五百年の静寂
「すると、無かったと申すか」
「左様です、陛下。それらしきものは痕跡一つ残っておりませんでした」
そこは王宮の様な場所だった。
千人は収容出来る程の広間の中央奥には玉座があり、その玉座には一人の男が座っていた。
「だがあの工房跡でグングニルが造られた事には違いないはずじゃ。となるとやはり何者かが持ち去ったか」
玉座に座りそう話す男、その見た目は長髪で細目、歳は二、三十程の年齢に見え、頭には小さな角の様な突起物が二つあり、無表情で淡々と話していた。
「わたくしとしても陛下の御見立てに相違ないかと存じます」
そして玉座に座る男の対面に立つ男がそう言った。
その男は甲冑を着、腰に剣を差し、脇には兜を抱え、身体は大柄で頭部は人間のものではなく爬虫類…というより竜の様な姿形をしていた。
「ドヴェルグ族が滅亡しておよそ五百年、グングニルはその機に乗じて持ち去られたか、その後に持ち去られたか、或いはグングニル奪取がドヴェルグ滅亡の原因そのものかも知れぬ」
「ドヴェルグ族の滅亡自体が未だ謎多く、何故彼らが滅んだのかもハッキリしておりません」
「今となっては手掛かり一つ有るまい。長年かけた労力の末、工房跡の場所は掴めたというに口惜しいのう…」
「手掛かりになるかはわかりませんが工房跡より幾つか目ぼしい物を持ち運んで参りました。宜しければご検分ください」
「良かろう。ニズグルは手際が良い」
「は…。おい、例の物をこれへ」
ニズグルと呼ばれる竜の頭を持つ男がそう一声掛けると、ニズグルと同じような甲冑を身にまとった数人の兵士達が工房跡から持ち出した物を運び、玉座に座る男の前に並べた。
「ふむ、どれも年季が入っておる、やはり五百年前のものか。…これはドヴェルグが用いていた工具であろうか。金槌一つ見ても魔力が籠っておる、間違いなくドヴェルグのものじゃ」
そこにはドヴェルグの職人達が愛用していたと思われる金槌や籠手、そして武器なども含まれていた。
「この剣や槍は…いや、これはドヴェルグの物ではない。なるほど、なるほどのう」
今まで淡々と話していた長髪の男からふと笑みがこぼれた。
次々と工房跡の遺物が運ばれ、そして最後には何やら石像の様なものが兵士四人がかりで運ばれてきた。
その石像の姿は子供の様な外見をし、苦痛に満ちた表情で何やら叫んでいる様にも見えた。
「この像は恐らくグングニルとは関係ないものでしょうが、妙に気になったので持ち運んで参りました。ドヴェルグ達が崇拝した神か何かでしょうか?」
「ドヴェルグどもは神を崇めなどせん。奴らと神々との間にあるのは利害関係だけじゃ…ん?これは…」
長髪の男から言葉が消え、眉間に皺寄せながらその少年の石像を目を凝らす様に見つめた。
「陛下、如何なされました?」
「これは石像ではない、ドヴェルグそのものじゃ」