私メリーさん、今……
メリーさんがランキングにあったから、昔見たネタを想像して書いてみた。
暴力描写が酷いので気をつけてください。
不意に、電話の着信音が響いた。
机の上に置いたスマホを手に取ると、画面には知らない番号が表示されている。
「はい、もしもし?」
「私メリーさん」
通話の緑ボタンをタップして、耳を当てると、スピーカーからは女性の声が聞こえた。
メリーさん、聞き覚えの無い名前だ。いたずら電話だろうか。
「あー? どなたでしたかな。覚えがないのです「今、xx駅にいるの」はい?」
聞こえた駅は、今自分のいる場所──自宅の最寄り駅から数駅離れた場所の物だった。
「どなたですか? もしもし?」
「ツー……ツー……」
「っち、切れてやがる」
だが、誰何の言葉に返ってきたのは、無機質な電話の切断を告げる音だった。
舌打ちをして、通話時間が表示された画面を見詰めた。
一体、誰なんだ。
机の上にスマホを置こうとすると、再び電話の着信音の音。
手の中のスマホからだ。
電話番号は先ほどと同じ物だった。
無視しようか、一瞬悩んだが、再び緑の通話ボタンを押した。
「……はい、もしもし」
「私メリーさん」
「あんた、誰だ」
やはり、メリーと名乗る女の声。
だが、マイクに厳しい声色で叩き付けた質問にはその女は答えない。
そして、
「私、今○x駅にいるの」
「っ、!」
告げられた駅の名前は、一駅自宅の最寄り駅へと近付いていた。
──この女、俺の居場所を知っている!?
僅かに揺れた心を悟らせないよう、静かな落ち着いた口調で、再び質問。
「おい、何が目的だ」
「ツー……ツー……」
「っく……」
だが、再び電話は切断されてしまっていた。
そして、時を空けずに再びコール音が響く。
また同じ電話番号から。
「何が目的だと言っている! 答えろ!」
「私メリーさん、今○○駅にいるの」
「貴様ァ……!」
耳元のスピーカーからは、とうとう最寄り駅の名前が告げられた。そして再び切断。
その後、何度もコールされる度に、少しずつ自宅へと告げられる場所は近付いていった。
「私メリーさん、今貴方の部屋の前にいるの」
「……ほう、いい度胸だ」
とうとうその場所は自宅の前に変わった。
そして、次の着信音。
「…………」
「私メリーさん、今あなたの……」
無言で耳元のスピーカーから声を聞いた。
変わらないその声が告げる場所は──
「今貴方の後ろに「残像だ」──っ!?」
──不意に、スピーカーと重なって背後から声が聞こえた。
同時に出現した人の気配。
そして、俺はその背後へと特殊な歩法──神速の移動を可能とする、縮地──をもって周り込み、対応した。
女の細い手首を掴み、捻り上げる。
ぐいっ、と背中側から逆の肩にまで引っ張られた手首は、一種の関節技となり、激痛をメリーと名乗る女にもたらした。
「貴様、何者だ。何故ここが分かった」
「痛い、痛いわ、痛い!」
「喧しい!」
「きゃあっ!?」
片手で後ろ手に拘束しながら、メリーを尋問する。
が、メリーは痛いと喚くばかりで質問に答えようともしない。
埒が開かないので、頬を平手で張る。
ピシャリ、という音とともに、メリーの白い肌が赤く腫れ上がる。
「お前は質問にだけ答えればいいんだ! 分かったか!」
「ひ、ひぃ」
「質問に答えろ!」
「わ、分かりました……ヒック」
更にもう一発ひっぱたくと、メリーは大人しくなり、そして少しだけ従順な姿勢を見せた。
「ようし、それでいい。それで、お前は誰なんだ」
「わ、私メリーさん」
「それは分かった。一体何者なんだ」
「わ、私メリーさん……いやあっ!」
さっきよりも強めに一度殴る。口内を切ったのだろう、メリーの小さな唇の端から血が一筋流れ出た。
「俺は、何者なんだと聞いている!」
「わ、私は……」
「次に巫山戯た回答をしたら、腕をへし折る」
酷薄な声色で告げると、メリーは言葉に詰まらせ、そしてカタカタと小さく震えた。腕を少し持ち上げて、関節を極め直す。
メリーはその痛みから逃れようと、ピンと小さな体をつま先立ちに体を反らしながら、答えた。
「わ、私は、その、妖怪でし……───っ!?」
ボグ、とくぐもった音が、メリーの体の内側から聞こえた。
同時にメリーが声になら無い悲鳴を上げる。
掴んだ腕の骨を折ったのだ。
「俺の言葉が聞こえなかったらしいな? これは飾りか」
「ち、ちが……いっ!?」
ぐいっと、メリーの長い金髪の下に隠されたきれいな形の耳の上部をつまみ上げる。
「飾りならいらないよな?」と耳を捻るよう引っ張ると、ミシリ、と耳の付け根が裂ける感触が指先に伝わった。
「よーく考えて言葉を話せ。お前は、一体、誰なんだ?」
「ほ、本当に違うんです。私はメリーさんという妖怪でぇ!?」
更に、ぐいっと下向きに耳を引っ張ると、ブチ、と音がして、耳の上部から赤い肉が見えた。一瞬後、そこから真っ赤な血が垂れる。
流血はメリーの白磁のような肌を流れ、汚し、そして耳たぶから滴となって床へと滴り落ちた。
「ふーむ、どうやら耳が必要ないらしい」
「違う! 違います! 本と、ほん、本当に! 私は妖怪で!」
「………………」
メリーの声色は、痛みに染められながらも、必死さに満ち溢れていた。
演技だろうか? 少し考える。
耳はもう片方あるので、ここで千切っても問題はないが、そうなると後片付けが面倒になる。
床に咲いた鮮血の花びらを見ながら、そう考えた。
「──きゃっ!?」
耳を離して、徐にメリーを押すと、急に解放されたメリーは、ドサリと床へと倒れこむ。
折れてない腕で、上部が千切れかけた耳を押さえるメリーに、声をかけた。
「おい」
「は、はい」
「少しだけ話を聞いてやる。もし納得出来なかったら……分かるな?」
「わ、分かりました……」
正面から見たメリーは、美しい顔をした少女だった。
赤く腫れた頬の肌はきめ細かく、鼻筋は通っていて、長い睫毛の下の瞳は宝石のような美しさだった。
乱暴に扱ったことで髪が乱れたそのメリーを、これから屠殺される豚を見詰める目付きで見た。
その視線に籠められた意味を理解したのだろう。
苦悶に顔を歪ませたメリーは、言葉を慎重に選びながら、話を始めた。
「──というわけです……」
メリーの話によると、彼女は都市伝説にもなっている女らしい。電話口に出たが最後、家まで押し掛け、そして殺害するという危険な妖怪であるらしい。
「ふむ。つまり、俺の命を狙ってきた訳か。よし、殺そう」
「ひ、ひい! ごめんなさい! 許してください!」
気軽な口調でそう告げると、メリーは情けない声で命乞いをした。
「何でもしますから!」と、折れた腕をぶらぶらさせつつ土下座するメリー。
しかし、
「いやあ、でもお前、俺を殺そうとしたんだろう? なのに自分だけ助かろうってのはムシがよすぎるだろ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
実際、メリーは俺の命を狙ってきたのだ。危険分子を見逃す意味はあるのだろうか。
更にいえば、メリーは本人の言葉によれば殺人犯である。
そんな女の頼みごとなど聞く意味はない。
だが、壊れたスピーカーのように謝罪の言葉を繰り返し、必死に頭を下げるメリーに、ほんの少しだけ同情心が沸いた。
「でも、殺そう」
「ひ、ひい!?」
ガシッ、と首を掴む。
同情心が沸こうが沸くまいが、自分の命を狙われて黙っていられるほど優しくはないのだ。
度々電話が掛かってきてウザかったのもある。
ミシリ、と音を立てる首。
何とかその苦しみから逃れようとメリーがもがこうとするが、無事な手は押さえてあり、もう片方は折れていて動かせない。
喉を押さえつけられ、唇をパクパクと動かすメリー。気道を塞がれ、声は出ずとも、その動きから何と言っているかは分かった。
『まだ誰も殺してないのに』
「──っ!?」
その言葉が何となく気になったので、パッと手を離して話を聞くことにした。
酸素を取り入れようと、ヒューヒューと必死に息を吸い込むメリーに問いかける。
「殺してないって、どういうことだ?」
「そ、れは……」
強く喉を締め上げたため、一時的に上手く声を出せなくなったメリーが、枯れた声で必死に話をする。
ここで関心を買えなければ後がないとわかっているのだろう。
「こ、殺してないんです。わた、しは新人、のメリーさんで」
「新人?」
「は、い」
話によると、妖怪というのはその存在を規定するもの──つまり人間の認識によって大きく変わるらしい。
そして、確かに昔のメリーさんは、殺人をする恐ろしい存在だと信じられていたらしいが、最近では違うらしい。
「じゃあ、最近はどんなのなんだよ」
「そ、その……後ろに回ろうとして失敗して、泣いちゃうドジッ娘キャラです」
「……なるほど?」
たしかに、そうなっていた。
後ろに回ろうとして、(縮地により更に後ろに回られて)失敗して、(殴られ、腕をへし折られ、耳を引きちぎられかけ)泣いている。
そして、最初からそうだと言えばいいのに、言い忘れたために危うく死にかけてる。なるほど、ドジッ娘キャラだ。
ポリポリ、と頭を掻いた。
何だか気が抜けた。
「あのさ」
「──は、はい」
「もう帰っていいよ」
「へ?」
「だから帰っていいって」
そう言って、メリーを追い出した。
彼女は折れた腕をぶらぶらさせ、さらに与えたタオルで耳を押さえながら、夜の闇に消えていった。
§
「はい」
「私メリーさん、今貴方の後ろにいるの」
「え? って、貴方! ひどい怪我!」
「助けてください……」
「す、すぐに先生をよんで来ますから」
電話を受けた看護師は、ドタバタと医者を呼びに言った。
医者が来るまでの間、椅子に座りメリーは一人呟いた。
「私、メリーさん。いま病院にいるの……グスン」
ごめんねメリーさん。
なんでリョナになってんのこれ。
俺はただ、この主人公の敵対組織に彼女だと間違われて捉えられたメリーさんと、それを颯爽と助けにくる主人公のいちゃラブストーリーを書きたかっただけなのに!
残像だ
の一言を入れたがために、暴走してしまった。