訓練、身体硬化
秘密を打ち明けたその後も炎の翼のメンバーはなにもなかったように、いままで通りに接してくれた。
とてもできた人達だとあらためて感じさせられた。
話した内容で寝たきりだったと言ったときにはあちらの世界にも呪いがあるのだなとか、今の武器を扱うヴァンを見たら想像できないとか色々と心配はされたけどね。
そんな炎の翼のメンバーもここに三日間滞在し、僕とは模擬戦をしてくれた。やはりBクラス冒険者のパーティーで敗けが続いた。
僕が勝つことができたのは唯一バレットさんに一度だけ辛勝した、能力値で言えば少し上程度、まだまだ経験の差で負けているのだと実感することとなったのだが、近くに目標となる存在が居ることでモチベーションも上がる、その唯一の敗戦をしたバレットさんも悔しかったのか「次来たときは全勝するっすよ!!」と捨て台詞をはいていた。
また闇の魔法について確認したのだが、闇属性の魔法を覚えていないことから、現状の進展はなかった。
闇属性の魔法はリカール商店のおじさんに期待しておきたいところだ!!
ジョージは模擬戦に参加することはなかった、というよりもレベルが低いため、万が一怪我や致命傷になるようでは怖いので見学だった。おとなしく見ているというよりも、観察し、僕達がどのように動いているのか理解しようとしていたのかもしれない。
僕の休憩の時に木の上から見てもいいか聞いて、全体像も把握しようとしていたことにびっくりした。より立体的にみて居るのだから強くなると思う。
全員参加の仮想スタンピード、これは師匠の魔力量に由来する訓練だが、さまざまな魔獣を模した土人形なのだから驚きだ‼️
師匠のように扱える人はほぼ居ないとアンガスさんが言っていたので確かだろう。
この力をもって町を襲ったりされたら、人類の驚異となるだろうなと思ってしまった僕は昨日話したラノベの影響を受けている気がする。
このときはジョージも参加、ゴブリンやホーンラビットなんかのEランク相当の魔物を素手で倒していた。身体強化の魔法をだんだんと使いこなしているので成長著しい。
なによりも優れているのが気配を察知する能力だ、僕を含めた炎の翼のメンバーよりもジョージがいち早く察知し襲撃してくる方向を察知してくれた。
ちなみに気がついた順はデルフィーヌさん続いて僕、アンガスさん、バレットさんの順で判断していた。
まだまだ察知する能力の向上は出来ること、改良することも今後の課題だ!!
また一ヶ月後くらいにここに来ますと三人は町へと戻っていった。戻ってきたときはまた新たな情報が来るだろう。
炎の翼が居なくなってからも修行は続いている。日課のランニングから武器の素振り、魔法の発動の訓練などさまざまだ。
ここ最近午後からはジョージに合わせた訓練が中心となっている。
それも体術主体の訓練だ!! というのもこんなやり取りがあったからだ。
いつものように午前中は武器事の素振りをしてい時だ、ジョージも木の棒で素振りを真似していたのだが、木の棒を置くと師匠のもとへ駆け寄り、師匠に話すのだがこれが伝わらない。困った師匠はほぼ僕に声をかける。
「ヴァンすまないが、ジョージの通訳してくれるか?」
ジョージのこの行動も僕が何か疑問や工夫できるんじゃないかと中断し、師匠に確認をとるのを真似しているようなのだ。目上の人に確認にいくその行動を僕をみて学んだようなのだ。
「ジョージ、どうしたの?」
「(じょーじ、ぶき、いらない、てあし、まほうで、たたかう。)」
そういうと先ほど置いてきた木の棒を持ってきて、僕の目の前でポイッと捨ててから、パンチやキックといった動作をしだしたのだ。
推測するに武器を扱うよりも種族としての戦闘形態が体術よりなのだろう。
「師匠、多分ですがジョージは武器を扱うよりも、体術、それも身体強化の状態で戦うことを望んでいるのだと思います。」
「俺にも最後のジェスチャーで何となく伝わった、元々戦闘猿は自分の体を使って攻撃をしてくるからな、それこそが最大威力を発揮できるスタイルなんだろう。人間に近いとはいっても、武器を使うには不向きな体だったと言うことか。」
武器を使う魔獣も居るらしいのだが、人用に改良された武器は弱かった人間が編み出した自分達の武器なのだ、その逆もまた然り、魔獣は元々強い己の体を環境に適応させ、他種族と戦い進化を遂げてきた、そういった点からジョージの言う手足、体を使った戦闘というのは本能で理解しているのだと。
「今後のジョージの訓練は体術中心でやっていこう、ヴァンも体術だが、身体強化からの派生である身体硬化を修得していこう。」
「身体硬化ですか?」
「あぁ、身体強化を内だとするなら身体硬化は外だ。魔力操作がかなり上達している今なら覚えられるだろう。ジョージは先に身体強化を即時発動できるようにすることからだな。」
「ちなみに身体硬化だが、身体強化したまま行えるようにしないと意味ないからな、不意討ちにも反応できるように出来なければ意味ないからな。」
「身体硬化は外ですか……」
ジョージを見るとすでに身体強化の魔法を使うために集中してるのがわかる。僕の魔力視はジョージの魔力をとらえ体の中を薄く伸ばしておるように見えるからだ。
「言うよりみてもらった方が良いだろう、その目であれば魔力が見えるしな。じゃあ始めるぞ。」
師匠はいつものような即時発動ではなく、僕が視認できる用にゆっくりと体内の魔力を全身へと広げる、師匠の体内に黄色の魔力が満遍なく行き渡ると。
「これが身体強化、これはすでに習得してるからわかるよな?ここからが硬化の魔法だ。」
僕の目には魔力の膜の中にもうひとつの魔力の塊が広がっていき、最初に張った魔力が体外に押し出されたように見えたのだ、そして押し出された魔力は体内から出たにもかかわらず霧散せずに留まった。
「土よ、土壁」
と師匠が土の壁をすぐそばに発生させ、おもむろに殴るとものすごい音とともに土の壁が崩れてしまった。
「身体強化と身体硬化が合わさればこんなこともできる。それに見てみろ、殴った手も異常なしだ。」
魔法で作り出した土の壁はかなり頑丈ではあるが、見せてくれた拳にはかすり傷すらついていなかった。
「今回は全身を硬化したが必要な部分だけの硬化こそがこの魔法の極地みたいなもんだ。極めるならそこを目指せ。攻撃を受けるときにその部分を、攻撃するときに敵に当たるその一部をじゃあやってみろ。」
こうしてジョージの体術強化と僕の身体硬化の訓練が始まった。
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