まあええか、時間もある、坊主の修行でも見よってやるとするか。」
質問に答える前に師匠がいつも使っている椅子へと移動してしまったアリゼアさん。
見ててもらえるのであれば『魔纏』のアドバイスをもらえるかもしれないしね。
アリゼアさんが見ている中『魔纏』の修行を再開する。
この二週間で出来るようになった闇纏から風纏をして、魔力の供給が不安定にならない程度に集中力を高めて動く。
それを繰り返しているといつの間にか隣までアリゼアさんが来ていた。
「ようそこまで努力したな、感心するでぇ。けど坊主なんでわしに傷を追わせたあの魔法で『魔纏』をやらないんじゃ?」
「あの魔法って影魔法の事ですか?」
「そうだ! あれだけ馴染んどる魔法をなして使わんのじゃ? もったいなかろう?」
アリゼアさんの言う通り僕の適正魔法には火、水、風、土、闇のこの世界にあるものの他に影魔法と言う特殊な魔法が使えるのだが……占いの館のオババさんの時に暴走してからは月蝕の時に出てきたくらいか? 影の魔法を使うぶんには今までかなり便利であったし、強力な魔法だ。しかしこの『魔纏』はかなり繊細に魔力から、魔法までをコントロールしなくてはならないその事から試すことに躊躇していた。
「そうですね……今まで試したことはなかったです。暴走することがあってはならないと思ってまして。」
「じゃけぇマークはわしを呼んだのじゃろう。マークが帰ってくるまで見てるだけは暇じゃ、わしが相手しちゃるかかってこい。」
アリゼアさんの来た理由は僕に関係があるってこと?
さらにそこからかかってこいって戦闘訓練ってことなのかな? 見える範囲でアリゼアさんは僕から離れて向かい合うかたちになった。
アリゼアさんの唐突な行動に困ってしまう。そんなことを考えていると。
「準備は出来たか? わしからいくでぇ!」
それが合図となり、10メートルは離れたであろう場所からその巨体からは想像できないスピードでこちらに殴りかかってきた。
僕までの到達に要した歩数は三歩、その勢いのまま右の拳が上から振り下ろされる。
僕の出来た行動はとっさに腕をクロスさせ、身体硬化の無属性魔法でその一撃を耐えることだった。
ゴンッ!!っと人と人がぶつかった音ではない衝撃音が辺りに響く、アリゼアさんのパワーをもろに受けた僕の足元は地面にめり込み、そこを中心としたひび割れが地面には発生していた。
「ほれほれどんどん行くけぇの!!」
そこからアリゼアさんのラッシュが始まった、左フックを右腕に左手を添え受け流し、右の拳が下からアッパーを上半身を反らし躱すと同時にバックステップで、距離を開けるために離れるのだが、アリゼアさんがそれをさせてはくれない。
距離を積めるように迫るアリゼアさん両手で掴みかかってくる、とっさに足元へ回し蹴りをするも巨体に似合わず軽快な身のこなしでジャンプし避けられる。
空中に居るアリゼアさん重力に逆らわず両手を組んで叩きつけてきたダブルスレッジハンマーを転がるようにして回避する、勢い余って地面を殴り付けるアリゼアさんその衝撃で陥没する……これは戦闘訓練なのだろうか?
一方的に攻撃をされ弾く、受け流す、回避するといった防御を中心にひたすらに耐えていたのだが、徐々にアリゼアさんの攻撃を捌くことができなくなり、捕まったそれも両腕胴体をまとめての絞め技鯖折りだ……これぞまさしく熊式鯖折り逃げようにもアリゼアさんの力が強すぎて体からミシミシと聞こえてはいけない音が……
「ア、アリゼアさんギブアップです!!」
そこでようやく解放される。息が乱れ、その場にへたり込んでしまう。
「なして魔法を使わんかった?」
息を整えながら、なぜか……
「純粋に魔法を使える状況になりませんでした。アリゼアさんの攻撃を耐えるのでせいいっぱでした。」
「まだまだ甘いな、マーク達と旅をしとった頃は何でもありじゃったぞ? でもこの短期間で別人のように動けるようになっとるのぉ、まぁわしを相手にするなら、影の魔法を使うか、『魔纏』を使うべきじゃのぉ。ガーッハッハッ」
元Aランクにして本部ギルドマスターはまだまだ底が見えなかった、この世界上には上がいることを改めて知る機会となった。
その後も二度ほど体術のみでアリゼアさんに戦闘訓練をしてもらうも、二回とも最後はベアハッグで仕留められるのだった。
大の字で広場に倒れていると感じ慣れた魔力が二つ近づいてくる。
師匠とジョージだ。
「マァーク!! 遅いでぇ!いつまで待たせるつもりじゃ。」
「アリゼア来てたのか。」
なんとも淡白な返しの師匠、大の字になっている僕の元にジョージは近づき、ツンツンしてくる。今日のジョージも傷だらけだ。
「ヴァン立て、アリゼアに来てもらったのも理由があるんだ。とりあえず家に帰って飯でも食べながら、話すとしよう。」
アリゼアさんの来た理由を聞くためと腹ごしらえのために師匠の家へと帰るのだった。
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