神様と制御
「……し……く……ん……らず……くん……」
誰かに呼ばれている?
「しらず……み君……」
……やはり僕が呼ばれているみたいだ。だんだんと意識が覚醒していく、がポツンと何もない空間に僕一人がいる。
「ほっほほほ、ようやく目を覚ました、いや交信できたというところかのぉ、久しぶりじゃ潘君覚えておるかの?ほっほほほ」
(この笑い方……それに地球の時の名前ってことは神様だよね?)
「正解じゃ。今はヴァン君じゃったな。」
(神様と話すのは二度目……ってことは師匠や熊さん、に倒されてしまったのか……あんな状態になってしまっては……)
「これこれ、何を勝手に死んだことにしておるんじゃ?ヴァン君は生きておるぞ。今のヴァン君は寝ている状態といっていい、深層心理の世界でわしと念話で会話をしている状態じゃ。」
死んでない?確かあの時オババさんが呪文を唱えて、痛みで意識が薄れて……熊さんを僕の影が吹き飛ばして……そこから急に外で戦闘してる風景が見えたんだ!
二人の攻撃を受け止めて吹き飛ばしたときに、お世話になってる師匠とアリゼアさんを傷つけてしまっていることが嫌で嫌で…でも体がいうことを聞かなくて……それでも師匠の呼ぶ声が聞こえて、そのあとは分からないや……
「ほっほほほ、わしも見させてもらったが、良くあそこまで耐えたものじゃ、魔人と化しても不思議はなかった。」
(神様、あのあと僕はどうなったのでしょうか?)
「あのあととは意識を取り戻してからかの?それであればヴァン君のサポート役、今では師匠かの?その彼が彼自身の持つ最大の技の電霆という技を使って、ヴァン君が黒焦げになり、倒れたんじゃ、すぐに彼が回復の魔法で治療し、君を背負って宿に帰って行ったんじゃよ。」
(そうだったのか……生きてるってことは、そのうち宿で目を覚ますよね、起きた時どう思われるだろうか……無差別に人を襲った僕を……自分でいうのもあれだけどただの怪物だった力も尋常じゃなかった…得体のしれないあの影……)
「何を心配しておる、君の秘密を知っている人々はそんな薄情な者達ではない!! それは君がよく知っているんじゃないのか?何事もなかったように接してくれるはずじゃ。それよりも君はやるべきことがあるじゃろ?」
(………)
「心を鍛えることじゃよ! ヴァンパイア特有の吸血衝動それがヴァン君の場合、破壊衝動として現れてしまっているそれを克服することじゃ。」
(あの時も急に声のようなものが聞こえて…)
「それじゃ、あれはヴァンパイアの血がそうさせたのじゃ、それでも君は彼らを傷つけてしまったことに涙していたではないか、それは潘君本来の優しさがそうさせたのだと思うんじゃ。だからその力を傷つけるためではなく、弱いものや守るべき者のために使うのはどうじゃろうか?」
(地球にいた頃にお母さんに名前の由来を聞いたことがあったな……名は優陽陽だまりのように暖かく、優しい子になってほしいってお父さんと決めたのよって言われたっけ。)
「ほっほほほ、お母さん、お父さんに素敵な名をもらっておったのだのぉ~、それにヴァン君は転生の時にも困っている人が居たら手助けできるそんな人になりたいとも言っておったではないか! その力を克服し、自分の力と変えるのじゃ!!この世界は魔獣の被害など困っておるものも居る、まずは力をつけよ。そして旅に出るのだ。」
(わかりました。僕にできることからやってみます。)
「心配せんでも大丈夫じゃよ、急ぐ必要はない、心も体も君の師匠がしっかり見てくれるはずじゃ。それにわしからも二つの指輪を渡しておくぞ。」
僕の上から光りが降りてきたのでそれを両手で包み込むように受けとる。
「その指輪は制御の指輪とでも名付けておこうかの、あの種族特性には三段階の区切りがある、今の君なら第一段階は制御できる、しかしその次はまだ無理じゃ……第二第三を制御できるようになるまではその指輪が暴走を止めてくれる。完全に制御できれば、その指輪は自然と消滅するようにしてある。」
(ありがとうございます。)
「長い間皆を待たせておるようじゃぞ。こうやって話せるのも今回が最後になりそうじゃ、ヴァン・アルカードに幸あらんことを……。」
神様の声がこれを最後に聞こえなくなった。
地球にいた頃も、こっちの世界に来てからもいろんな人にお世話になって、助けられてる。そんな人たちのために役に立ちたい!! 自分の力の制御もできていないけれど…それでも今やれることから心身ともに強くなって、恩返ししていこう。助けを求めている人が居れば助けてあげれるようなそんな英雄に。
まずはここから出て起きなくっちゃな。師匠にはありがとうございますからかな?どんな顔をされるだろうか…やっぱりちょっと心配だな…
どんな顔をされても大丈夫!! 覚悟は決まった!!いざ覚醒なっちゃって……
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ジト目で見ている女性
「主神様、さすがにあちらの世界への干渉はやり過ぎかと思われますが……。」
「うむ…、しかしわしが向こうの世界に潘君を転生させたときは人としてであって、半間の状態へ改変をされるとは思っておらんかったからのぉ、こちらの不手際のようなものじゃし……あの指輪くらい大丈夫じゃろ。」
「主神様は彼に甘すぎます。」
「ほっほほほ」
あの戦いからヴァンが宿で目覚めたのは三日後のことだった。
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