属性と再確認
僕は冒険者ギルドを出て、小鹿亭の食堂で師匠を待っている。
ちょうどお昼時とあって席はほぼ埋まっているのでカウンターの端の方で待たせてもらって居る。
待っているとエリーセが果実水を持ってやって来た。
「はい、これ母さんからのサービス、マークさんはどうしたの?」
「ありがとうございます。師匠は今冒険者ギルドの訓練場で熊っ……アリゼアさんと冒険者達の訓練をして居ると思います。」
「ねぇヴァン昨日も思ったんだけど、その堅苦しい話し方じゃなくていいわよ?普通に話してくれて構わないわ。年齢も同じくらいだし。」
「うん…この話し方の方が楽ではあるんですけどね。なるべく砕けた感じで話させてもらうね。」
「無理にとは言わないから、午前中は何してたの?」
「冒険者ギルドで登録してきました。」
と作ってもらったばかりの冒険者プレートをエリーセに見せる。
「そうなのね、あんまり危ないことはしちゃダメよ。昨日はここでお酒飲んで騒いでた人が帰ってこなかったってこともあるから。」
寂しげな表情をみせたエリーセだったが、厨房からヴェルダさんの声が響く、エリーセを呼ぶ声だ。
「呼ばれちゃったから、仕事に戻るわ。なにか面白い冒険話ができたら聞かせてちょうだいね。」
エリーセは仕事に戻っていった。ヴェルダさんからおごってもらった果実水をちびちび飲んで居ると、師匠の姿を発見、師匠も僕に気がついたみたいでこちらに来た。
「ヴァン、無事に登録はできたのか?エリーセちゃん日替わりメニューを二つ頼む。」
エリーセも「はーい!!」と元気に返事してた、僕は首にぶら下げていた冒険者プレートを師匠に見せると頷いた。
「特に難しいことは無かっただろ?ランクが上がればそれなりの待遇を受けられる、地道にあげていけばいいさ。ギルド提携の店なんかだと割引とかしてくれるからな。武器や防具は俺の家の倉庫に眠ってるやつ使っていいから、ほとんど恩恵はないかもしれないがな。」
「はい、受付の方も親切に教えてくれましたし、問題はないかと、師匠このあとの予定はどうなのでしょうか?」
「この街でとりあえず三つの用事を済ませようと思う、買い出しと、占いのオババに会うのと、ヴァンの属性判断の作業だな。買い出しは明日帰る前に済ませるから、まずはヴァンの属性だな。」
「了解です。」
するとエリーセが、熱々のプレートを持ってきた。
「お待たせしました。日替わりのディアンカのステーキと茸のスープになりまーす。」
少し癖のあるお肉だったけど美味しくいただきました。ディアンカって鹿の魔物なんだって。これがこの宿の名物なんだとか、小鹿亭って名前がついていたのはヴェルダさんの得意料理の鹿から来ているんだって。小は謎だけどね。……ゾクッて、なにか……気のせいだろう。
ご飯を食べてるときに師匠から属性判断に使う道具を見せてもらった6つのろうそくだったのだが、これを使うらしい。使い方も普通のろうそくと同じだが少し違うのだとか、いけばわかると言われたのでこのあとを楽しみにしている。
魔力属性判断は町の中よりも。町の近くの丘に洞窟があり、そこでやる方がいいとのことだ。
30分もしないでその洞窟へたどり着く、道中なぜその洞窟なのかと聞くと、その洞窟が微力な魔力溜まりとなっているそうで、ろうそくの魔導具がしっかりと機能する環境となるらしい。尚、強い魔力溜まりになると魔獣が発生する危険があるらしい。
この洞窟は光源がなく、生活魔法で照らしながら奥へと進むといっても長い洞窟ではなくすぐに行き止まりになってしまったが、奥には通ってきた通路よりも広く円を描いたような広間があった。
通路は自然にできたようで奥の広間は人工的に手が加えられていた、六ヶ所にろうそく立てがたっているのだ。
師匠はろうそく立てに順番にろうそくを立てていく。それが終わると真ん中に立つように指示される。
師匠はろうそくに火をつけていく、すると一つ目は赤、二つ目が青、三つ目が緑、四つ目が茶、五つ目が白、六つ目が紫に火が灯る。
「ライトの魔法を消すとヴァンを中心に籠目紋が地面に浮き上がる、少し驚くかもしれないが、確認が終わるまでそこから出ないでくれ。」
ライトの魔法が消えると地面から淡い光が発生する。それは僕を中心に各ろうそくを頂点に六芒星の形で浮かび上がってきたのだ。その光の線からろうそくの色と同じ六色の蛍の光のようなものが浮遊し、とても幻想的な空間へと変化した。
「ヴァン、これで準備が整った、少量で構わない。魔力を体内から体外へ霧散させてみるんだ。」
一番やり易い右手を前に突きだし、下腹部に魔力を練り、右腕へと移動し、体外へ出すと僕の魔力と回りに浮遊していた光とが合わさり、地面に浮き上がる六芒星へと吸い込まれ、各頂点のろうそくへと光の明滅が移動していく。
明滅が終わると、ろうそくの火の灯り方に違いが出ていた。
赤はとても弱々しく今にも消えてしまいそうで、青、茶に関しては灯したときとほとんど変わらずに灯っている。緑は青と茶に比べる少し大きな火となっている、しかし白は完全に消えてしまっている、その代わりというわけではないが紫の火は……いや、炎と表現した方がいいと思えるほど大きくなっていた。
「ほぅ……五属性に適正があるか……紫……やはり魔族の血も影響しているのだろうな…」
そうしているうちにろうそくの火が消えてしまったので、ライトで室内を照らす。
「ヴァン、ここから出て町に戻りながら説明するぞ。」
洞窟を出てすぐに師匠は話し出した。
「六色の火はこの世界の属性を表しているんだ、基本四属性の火、水、風、土、それと光と闇の全部で六属性になってるんだ、火の色も赤が火、青が水、緑が風、茶が土、白が光、紫が闇だ。」
何となく予想通りだったので、説明を続けてもらう。
「ヴァンはこの世界では珍しい五属性に適正があった、一般の冒険者達は最低でも一属性、三属性になるとかなり魔法の才能があると言われるようになる。渡り人である恩恵があるのかもしれないな。」
「ちなみに師匠はいくつの属性に適正があるのですか?」
「俺は使える魔法は六属性なんだが、闇が使えない。」
使えないのに六属性とは?首をかしげると、
「六属性目は特殊スキルの雷魔法なんだ。だから雷騰という二つ名がついているのさ。」
「他にも特殊スキルに違うものがあるんですか?」
「氷魔法なんてのもたしかあった気がするぞ。色々と条件が重なって発現することもある。ヴァンのことに話を戻すぞ、ヴァンは特に紫の火が大きかったから、闇の魔法を覚えやすく、扱いやすいはずだ、次に風、水と土は同じくらいで、火はかなり弱々しかったから、覚えられるだろうけど、上位までは難しいと思うぞ。それでも五属性扱えるのは規格外の魔法使いになれる素質があるってことだ!!」
かなり恵まれた体であることはわかっていたけど、さらに魔法の才能まであるとわかると思わず笑みがこぼれてしまう。
「でもヴァン、魔法も努力が必要になる。繰り返し使うこと、より理解して魔法を使っていくことでスキルとして習得し熟練度が上がれば詠唱も必要なくなるようになるからな。」
「はい師匠!!」
「冒険者として活動するようになれば、今後仲間もできるだろう、他のものと一緒に戦うこともあるかもしれない、そんなときに必要以上に自分のことを教えることはしなくていいからな、情報は力だ、本当に信頼できる仲間が見つかったとき、明かせばいい、そして闇の属性魔法は人族に使えるものがほとんどいないのが現状だ、あまり人前で使用するのは避けた方がいいかもしれない。色々と秘密を抱えているヴァンだからな。」
苦笑いを浮かべる師匠、僕の肩を叩き
「出会った頃にも言ったと思うが力を付けて自分の身を守れるようになるのが先決だ! 俺が師匠なんだ必ず生きていけるだけの力を与えるから付いてこいよ!!」
右の拳を向けてきたので、なんとなく僕も右の拳をコツンとぶつけるのだった。
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