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4話 報酬とメイド服

「えっ? こんなにもらえるんですか…… ?」


騒動から数十分後――カウンターの前に積み上がった硬貨の山を見て、ユウは目を見開いていた。


「もちろんです。ライオタイガーを始めとした魔物の死体の数々、どれも状態の良いものでしたので、高く見積もりさせていただきました!」


 ユキノとの対戦前まではユウのことを小馬鹿にした表情で見ていた受付嬢だが、今や「お前誰?」と聞きたくなってしまうほど、愛想良くユウに受け答えする。


 討伐者として実力さえ認められれば、こんなにも対応が変わるのか……と、ユウは思わず苦笑してしまう。ちなみに、ユキノは今も気絶中だ。


 ユキノとの試合の後、ユウはライオタイガーの他にも【ストレージ】に収めていた魔物の死体を買い取ってもらった。それが思った以上の高値で売れたのだ。全部で金貨六九枚と白銀貨七枚だった。


 道中でアリスとリリスに聞いた話によれば、この都市なら金貨二枚あればそれなりの一人暮らし生活が送れるだろうということだった。


 アリスとリリスの二人も、口には出さないが目の前に積み上がった金貨の数に、目を丸くしている。


「それと、こちらをどうぞ」


 金貨の山の横に、受付嬢がネックレスのようなものを差し出してくる。金属製のタグがついており、そこにはCの文字が刻印されていた。


「これが討伐者のタグですか」

「その通りです、ユウさん。身分証明証にもなりますので失くさないようにしてくださいね? それと……アリスさんとリリスさんにはこちらを」


 ユウが討伐者タグを受け取ると、受付嬢が今度は石製のタグを二つ差し出してくる。アリスとリリスがそれを受け取ったのを見て、ユウは二人に「二人とも、本当に討伐者になるんですか……?」と不安そうな表情で聞く。


 そうなのだ。道中で聞いた二人の〝とある目的〟とは、討伐者になるということだったのだ。何でもそれなりに腕に覚えがあるらしく、姉妹揃って討伐者として生計を立てるべく故郷から出てきたそうだ。


 商人に囮として使われ、ライオタイガーたちに襲われた時も、武器さえあれば生き残ることはできたとのことだった。


 ユウとしては、二人は保護対象なのでできれば戦ってほしくないのだが……それを伝えると、アリスとリリスは「ご主人様のお荷物なんかになりたくないよ……」「お願いです、少しでもお力にならせてください……!」と悲しそうな顔で懇願してきてしまったので、ユウは頷くしかなかった。


 金さえ手に入れば行くところは一つ。ユウは【ストレージ】に硬貨を収納すると、受付嬢からいくつかの情報を聞き出し、二人を連れて外へと歩き出す。



「え? ご主人様、ここって……」

「女性モノの服飾店、ですよね……?」


 歩くこと少し――とある店の前でアリスとリリスが困惑した声を漏らす。そこは高級そうな雰囲気を醸し出す服飾店だった。


 そんな二人にユウは「そうですよ?」と答えると、そのまま店の中に入ってしまう。アリスとリリスは、慌てて彼の後に付いていく。


 ユウは受付嬢に女性向けで評判の良い服屋はないかと情報を聞き出していた。それがこの店だった。

 確かに、見渡すといくつものジャンルの服が幅広く揃えられているのがわかる。これなら二人の服も揃うだろう。


「すみません、彼女たちの服を探しているのですが……」

「いらっしゃいませ〜! わぁ! なんて可愛いエルフさんたちなんでしょう!」


 ちょうど接客が終わったタイミングの店員を捕まえ、ユウが要件を告げると、店員はアリスとリリスの姿を見た瞬間興奮した様子で声を上げた。


 アリスとリリスの二人は「ご、ご主人様!?」「私たちは今の格好で十分です!」と驚いた声をで抗議する。


 通常、奴隷は今彼女たちが着ているような貫頭衣で過ごすことがほとんどだ。よっぽど大切にされている奴隷であれば話は別だが……出会って間もない彼女たちに、ユウがそこまでする理由はない。


 そんな彼女たちに、ユウは少し驚いた様子を見せた後、「そんな格好だとぼくが困るから……」と言って俯いてしまう。


 貫頭衣は丈も短ければ他の部分の露出も多い。綺麗な太ももはもちろん、横乳だの何だの色々見えてしまうのだ。


 それに、ユウのいた世界には奴隷など存在しない。女性をそんな格好で外を歩かせるなどもってのほかだ。そんな理由で、二人に似合う素敵な服を用意するつもりなのである。


「やんっ、ご主人様可愛い……♡」

「私たちの格好を見て、恥ずかしくなってしまっていたのですね……♡」


 顔を赤らめ、俯いたユウを見て、アリスとリリスはそのことに気づいたようだ。二人して頬を染めると、何やら太ももをモジモジと擦り合わせ始めてしまう。


 極上美少女エルフのあまりに妖艶な仕草に……ユウだけではなく、店員や周りにいた女性客たちでさえも若干変な気持ちを抱いてしまう。


 ユウは店員に「これで揃えられるものをお願いします!」と、いくつかの硬貨を握らせると、二人を任せて店の奥にあるソファーへと退散するのだった。

 

 待つこと小一時間――


「……様……ご主人様っ」


 そんな声で、ユウの意識は覚醒する。どうやら待っている間に眠ってしまったようだ。まぁ無理もない。この数日間、水以外何も口にしていなかったのだから。それに疲れも溜まっていた。


 しかし、空腹や疲れも吹き飛ぶような光景がユウの目の前に広がっていた。ユウは思わず「……っ!」と息を漏らしてしまう。


 そこにはユウの顔を心配そうに覗き込むアリスとリリスが立っていた。そして彼女たちはお揃いの〝メイド服〟を着ていたのだ。


 半袖の……それも丈がこれでもかと短いミニスカメイド服だ。ほどよくむっちりとした太ももを、アリスは黒の、リリスは白のガーターストキングで包み、彼女たちの純白と褐色の綺麗な肌を映えさせている。


 そして何より、メイド服の胸元が大きく開いている。そのせいで二人の豊満バストの谷間がこれでもかとサービス状態なのだ。


「どうでしょうか、ご主人様……?」

「変じゃない……?」


 リリスとアリスが少し不安そうな表情で問いかけてくる。そんな二人に、ユウは「う、うん。とっても可愛いです……!」と素直な感想を口にする。


 それを聞いた二人の表情がパッと輝く。そしてそれを見た店員もグッと、ガッツポーズを決める。


 ユウが二人に素敵な服を着てほしいと願ったように、アリスとリリスは店員に、ご主人様に仕えるのに相応しい服を用意してほしいとお願いした。


 両者の願いを叶えるべく、店員が熟考の末に用意したのが、この可愛らしくもセクシーなメイド服なのである。


「さぁ、次の場所に行こう、ご主人様っ♡」

「まだ色々とやることを済ませなければなりませんからね♡」


 アリスとリリスは、ユウの左右を挟むように彼と手を繋ぐと歩き出す。ユウは「う、うん……」と、メイド服によりさらに可愛くなった二人にドギマギしながら、店を後にするのだった。


 帰り際に、店員がサムズアップして三人を見送り、アリスとリリスはそれに微笑みながら大きく頷くのだが……ユウがそれに気づくことはなかった。

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