2話 討伐者ギルド
歩くことしばらく――
ユウたちは目的の都市へと到着した。レンガ造りの建物が立ち並び、地面は石畳で舗装されている。いくつかの通りは露店などが立ち並び、賑わっているのが見てとれる。
その他にも植木道には植木が一定の間隔で並び、広場には噴水や芝生なども確認できる。自然と調和した綺麗な街並みだ。
だが……そんな街並みも、今のユウには感動を与えなかった。否、それどころではないといったところだろうか。
アリスとリリス――二人を魔物から救い出した後、ここまで密着されたまま一緒に歩いてきた。
二人の柔らかな感触や、甘い匂いを味わい続けたせいで、ユウの顔は赤く染まりその表情は蕩けてしまっている。
そんなユウの様子を見て、アリスとリリスは「「ふふ……っ♡」」と、こちらも頬を赤らめながら妖艶な表情を浮かべている。
「何だぁ……あの子?」
「あんなに小さい子が奴隷エルフを連れてるなんて、どういう状況だ?」
「それにしてもあのエルフ二人、すげー可愛いな……」
「俺は真ん中の女の子の方が興味あるぜ!」
周囲からそんな声が聞こえてくる。アリスとリリスは絶世という言葉がつくほどの美少女だ。そして……周囲の声から察するに、ユウも少女だと勘違いされているらしい。
まぁ、小柄で華奢な体で、幼く儚げな顔をしているのでそれも仕方ないというものだろう。
二人に挟まれ、ただでさえ恥ずかしいというのに、周囲からも注目を浴びてしまい、ユウの羞恥心はMAXだ。
「と、とにかく目的の場所に移動しましょう……!」
ユウはそう言って、アリスとリリスを連れてとある場所へと向かうのだった。
◆
「よし、ここが〝討伐者ギルド〟みたいですね」
都市の進むこと少し、ユウたちはとある建物の前にたどり着いた。
討伐者ギルド――魔物の討伐などの仕事を斡旋するギルドのことだ。
この世界で暮らしていくために、まずは金銭が必要だ。しかし、ユウは金銭の類は持っていなかった。アリスとリリスの面倒を見るどころか、自分の生活すら危うい状態だ。
そこで、ユウは二人に何かお金を稼ぐ良い方法はないかと、道中で訪ねた。すると二人から――
「それだったら討伐者になるのはどうかな?」
「そうですね、ご主人様の腕でしたらピッタリかと思います」
――という答えが返ってきた。ライオタイガーを一瞬で倒してしまえるほどの実力があれば、仕事は引く手数多だろうと言うのだ。
魔物は人間を主食とする人類の大敵だ。そして魔物は自然発生するらしい、なので魔物を討伐するこの仕事には大きな需要があるのだそうだ。
(あんな化け物が自然発生……なるほど)
二人の話を聞き、ユウは都市までの道が舗装されていなかった理由、そしてこの都市が高い外壁で囲われている理由に納得するのだった。
色々と二人から情報を得るうちに、ユウの目的は大きく二つできた。
まず一つ目は二人の面倒を見つつ討伐者活動を続け、金を貯め、奴隷から解放してあげること。
もう一つは、元の場所――或いは元の世界に戻ること。こんなわけのわからない場所にずっといたいわけではない。どうにか方法を見つけ、元の場所に戻るつもりだ。
――まぁ、それはさておき。まずは討伐者として登録作業を済ませなければならない。
正直、アリスとリリスの露出の多い格好を先にどうにかしてやりたかったが……服を買ってやる金もないので、まずはギルドに来たわけである。
二人からの情報ですぐにお金を得る算段できたのでもう少しの辛抱だ。
「うわ……すごい人だ……っ」
ギルドの扉を開けると、中は人で溢れかえっていた。掲示板のようなものを眺め何やら相談する者たちや、いくつもあるテーブル席に座り、仲間たちと酒を飲み料理を食らう者たち、恐らく酒場としての機能も兼ねていると思われる。
給仕の娘や受付嬢を除いて、その誰もが剣や槍、弓などで武装している。さすがは討伐者、魔物を始末することを生業としている者たちといったところだろうか。
「ご主人様、あそこが受付みたいだよ?」
アリスが奥にあるカウンターを指差しながら、ユウの手を引いて歩き出す。リリスも「早く受付を済ませてしまいましょう」と言って、足早に歩く。
よく見れば、二人の表情が険しいものになっている。まぁ、それも当然だろう。何せ、ギルド中の男どもがアリスとリリスの豊満な胸や、程よくむっちりとした太ももを舐めるように見ているのだから。
「いっらしゃいませ! 何か討伐のご依頼……でしょうか?」
ユウがカウンターに近づくと、受付嬢が愛想良く迎えた……と思ったら、その表情が不思議そうなものに変わる。
幼い子どもがどうしてこんなところに……? というのもあるだろうが、そんな子どもがどうして奴隷を連れているのかも気になったのだろう。
「えっと……依頼ではなく討伐者の登録に来ました」
少し緊張しながらもユウは要件を告げる。そしてその直後だった。受付嬢が「ぷっ……!」と吹き出し、周りにいた冒険者も大笑いし始めた。
どの冒険者も「ぎゃははははは! こんなチビが討伐者になりたいだと!?」「ヒィ〜〜腹痛ぇっ!」などと、ユウを小馬鹿にした様子だ。
「あのね、ぼく? 討伐者は君みたいな小さな子がなれる職業じゃないのよ? 戦う力のある大人だけがなれる職業なの」
受付嬢が必死に笑いをこらえながら、嗜めるように語りかけてくる。そんな周囲の反応に、アリスとリリスはムッとした表情を浮かべる。
二人の表情を見て、ユウは苦笑しながら受付嬢に「では、ぼくが戦えると証明できれば登録してもらえますか?」と問いかける。
「それは……まぁ、討伐者の登録に年齢制限はないけど……でもどうやって?」
「これなんてどうでしょう?」
受付嬢の言葉を聞き、ユウはあらかじめやると決めておいた行動に出る。意識を大気に浮かぶ魔素へと集中し、錬成術を発動する。
次の瞬間だった。受付嬢が「な……っ!?」と驚きの声を上げ、周囲の討伐者たちも「「「…………ッッ!?」」」と息を漏らす。そして、それはアリスとリリスも同様だった。
皆の反応も当然だ。ユウの隣に、今までなかったライオタイガーの死体が現れたのだから。
「ご、これって……!」
「まさか、ご主人様が……!?」
目を丸くしながら尋ねてくるアリスとリリスに、ユウは苦笑しながら頷くことで応える。
森の中でサバイバル生活を続けていたユウ。彼は他の錬成術も試してみたくなった。彼が元いた世界には伝承でのみ伝わる錬成術――【ストレージ】というものがあった。
本来は酸素を特殊な空間へと錬成し、物質を保管しいつでも取り出せるようにする……という錬成術なのだが、ユウはそれを、魔素を使うことで実現することに成功したのだ。
何かに使えるんじゃないかと考え、ストレージの中に、森で倒した魔物たちを収納し保管していたわけである。
「ついでに死体の買い取りをしてもらえると嬉しいのですが……」
絶句する受付嬢に、ユウが再び話しかけたところで、受付嬢はハッとした様子で我に返る。そしてユウに「君……まさか【アイテムボックス】のスキルが使えるの!?」と、腕をガシっ! と掴んでくる。
ユウは(アイテムボックス? それにスキルってなんだろう……?)と疑問を覚えるのだが……とりあえず「似たようなモノです」と答えるのだった。
理由は錬成術だと言っても無駄だとわかっていたからだ。道中で、アリスとリリスからも【アロンダイト】のことを聞かれ、錬成術だと説明したところ疑問顔をされてしまった。
話を聞くと、どうやらこの世界――あるいはこの地域では錬成術は知られていない、もしくは存在しないということが判明したからだ。
「ご主人様って、やっぱりすごいよね!」
「ライオタイガーを倒しただけでなく、【アイテムボックス】まで使えるとは驚きです!」
ユウの答えを聞き、受付嬢がさらに口を開こうとしたその前に、アリスとリリスがユウの力を褒め称え始める。
それを聞き、ギルド中が「「「は……?」」」と間抜けな声を漏らす。――今、このエルフたちは何と言った? こんなに幼い少年がライオタイガーを倒しただと……? 誰もがそんなことを考えていた。
「Dランクの魔物を一人で倒したって……」
「もしそれが本当ならCランクは確実じゃねぇか……」
沈黙の後、何人かの討伐者がそんなことを囁き始める。そんな時だった……。
「――面白い。少年、私と戦ってみる気はないか?」
ユウの後ろから、そんな少女の声が聞こえてきた。