小猿も魔獣
小猿と手を繋いだ状態で師匠の家を目指して歩いている。
東の森であることを忘れてしまいそうになるくらいとても静かだ。小猿も時おり僕の方を覗きこむだけでおとなしく隣を歩いている。
小猿に歩幅を合わせているので進むスピードはゆっくりだ。
それからしばらくすると小猿に握られた手の力が強まったことに気がついた。
そして魔力感知に反応があった、左側より接近する反応だ。獣型の魔獣であると予想する。
「もしかして怯えてるのかな?魔獣が接近してきてるみたいだから、そこの木の影に隠れててよ。」
少し後ろの木を指差して提案するが……やはり言語によるコミュニケーションがとれていない……僕の顔を見上げるだけの小猿。
魔獣も近づいてきているのでどうしたものかと……。
「大丈夫守ってあげるから、ここでおとなしく待ってて!!」
隠れられそうな木のそばまで来て話しかけるが、指を握る手は離してはくれない、たがここで小猿が首を横に振る仕草をする。
「待つのが嫌ってこと? どうしたい? あまり待っていられる余裕も無いんだけど……。」
魔獣もかなり接近してきているので、守りながらの戦闘になるなと思っていると、小猿が握っていた指を離し動きだす。
その行き先は僕の背中……よじ登ってきたと思ったら背中にしがみついてきた。
「えっと……君はそこでいいのかな?」
コクンとうなずく仕草が感じ取れた。
「これから戦闘になるから出来れば離れてほしいんだけど、安全のためにね!!」
今度は横に首を振る……。言葉は理解してきたと言うことだろうか?
「これから出てくる魔獣にもよるけど、かなり激しく動くことになるかもしれないから、しっかり捕まっててよ!!」
背中にしがみついた手足に力が加えられるのを確認した。
やはり言葉を理解するくらいこの子のは頭がいいらしい。
左側より魔獣が現れる細い木々をなぎ倒しての登場だ。
「ブゥモモモォォォォォォ!!」
岩の鎧におおわれたロックボアと呼ばれる大きな猪だ。見た目の巨体を生かした戦法をとってくるだけではなく土属性の魔法も使ってくるのだ。
魔力視に反応、茶色い魔力を確認する初手でロックバレットの魔法がこちらを狙って打ち出される。猪らしく猪突猛進で突っ込んでくれればいいのにとこのときばかりは思うのだった。
背負った小猿がいなければ身体強化で打ち出される前に横へと飛び抜けるのだがどれ程動いていいのかわからないので、魔力障壁による防御で対応することにする。
魔力障壁のサイズや強度など魔力量で様々に対応可能だ。目に見えるロックバレットの数と障壁の展開数を合わせ、魔力も同程度込める。
パリンパリンパリンパリンパリンと魔力障壁の割れる音、それと同時にロックバレットの方も消えたので打って出ることに。
「風よ、見えざる刃、敵を切り裂け、ウインドカッター」
不可視の風の刃がロックボアを襲う。
しかし岩の鎧におおわれた体には致命傷は与えられず怒らせただけのようだ。
「ブゥモモモォォォォォォ!!」
雄叫びをあげ、一直線にこちらへと走り出す。
「土よ、大地に変化、敵を陥れる、ピットフォール」
ロックボアの直線上に落とし穴が出来上がる。
怒った猪だ止まることかなわずそのまま穴へと落ちていく。
近づき落とし穴の中を確認すると巨体がひっくり返りジタバタとしている。
そこへ止めの影魔法のシャドースピアを放ち無事に討伐した。
落とし穴を同じく土魔法のアップリフトにて隆起させてロックボアの魔石を取り出し、マジックバックへ入れる。
戦闘中も、倒した後も小猿は背中にしがみついたままだった。
「終わったから、降りておいで安全なところに向かうよ。」
しかし小猿は降りる気配はなく、横に首を振る……まぁいいか、おんぶしたまま師匠の家へと向かう。
その後は魔獣との遭遇もなく、師匠の家へと向かっていたのだがもう少しというところで小猿が背中から飛び降りたのだ。
「どうしたの?」
上目遣いで見てくる。かわいいのだがなぜ降りたのかわからない。
「おいでこの先に安全なところがあるから!!」
しゃがんで手を出す。回りをキョロキョロ見回すだけで動く気配はない。
近づいて手を握り進もうとすると。
「キキーキー」
とはじめて声を聞いた、そして僕を引っ張るように師匠の家とは反対方向へと引きずるように引っ張る。小猿と思って侮っていたが見かけによらず力が強く、少し引きずられてしまう。
「止まって!! ちょっと君止まって!!」
ようやく止まってくれたのだが、なぜこんなにも拒否するのか……見当がつかない……言葉が通じればとは思ったが無理だろう、意味は通じても小猿はまだ生まれてまもないと勝手に思っている。何せ囲まれていた同型の大猿に比べて小さいのだ大人になれば大きくなるとは思うけどね。
「あっちが嫌なの?」
師匠の家の方面を指差す、小猿は頷く。先程の魔獣の気配を察知していたことに気がつき質問してみる。
「この先に魔獣が居るのかな?」
すると首を横に振る、事前に魔力感知でこの周囲に魔獣はいないことは調べていたので僕の魔力感知よりも制度が良いと思ったから聞いたのだが違った。
「じゃあこっちの方面は行けるかな?」
師匠の家とは違う北側を指差すと頷いてくれた。遠回りになるがそちらに進んで行くか。
進んでは止まり、確認してと進むと師匠の家を中心に円を描くように進んで元の位置に戻ってしまった。
ようやく理解したのだが、この小猿は魔獣避けの魔導具を避けているのだと気がついた。
「よく聞いてね、君が嫌なのはこれのせいかもしれないんだ。取り出すから見てほしい。」
繋いでいた手を離してマジックバックから休憩をするため用に持ってきた魔導具を見せると小猿はその場からすごい勢いで離れ木の裏に隠れてしまう。
やはり魔獣避けの魔導具が影響していたみたいだ。
その場に魔導具を置いて、小猿のいる木の裏に近づく。
「大丈夫だよ、あれは……」
何て説明したらいいんだ?魔獣が嫌がる道具って説明しても伝わるのか?そもそもこの小猿も魔獣なのだからそれに反応していたのだ、これから師匠の家で一緒に暮らすならあれの克服をしてもらう必要が出てくるよな……とりあえずなんとなく説明しておこう。理解してくれるよな?
「あれはね、僕たち人間が作った道具なんだけど、魔獣が嫌がる魔力を出してるだけで害はないよ!!」
腰にかけてある剣を指差し
「これも僕たちに必要な道具。」
飛竜の胸当てやグリーブ、ブーツを指差しながら同じ道具なんだよと説明してみる。
「あの道具があれば襲われることが無くなるんだ、君を攻撃していた大猿たちも近づかないから、安心できると思うんだけど……」
なるべくわかるように伝えたつもりだが……どうしたものか……
「置いてあるやつはまだ起動してないから、一緒に取りに行くことからやってみようか?」
小猿は僕の顔と魔獣避けの魔導具を交互に見ている。
小猿が歩いていたときのように背中にしがみついた。
「近づいてもいいのかな? 」
コクンとうなずくのでまずは起動していない魔導具のところに近づく、だんだんと肩に捕まる手の力が増していく。
「大丈夫、大丈夫、攻撃したりしてこないから。僕たちが他の魔獣に襲われないようにするためのものだからね。」
短い足で僕のお腹をがっしりホールドして肩越しに道具を見ている。
「嫌だったら首を振ってね、あの道具を拾い上げるよ? いいかな?」
反応はないのでいいんだろう。
地面に置いてある魔導具をゆっくりと拾い上げる。足のホールドはより強くなったが、逃げ出したりはしない。
「大丈夫だから、今度はこれにさわってみる?」
おそるおそるだが、手を出したり引っ込めながらようやくさわることができた。
「ほら大丈夫だったでしょ?これと同じものが向こうに置いてあるんだ。僕に捕まってていいから頑張れるかな?」
そしてしばらくすると決心したのか頷いた。
ゆっくりと「大丈夫?」と質問しながら師匠の家に向かって進む。
空が茜色に染まる頃ようやく師匠の家にたどり着くことができたのだった。
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