ドッキリ作戦
僕がこの世界に渡ってきて一年が過ぎた。
と言っても竜血樹の後始末ゾンビ化したリザードマン達を討伐してから数日だ。
そして僕たち三人、二人と一匹はルダボスカに向けて森の中を走っている。そう3ヶ月分の食料が底をつきそうだったのと、竜血樹の樹液の採取に成功した事の報告のためだ。
竜血樹の採取の依頼については先読みのオババ様の所に行って確認もしたかった。
森を三日で抜けた。
道中出くわす魔獣との戦闘に師匠はまったく戦闘には参加せずに、僕たちの戦いを見ている状態だった……いや、隙あらば師匠から魔法が飛んでくるという状況になっていた。
これも修行の一貫だと言うことで魔獣と戦いながら、飛んでくる魔術を打ち落としたり、魔力障壁を展開し防ぐなどして森を抜けたのだった。
「確かにお前たちは強くなった、それでも上には上がいる、今の現状で満足してたら、この先成長しなくなるぞ。」
先の言葉は夜営をしているときに師匠から言われた言葉だ。
師匠の魔法が飛んで来なければ魔獣との戦闘に緊張感もなく、気持ちが緩み普段しないようなミスをしてしまっていたかもしれないと改めて思ったのだった。
森を抜けた場所で夜営をして、朝日が上る頃に土人形で獣を作り上げ移動する。
街道から少し外れた草原を疾走する、平和そのものホーンラビットやスライムなんかが居たのだが速度も出ているし追い付かれることも無いので無視して進んだ。
低ランクの魔獣はFランクやEランクの駆け出しや新人冒険者の訓練、素材や肉などを販売して生計を立てている者に残してやるのも必要なことだとのこと。
それを聞いて僕もまだEランクの冒険者なんだけどな……とも思ったのだがつい先日、ジョージとレイの協力もあってAランクの純竜種を倒しているのだから今更だな、僕と同じように冒険者ランクがあてにならない人も居るのだろうと。
ルダボスカの防壁が見えてきたので土人形を解除し、門へ歩いて近づくと、いつものガストンさんではなく、カンサーさんが居た。
「身分証の提出をお願いします。」
師匠から冒険者証を提示し僕とジョージも確認してもらう。
カンサーさん真面目に仕事をしているのだけど、師匠の冒険者証の確認の時に手が震えていた。有名人に会えたらああいう感じになるのかな。
「ガストンは非番か?」
「は、はい、ガストンさんは本日非番です。」
「そうか、ありがとな。」
と師匠は言うとピンッと指を弾くと大銀貨が宙を舞いカンサーさんがキャッチする。
あれがチップってやつなのかな?
しきりにお辞儀していたカンサーさん、カッコつけたみたいだけど、大銀貨ってところが微妙にセコいと思ってしまったのだった。
ルダボスカに到着したらまずやることは宿の確保だ、小鹿亭に向かう最中にちょっとしたいたずらをしようとジョージに話しかける。
「ジョージ、エリーセにちょっとしたいたずらをしない?」
「(いたずら?)」
背中から降りて町中を手を繋いで歩いていたジョージが首をかしげて聞いてきた。
「ジョージが進化して大きくなれることをエリーセは知らないでしょ? それを知ってもらうために突然大きくなったらビックリすると思うんだ。いつもお姉さんぶってるエリーセが慌てるところなんて滅多に見れないでしょ、どうかな?」
「(ばん、わるいやつだなー、でもおもしろそう、やろう!)」
こうしてエリーセを驚かせるドッキリ作戦が密かに計画されたのだった。
小鹿亭へと到着し扉を開けるとチリンチリンとベルの音が鳴る。
そして出てきたのはヴェルダさんだった。
「いらっしゃい、そろそろだとは思ってたからいつもの部屋空けてあるよ。そこでよかったかい?」
「助かるよ、ヴェルダさん。宿泊は三日間でお願いするよ。」
「わかったよ、ヴァンにジョージもいらっしゃい、元気してたかい?」
「この通り元気です! エリーセは居ますか?」
「エリーセなら裏庭で洗濯物乾かしてるよ。マークあんたが教えた暖かい風の魔法? あれ助かってるよ! いつも雨季はじめじめして嫌だったんだけどねぇ。」
エリーセは裏庭で魔法を使ってるみたいだちょうどいいのでそこでドッキリを仕掛けよう!
「エリーセちゃんあれできるようになったのか?魔法のセンスあるんじゃないか? 今から冒険者で魔法使いもいけるんじゃないか?」
「あの子はこの町で私のこの宿を引き継いでくれたらそれでいいのさ。冒険者なんてなられたら私が気が気でいられないよ!!」
「僕達エリーセに挨拶してきまーす。」
ヴェルダさんと師匠の話が続きそうなので裏庭へと回り込む。
ちょうど布団のシーツの裏に鼻唄を歌いながら作業しているエリーセの姿が見える。
ジョージに目配せをすればウィンクが返ってきた。どこで覚えた……
無駄に気配を消して忍び寄りジョージの腕輪に魔力を込めると大猿に変身する!
「ウホッ!(エリーセ!)」
「キャーーーーッ!」
エリーセの絶叫そして気絶した……慌てて抱き止める。
その騒ぎを聞きつけヴェルダさんと師匠が裏庭へと駆けつけてきた。そしてジョージを見てヴェルダさんが尻餅をついている。
小鹿亭の2人には進化したジョージの姿は刺激が強すぎたようだった……
「ヴァン、ジョージおまえらなにしてんだ?」
ピクピクとこめかみを痙攣させて聞く師匠は明らかに怒っている……
「エリーセを驚かせようとして……」
「この街でから出たことのない人達はだいたいそんな反応に鳴るに決まってるだろ!! お前ら正座しろ!!」
それからエリーセが起きてくるまで師匠からの説教が続くのだった……
その後起きてきたエリーセにはちゃんと2人で謝罪したのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回投稿が遅くなってしまいました。今後も不定期な投稿になるかと思われますがよろしくお願いします。




