はじめての〇〇
グランデさんに捕まり、未だにギルド裏の解体場に居るヴァンです。買い取ってもらったら別の依頼をしようと思っていたのに強制的に解体の作業しています。
食べれる食べられない関係なく魔獣は血抜きされ、部位ごとに解体、収納されます。それぞれの班ごとに別れ、流れ作業でスムーズにやるようです。いや、現在進行形でやっています。
師匠が来る度に大量の魔獣が未処理の状態で解体場に運ばれて来るので、ルダボスカ解体場では三ヶ月に一度雷騰シフトと呼ばれ忙しくなるそうだ。そして解体の職員さんだけでなく、臨時依頼として解体の得意な冒険者に依頼が出されるそうだ。当然報酬も支払われる。
ほんとはすぐに解放されるはずだったんですよ?最初の一体でやり方をグランデさんが説明しながら一緒にやる解体指導をしていたのですが、手慣れているのと迷いがないことを疑問に思われ、根掘り葉掘り聞かれ……普段から師匠に言われて解体をやっている事、スキルでも解体を持っていることを話すと。「坊主は血抜き後の解体班に入れ。」と有無言わさぬ言動で今に至る。
そこからひたすら師匠のマジックバックから出てくる魔獣を解体していく……途中で臨時依頼を受けた冒険者の人も手伝いに入る……しばらくすると師匠の居た森で遭遇する魔獣では無い魔獣が僕の担当する解体テーブルへと運ばれるようになる…はじめはこんな魔獣も森に居るんだなと思ったんだけど、気がついた時にはかなりの時間がたっていたようで、朝から出ていた冒険者達が続々と本日の報告に、また魔獣の解体依頼としてどんどんと魔獣が運び込まれていたのだ……いつの間にか臨時募集の冒険者は居なくなっていた……なぜ僕は解放されていないのだろうか……
その後もブツブツ言いながら作業を続ける、しばらくすると回ってくる魔獣が無くなったのだろう、残すは部位事の収納作業だけ、それは別の職員さん達の作業、収納がすべて終わるまでぼーっと眺めていると各自クリーンの魔法で綺麗にしている。
「坊主、飯行くぞ!!」
っは!?っとなって外を見るとすでに日は沈み、月光が照らしていた。拉致されて、解体をひたすらしていたら今日が終わってしまった……
「坊主、いつまでそうしてるんだ!! 腹へったから皆で飯に行くぞ。すぐそこの酒場だけどな。」
グランデさんに言われ立ち上がるが、晩御飯も今日は宿で頼んでいないので、嬉しいお誘いなのだがどうしよう…なんて考えていたら、ガシッと捕まれ視界が高くなる。ここに拉致されたときのように担がれたようだ。
「戸締まりだけは頼むぞ。」
数人を残してぞろぞろと酒場へ向かう解体職員と担がれる僕。外に出てからも担がれたままで道行く人の注目を浴びる……2メートルを超える大男に担がれた小柄な僕の図、回りはなぜかタンクトップ率が激高……。
あぁ…子供は純粋だしそれの教育に…「ママーお祭りかな、僕もたかいたかい…「見ちゃいけません」」なんて話を聞いたときにはやるせない気持ちになった……。
さらし者になりながらようやく酒場に到着する。二ツ星の酒場って名前だ……
「マスター、人数分適当に料理とエールを頼む!! 坊主も成人してるから冒険者なんだよな? いける口か?」
「いえ、お酒は飲みません。僕のルールあるので。」
グランデさんはそうか。と呟きそれぞれがテーブルへとつき、エールが配られる。僕は果実水だ。
「今日はオデ達の数少ない楽しみの日だ! 無礼講といこうじゃないか。今日はマークデーで大入も出てるから好きに飲み食いするといい、乾杯!!」
「「「「「乾杯」」」」」
とギルド職員の人達との宴会がスタートする。続々と料理も運ばれてきて、いろんな人と交流した、若いのにあの解体技術は素晴らしいとか、皮の剥ぎ方がキレイだったぞ!! なんて褒められると誰でも気分がよくなるものだ!
半日を通して一緒に仕事をした仲間達。
よく考えるとこの世界に来てこんなにも大勢でご飯を食べたり、騒いだのははじめての経験だ。病院での入院生活でもこんなに楽しんだ経験は無かったかもしれない。
食べる量もすごいんだけど、この解体タンクトップ達はものすごい呑むのだ、特に大男ことグランデさんエールは水の代わりなのか?すると蒸留酒なんかも出てくるし、果実酒などこの酒場の酒を飲み干すんじゃないかと言うほどの勢いだ……
するとはじまるのは……絡み酒だぁ……グランデに肩を組まれながら「冒険者やめて解体班のオデ達と仕事するぞ!」とか「坊主にいつものみせてやれ。」なんて言い出したら酔っぱらいのおじさん達は脱ぎ出したり、宴会芸?がはじまった。そしておおいに笑って楽しんだ。僕もだんだん気分よくなって「ヴァン・アルカード歌います!!」なんて言って地球の世界の歌を歌ったり、酔っ払い達にわかるわけがないが手拍子やら口笛なんかで盛り上げてもらった。そして……………
それがいけなかった油断した。ぶるっと体を震わせる。
「さっぶい……」
目を覚ますと上半身裸で道端で寝ていた……近くにはアザだらけのグランデさんとギルド職員数人も同じように寝ていた……
何があったんだ……とりあえず怪我?を治しておくか。
「水よ、清麗なる母の恵み、彼の者たちを癒せ、水癒」
グランデさんとギルド職員数名のからだが水色の光に包まれ怪我やアザが癒された。
とりあえずそこら辺に転がっていた服をとって着てクリーンをかける。グランデさんを揺すって起こす。
「……ん!?…朝か……仕事だな、ギルドに……向かう…か」
まだ寝ぼけているようなのでグランデさんと呼び掛けるとようやく意識が覚醒したようだ。
「グランデさんあの…この状況は何があったんでしょうか?」
「坊主……お前何も覚えてないのか?」
「皆さんと楽しく食べて飲んで歌って……あれ…何で僕ら外で寝てたんですか?」
「坊主は酒を飲むことを禁止する。俺達の体を……って体の傷がない?それにあれだけ飲んだのに二日酔いも無いぞ…」
自分の体を確認して驚いているグランデさん。
「体は水の回復魔法を使いました。僕は昨日果実水しか飲んでないですよね? えっ!?違うんですか?」
「回復魔法を使ってくれたのか、助かったが坊主昨日の記憶がないんだな? 昨日の坊主は…………」
グランデさんが言うには……グランデさんに肩を組まれ宴会芸を楽しんでいたとき僕のコップが空なのに気がついた気遣いさんが追加の飲み物を頼んでくれたのだ、そうそれは果実酒それをなんの疑いもなく飲んで、そして気分がよくなり歌い出し、歌って喉が乾いたと残りの果実酒を飲み干し、おかわりをしさらに果実酒を飲み、回りに影響され上半身脱ぎ出したと。
そして騒いでおとなしくなったと思ったら、師匠のトレーニングはとか言い出して筋トレとかはじめだして、あげくのはてには今日の分のトレーニングを忘れてた!!では走ってきますって言い出してたそうで……止めに入ったグランデさんと今も転がっている他の職員さんを引きずって走り回って今に至るそうだ……
「なんかすいませんでした。」
「無礼講と言ったのはオデだ、他のやつらも大分楽しんでたからな。坊主は宿に一度帰った方がいいだろ? それに雷騰も心配してんじゃないか?」
「あっ!! 確かにほぼ朝ですもんね……」
周辺の住人さんも起き出して来たのか生活音が聞こえてきている。
「こいつらにも回復魔法してくれたんだろ?」
「はい。」
「だったら寝てるだけで二日酔いも治ってるだろうから仕事に支障はないオデが担いでギルドまで連れていくさ。」
「いろいろとご迷惑おかけしてすみませんでした。」
ニカッと笑ったグランデさんは
「大丈夫だ!! 気にするなとさっきも言っただろ!! 昨日の報酬とか渡すのがあるから、ギルドには顔出せよ。」
「わかりました、ありがとうございます。」
小鹿亭に急いで戻るべく、走り出す、止まって、振り返り手を振って駆け出す僕、そして止まってグランデさんの所に駆け寄り。
「グランデさんすみません……小鹿亭はどっちですかね……」
ここの路地裏?住宅街初めて来た場所で、どこかわからなかったのだ……
「……あぁ、この道をまっすぐ突き当たりを右に向かうとギルドとかのある大通りに出るぞ。」
今度こそ小鹿亭に向かい走り出す、「ありがとうございます」と手を振って、見なれた道に出たので一安心する。
小鹿亭に向かっていると見知った後ろ姿を発見する、師匠だ。頭をおさえているし二日酔いかな?隣に並ぶ。
「えっと…師匠、おはようございます。」
「……ヴァンか……ん!?お前どうしたこんな朝早くに……」
昨日の師匠と別れたあとに何があったのか説明しながら小鹿亭に入るとヴェルダさんとエリーセが朝の準備をしていた……
「まったくこの男どもは、二人揃って朝帰りかい!!師が師なら、弟子も弟子だねぇ~、ヴァン少しは男を磨けたかい?アッハッハッハ」
「ヴァン、サイテー!!」
エリーセには睨まれるし、捨て台詞をはいてどっかに行ってしまった……師匠は頭に響くから大声はとか言いながら部屋へと戻っていく……
僕はやましいことしてないのに……なぜサイテーなんだと肩を落として師匠あとを追ったのだった。
ヴェルダさんの笑い声だけが響いていた。
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