やるべき事ともう一度町へ
昨日の夜、寝るまえに色々と考えていた。
やはりこの世界で不自由なく生きていくには力が必要だということ。魔獣がいることによって弱肉強食に近い環境になっているとドラゴンと戦って思ったのだった。Aランクで手も足もでなかった……Sランクという災害クラスの魔獣も居ると帰り道に教えてもらった。
もう1つの問題は僕の種族特性の血の呪い?今回は暴走までいかなかったが、Aランクドラゴンを軽くあしらうような影の魔法、あの力を自分で制御できるようになればこの世界の魔獣に対抗できると思う。それにトカゲ……はドラゴンの事だし、ウツワ……は僕のこと、ジャクシャ…トウタ…は弱者は淘汰されるでいいのか? この世界に順応しなければ滅びてしまうって解釈でいいのかな? これもヴァンパイアの理念なのかもしれない……魔族で魔獣と同じ扱いを受けていた過去のある種族だもんな……となると力をつけなくては血に認めてもらえないってことだよね……今もこちらの世界に来たあともやるべきことは変わらない、力をつけなくてはダメってことだ。師匠との訓練もそうだけど、闇と影の魔法も積極的に使って、試行錯誤して覚えていこう。
そんな考え事をしていると眠気に負けて寝てしまった。
翌朝いつもよりも体調がいい、魔力枯渇してしまうほどに疲弊した体が嘘のようだ。健康体の恩恵なのだろう。それに魔力量も若干だが増えているようにも感じる、気のせいかもしれないが……
下に降りると師匠はすでに朝食の準備をしていた。食事は僕の担当なのにどうしたのかな?と疑問に思ったが師匠が言うには
「おはようヴァン、昨日の魔力枯渇で起きてこれないと思ってたが特殊スキルの性能は伊達じゃないな。それに魔力量も増えてるぞ!! 」
やはり気のせいではなく魔力量も増えているようだ。
以前魔力の回復に安静にしていることで少量ながら回復する、睡眠が魔力回復に最適であると聞いていたが、ある程度魔力量が上がると、一日の睡眠だけでは回復しきらない事が出てくるそうだ、魔力量がBランクを越えた頃から個人差こそあるものの完全に回復しないという事が起こる。細かく言えば回復量にも個人差があり、ほぼ同じ魔力量であっても違うそうだ。
さらに付け加えられた情報は、魔力枯渇までいってしまうとさらに回復速度が低下してしまい、数日にわたり回復に勤めなくては完全回復しないらしい。
魔力枯渇まで魔力を使用することで魔力量が増えるという研究がされ、結果も出ているらしい。しかしそれもCランクまでが効率が良く、Bランクまで上がると低下した回復量と増える量の効率が悪いということで魔法を使い冒険する者でこの方法を使うのは駆け出し、初心者達がやるレベルらしい。
この事を踏まえるとレベルと種族特性などで魔力数値がBランクで魔力枯渇したにも関わらず一日の睡眠で完全回復した僕の健康体のスキルはかなり異常なものである事、まだまだ魔力量を増やすことが出来る。魔力枯渇まで魔力を使いきり寝ること。
つまりは今までとなにも変わらないってこと。ここに帰ってきてからの一週間でやって来たことを繰り返す事で強くなれる道を辿っていたのだ。師匠の指示でやっていたことだけど、理にかなった指導であること、そんな師匠について行けば強くなれると思う。さすが神様だ!! 師匠を選んでくれたことを感謝するのであった。
今日も今日とて修行するのだ。常に身体強化した状態を保ちつつ、様々な武器による素振り、平行して動く的を駆けながら魔法で撃ち抜き、魔力枯渇までひたすら魔法を使い寝る。
この修行も一月も続けると素振りに大柄な武器も加わった、魔法の撃ち抜きも変わって実践訓練さながらの師匠の土人形との戦闘訓練、この戦闘訓練も最初は一対一でよかったのだが、最近では一対多がメインだ!! それと一ヶ月に一度ぐらいの頻度で炎の翼がやって来て、模擬戦をしてくれる。人間相手となるとやはり土人形達とは違い反応速度や思わぬ攻撃、経験をいかした策にまんまとやられるなど、勉強になることが多かった。僕は魔獣を相手に戦うというリスクを負うことなく(それなりに怪我はしている)充実した日々はあっという間に過ぎ去って三ヶ月がたっていた。
炎の翼とも模擬戦を通して大分打ち解けたと思う。
アンガスさんは顔に傷がある強面なんだけど、甘党だったり、美人のデルフィーヌさんは実はエルフだった!!そのデルフィーヌさん最近ボディータッチが多いのだ、なにかと抱きついてくる。軽い感じのバレットさんもあんな話し方だから適当なのかと思ったらものすごい努力家だったりと僕のことを弟の様に接してくれる素敵な人達だ。
秘密を打ち解けるまではいってないのだけれど、そのうち話せる日も来るかもしれない。こればかりは危険に巻き込んでしまうかもしれないから、慎重にならざるを得ないのだ。
そして以前よりルダボスカの町へ向かう時期になったので、師匠と共に町へ向かうことになった。
ここ中層は師匠が先頭に駆け足でいくが、直線だ以前のようにジグザクジグザグと魔獣を避けながら進むことはしない。このときも魔力感知は発動しているし、魔力視も使っている。師匠の動きをトレースするようにだ効率のいい魔力変動はやはり師匠が一番うまい。近くに手本があるなら、それを真似しないなんてもったいない。ただ真似するだけではコピーになってしまうので、それを自分のものにするために良く考えろが最近の師匠の口癖だ。
前方より三つの魔力反応だ。
「師匠前方より三つの反応があります。」
「ヴァン正確には四つだ。三つの反応の奥の少し離れた所に一つあるはずだ。」
もう一度魔力感知を発動し波紋を前方のみに飛ばす。……三つの反応の奥に確かに一つ別の魔力反応が合った。前三つと奥の一つでは魔力に違いがあるために気がつかなかったようだ……。
まだまだ師匠には追い付けないなと落ち込むが、すぐに切り替える。こちらも走っているし、向こうもこちらに向かっていることからみるみる距離は縮み、会敵三匹のフォレストウルフだ、緑色の体毛で一メートルほどの大きさでこの森に良く居る魔獣だ。
「ガルルルル」「グルルルル…」
僕らを見つけ威嚇しているようだ。
「ヴァン左の一匹を任せた。」
「了解です!!」
左へ駆けながら詠唱「風よ、風弾」空気の圧縮した弾丸を左のフォレストウルフに放つ、狙うは後ろ足のつけねだ。
「ギャンッッ!!」
狙い通りに後ろ足を風弾が直撃し機動力を奪ったのですぐさま接敵首めがけて剣を上段より振り下ろす。そのまま吸い込まれるように首を断ち切った。フォレストウルフは絶命師匠を見ると黒こげのフォレストウルフ二匹がすでに倒されていた。師匠の特殊スキルの雷魔法だろう。
残りの一匹も姿を表す。白い体毛の二メートルほどのダイヤウルフと思われる。毛の色が緑だとフォレストダイヤウルフになるのだ。魔獣にも階級?進化があり、ウルフが環境に適合することで色が変わり、勝ち抜き息抜いたものが成長し体が大きくなるそれによって呼び名が変わるのだ。尚フォレストウルフは単体でEランク群れになるとDランク、目の前に居るダイヤウルフは単独でD~Cランクと個体によって危険度も違う。
浅層で育ち縄張りを広げようとダイヤウルフがしていたのではないかと推察する。まぁこのあと討伐するから結果は魔石を回収されるって未来になるんだけどね。
「グルルルル」
とうなり声をあげながら一定の距離を保ち旋回する、頭もいい個体のようだ。
「師匠、僕に任せてもらっていいですか?」
師匠の頷きを確認したのでこっちから仕掛けるとしよう。
「影よ、彼の敵を、拘禁せよ、影牢」
「ギャ!?」
ダイヤウルフの影が動きだし手足胴口を拘束し全く動きがとれなくなった。すぐに剣で始末する、あっという間の出来事成長していると実感する。倒した四体の死体の魔石を取り除き、死体はマジックバックに放り込んでおく、ギルドで解体してもらうか夜の時に解体しよう。
「しかしヴァンの影魔法は強力だな。」
「えっへへ、でも師匠強力な反面使えない場面や弱体化してしまうデメリットもありますからね」
苦笑いで返答をした。
その後も森を疾走し、遭遇する魔獣を倒しながら、二日目の夜に森を抜けることができた。
今夜はこの平原で夜営をするのだ。
森の中は快適な空間だったのだが中層を抜け、浅層、平原に来てわかったのだか気温が高くなっていた。
この世界にも四季があるようで夏本番を迎える時期ということだ。
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