戦闘授業
この話はマーク視点になります。
「ヴァン!! 今すぐ『魔纏』を解除しろ!!」
俺はとっさに叫んでいた、ヴァンは気がついていなかった、影を纏うことに意識がいって、足元の影が不気味にうごめいていることに。
他の『魔纏』であれば纏った魔法以外が動くことはない、俺の知識にはない影魔法を纏うと言うことにやはりリスクがあったのだと少し後悔してしまった。
足元のヴァンの形をしていた影が円状に広がり、纏っていた影がヴァンに覆い被さる。
即座にアリゼアが身体強化し地面を踏みしめる、ゲニアも大楯を構え目の前の影に備えている、後ろにいるミラーナからはすでに精霊魔法の詠唱が聞こえだした。
俺もヴァンが影に異常が見られてすぐに『雷纏』を発動し、瞬時に動けるようにしたのだ。
ヴァンが影に覆われ、地面の自分の影に飲み込まれてしまった……
地上にヴァンの姿が無くなっていた、影だけはその場に残っているので臨戦態勢のままいつでも動けるように待機している。
しばらくすると影よりヴァンが浮き上がってきた。
しかしいつものような雰囲気ではない何よりも肌を刺すようなビリビリとした空気が辺り広がった。
「マーク、ありゃわしらがオババのとこで対峙した時と同じ空気ぃ出しとるでぇ。前回よりも感じる圧は格段に上がっとるようじゃけぇ。」
「聞いとった話と少し違うがのぉ、純竜種の方がまだ可愛げがあるかの。」
アリゼア、ゲニアのいうように目の前のヴァンからはとてつもない魔力を感じる。
ヴァン自身の努力で身に付けた力がこれほどまで成長して居ることに嬉しさが込み上げてくる、一番近くで努力を見てきたからだろう。
突然ヴァンが優雅に礼をした。
「お待たせしました、皆様にご協力をお願いしたいことがございます。」
ヴァンの声なのだがノイズが入ったかのように二重に聞こえる。
「ヴァンをどこにやった!!」
「ご安心ください、ちゃんとあなた達を見ておりますよ、私がヴァンでありヴァンではないとでもいっておきましょうか?また名乗るのであればポデルとでも名乗りましょうかね。クフフフ」
「そんなご託はいい、ヴァンを解放しろ!!」
「用件がすみましたら、しっかりとお返しいたしますよ、ヴァンは直接体に教えた方が覚えがいいようなので、あなた達の言う『魔纏』を実戦形式で教えると言うことになったのですよ、あなた達もすでに……臨戦態勢ですので問題は無さそうですね。」
前回とは明らかに違う、理性を失い暴走し飛びかかってきた時とは違い会話までできている、この違いがなんなのかまではわからないが、戦闘は避けられないようだ。
「手を抜かれてはヴァンのためになりませんから、あなた達に本気になってもらうためにもこうしましょうか。影檻」
「きゃっ!!」「ウキャッ!」
俺たちの遥か後方に居たレイとジョージから声が聞こえた。そして振り返ったのが不味かった。長らく強敵と対峙していなかった事が戦闘中であるにも関わらず敵から視線をはずしてしまったのだ。
レイとジョージは影で出来た檻の中に閉じ込められているではないか。
ドゴーンと音がなり振り向けばゲニアがヴァン、いやポデルだったか?に影の拳を大楯に叩きつけられている。ゲニアの足元から地面が陥没し無数の亀裂が入る。
「敵と退治しているのに視線をはずすとはなっていませんね、それでも師匠ですか?」
「くそっ!!」
『雷纏』の状態で斬りかかる。
するとポデルの影の拳が剣へと変わり受け止められる。
「その調子ですよ、師匠、そして魔法も御使いください。ある程度の威力であれば影で防げますので。」
「お前の師匠ではないっ!! 俺の弟子はヴァンだ!!」
高速での剣戟に対応される、しっかりと基礎を学んだ体だからこその反応と対応だ。
「ガァァァァア!」
割り込むようにアリゼアが爪で切り裂く、それを剣だった影が盾へと変化し、受け止める。
すでにアリゼアも赤いオーラを出しているので出し惜しみなしで戦闘しているようだ。
しかしヴァンの盾術の熟練度が上がっていないのが原因なのか少しずつアリゼアの攻撃に対応できなくなってきている。
「盾はやめましょうか、次は斧ですよ。ヴァン見えていますか? 使い方を体に覚え込ませるために色々とおこないますので気を確かにしてくださいね。」
その言葉と共にアリゼアに盾ごと体当たりで吹き飛ばすポデル。
そこへすぐ矢が飛ぶのだが影が足元から伸び矢が刺さる。
手元の盾は形を変え、両手には斧が握られている。
「足元の影もこのように動かして、遠距離からの攻撃に備えることもできますから、これは師匠さんによる訓練の賜物ですよ。危険察知の能力を十全に扱うことができますから。」
次々と矢がヴァンへ飛んでいくのだがそのことごとくを影が防いでいる。ミラーナの矢は風の精霊の力を借りているため速度は他の弓師を遥かにしのぐそれでも当たる気配がない……。
「二刀流ではございませんが、このように戦うことも可能です。そうですね師匠さんと髭の方と熊さんも同時に仕掛けてきてください。」
両手には持った斧を自在に動かし三人からの攻撃をことごとく受け躱し、こちらを切りつけてくる。
無理な体勢であろうと攻撃に転じてくるポデル。
「このように、無理な体制も影が補助してくれますが、無理な姿勢などはそれだけ負担も大きくなります、今後も身体強化の訓練を続けるべきです。まだまだ制御が甘いですもんね?師匠さん?」
俺達が必死で戦闘をしているなか、ポデルはこちらと入れ替わっているヴァン話しかける余裕がある。
「みんな、そこから離れて!!シルフお願い。サイクロン!!」
ミラーナの風の精霊魔法がヴァンを中心に小さな竜巻を起こす。
「サンダーランス!! ショックウェーブ!!」
俺もすかさず攻撃に移る。竜巻の中に雷の魔法だこの組み合わせはかなり相性がいい。
竜巻が消えるとあちこち雷の熱による熱傷が出来ているヴァンの姿。これだけ打ち込めば麻痺し動けないのたが、スキルの影響で常態異常にはなっていない様子。
「さすがに無傷とまでは行きませんでしたね。まさかこれほどまで打ち込んでくるとは……ですが、あの竜巻の中でどのようにマジックガードと影で防ぐのかの説明もすることができましたよ。感謝致します。」
これで終わってくれればと思っていたがそう甘くはないようだ……他のメンバーが集まってきた。
「マーク、やつは不死身なのか? 倒しようにも攻撃が通じん。影が厄介じゃけん。」
「影の魔法さえ体から霧散させれればどうにかなると思うんだが、ミラーナのサイクロンですら無理となるとヴァン本体を気絶させる他ないな……」
「他は、魔力切れを待つしかないんじゃない?」
「魔力切れそれは無理じゃないかのぉ……マークよりも今では魔力量が多くなっておる気がするしのぉ。」
消極的な方法ではダメだ。電霆を打つにしても隙がない……
「ご相談はよろしいでしょうか? こちらの特殊な戦闘方法をお見せしましょう。ではいきます!!」
「散開!!」
俺はそう叫んでいた。
そうその姿はあのマルディシオンのように影に沈んでいたから。
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