ドンパチは場所を選びましょう。
ペチペチ、ベタベタと顔を触られる感覚で目が覚めるここ最近の朝の合図だ。
「(ばん、おなか、へったー)」
そう、うちのマスコットことジョージだ。
目を開くと窓から光が入った来ている。
「おはようジョージ、あれ? 師匠がいないね。」
体を起こし師匠のベットを見たのだが、師匠の姿がなくもぬけの殻だった。
昨日の夜オババ様の所で確認しに行くといっていたのですでに出掛けたようだ。
「(おししょう、おきらた、いなかった。)」
「そっか、僕たちも言われた通りに準備しよう。生活魔法」
僕とジョージの体に暖かな光が灯り体全体が綺麗になる。
どんな効果なのか寝癖なんかもこれで直ることに気がついたのだ。言うなれば朝シャンしたような感じでスッキリするのだ。
とりあえずジョージの腹ペコを満たすために下の食堂へと向かうと泊まりの客たちで賑わっている、空いてる席へと座るとエリーセが来た。
「おはよう、朝は決まったメニューだから持ってくるわね。」
忙しいのもあり、返事をする間もなく厨房の方へと行ってしまった。
しばらく待っていると朝食が運ばれてきた。パンにスープ、でっかい目玉焼きにミルクだ。
残さず食べきり、もちろんおかわりもしました。
この宿の女将さんであるヴェルダさんにお願いをすることに、厨房デシャップへと向かい声をかける。
「ヴェルダさーん」
「はいはい、どうしたんだいヴァン?」
「ちょっとお願いがありまして、裏庭のスペース借りてもいいですかね?」
「別に構いやしないよ、壊れるものも無いからね、好きに使いな。」
「ありがとうございます。ごちそうさまでした。」
ヴェルダさんの許可をもらったので師匠の家から出来ていなかった準備運動と修行をするように昨夜言われていたのだ。
さっそく裏庭に必要な物資を持って行くとこじんまりとしているが僕とジョージが素振りするには丁度いいスペースである。
師匠が作ってくれた修行用のスペースとは違うのでランニングは帰りの森までの道を走ることに決め、たまっていた日課をこなす。
地球にいた頃のストレッチをしてスタンダードな剣を持ち素振りする、回りが見えなくなる程に集中した時間が流れる。
場所が変わっても同じようにやりとげることが出来た。
ジョージを見れば武器を使う訓練はジョージの戦闘方法と合わないということでアリゼアさんが組んだメニューを終えたようで座って僕の訓練を見ていたようだ。
これだけ真面目に訓練する魔獣なんて居ないだろうね。
「(ばん、おわったー?)」
「終わったよ、ごめんね待たせちゃって。それじゃあやろうか。」
ニッと笑いかければジョージも笑顔になり。
「(やるー、ぶきなし、たいじゅつだけ。おおきくなる?)」
「組手の訓練だからね、進化した姿でいいよ!!」
僕の話を聞いたジョージはすぐさま腕輪に魔力を込めると2メートルはあろうエンペラーコングへと変わる。
すでに僕らの距離は互いに10メートル程離れている、右手右足を前に構えを取る。師匠の合図が無いので右手の石を上空へ投げる。
石が弧を描き重力に従い落ちてくる、地面に着いたそれが合図で僕とジョージは身体強化を発動し間合いをつめる、ほぼ同じ動作で10メートルあった距離は0となる。
ジョージの左フックを弾くように叩くが手応えがない、左フックはフェイントだったようでジョージの体は独楽の用に左のバックブローが襲いかかる。
両腕をクロスにしガードするとドンッと体が少し浮く、腕が痺れるほどの衝撃ジョージも真剣に取り組んでいる証だ。
こちらもやられっぱなしで終わるわけにはいかない、膝を柔らかく着地し、左の三日月蹴りを繰り出す。不意を突かれたジョージだがしっかりと肘で攻撃を防いでいる。
そこからはお互いに引くことなく攻防を交代しながら有効打を決めきれず長引くかと思われたそのときだった。
「うるさーい!! あんたたち馬鹿なの? ドンッとかガシャーとか近所迷惑なのよ!! やるならギルドの訓練場でやりなさいよ、このバカちん!!」
ものすごい形相のエリーセ、その後ろに鬼とかしたヴェルダさんも控えている……
僕と組み合っていたジョージの姿が縮んでいく、そしてスッスッと背中に装備される。
「ヴァン、あんたに確かに裏庭好きに使っていいと言ったけどね、限度ってものがあるよ、まったく……私には戦いのことはわかりゃしないけどね、このスペースでやっていいことじゃない事だけはわかるよ。」
「は、はい、すいませんでした。」
「周りを見てみなよ。」
まったく気がつかなかったのだが周りを見渡せばこの宿に泊まっている冒険者や近隣の人達が覗き込んでいた。
「皆さん、お騒がせしてすいませんでした。」
頭を下げて各方々へ謝罪する。
「これからはよく考えてやるんだよ、まぁ元気があってなによりだけど、そんなに元気なら冒険者らしくギルドで依頼でもやっておいで!! さぁ行った行った。」
その場から逃げるように宿をあとにした。
師匠とはここで待ち合わせだったのだが、この中続けるほど強心臓ではないのでヴェルダさんの言葉に言われるがままギルドへと向かう。
まだまだ組手もやり足りない、それにギルドの訓練場も行ったこと無いので見に行くのに丁度いい機会だ。
修行の続きをしに走り出したのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。




