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ドヴェルグの竜騎士  作者: 歩滝瑛弐
1/8

イーヴァルディの息子

ー地底、ドヴェルグ族の里ー


「ねぇ、ウェズン、ティーラ、やっぱり止めようよ」


「何言ってるんだよセントリ、お前が冒険したいって言い出したんじゃないか」



地底世界のとある街外れの小道、そこに言い合いをして歩く三人のドヴェルグ族の子供がいた。


男女合わせて三人。


男児と女児のドヴェルグは足早に歩き、そしてもう一人の男児のドヴェルグはその二人を引き止めようとしている様子だった。



「でも怒られちゃうし、きっと遠いし、いつ着くかわからないよ、地上なんて」


「それでもいいんだ。もう地底なんてウンザリだ。遊び場所はどこも飽きたし、どこに行っても顔見知りの人ばかりだし、窮屈すぎて死んじゃうよ」


「でも…」


そう言い争う二人のドヴェルグ。


「ねぇセントリ、地上にはね、昼と夜っていうのがあってね、天井の色がグルグルと変わるのよ。昼は青色の幕がどこまでも広がっていて、夜は黒色の幕とそれに宝石のような光がキラキラとしてるのよ。見に行きたいと思わない?」


今度は女児のドヴェルグが二人を引き止めようとする男児のドヴェルグにそう話しかけた。


「知ってるよ、空でしょ。でも空には太陽っていう恐ろしい炎が燃えていて、その光を浴びるとドヴェルグは石になっちゃうんだ」


「そんな話を信じているのかセントリ。それは大人が子供達を地上に近づけさせない為のウソに決まってるよ」


と、再び男児のドヴェルグが言い返した。


「そうかなぁ…。でも夜は宝石みたいって言うけど、本物の宝石なら地上より地底の方が何倍もあるんだよ。だから地上のエルフや人間達に宝石が高く売れて、ドヴェルグは良い生活ができるんだって父ちゃんも言ってたし…」


「それも本当かどうか分からない。だから確かめに行くんだよ、セントリ。世の中の全部はやってみないと分からない事だらけなんだ」


「う〜ん、でも…」


男児のドヴェルグは黙り込んでしまった。


この二人のドヴェルグの男児、名をウェズンとセントリと言い、兄と弟であった。


女児の名はティーラ。


ティーラはウェズンの幼馴染であり、ウェズンの行くところにはいつも付いて来た。


「ねぇセントリ、地上に行ったら私とウェズンは結婚するのよ。そしたらセントリは私たちの子供にしてあげる。きっと楽しいと思わない?」


「えっ⁉︎…」


ティーラの言葉に思わずウェズンが唸った。


「え〜、やだよ。僕には父ちゃんも母ちゃんもいるのに…」


セントリもそう反論した。


「そうだよティーラ、そんなの初めて聞いた」


「だって今思いついたんだもん。良いでしょ?ウェズン」


「えぇ〜…」


ウェズンは困り顔を見せながら、内心満更でもない様な表情を浮かべた。


「ねぇ、じゃあさじゃあさ、地上に行く前に一度父ちゃんの仕事場に行こうよ。もう会えなくなるかも知れないし、神様の槍がどれくらい出来たかも見ておきたいでしょ?」


そうセントリが言った。


「そうだな…。うん、そうするか」


「うん、そうしよう!」


セントリの提案にウェズンとティーラも同意し、一行は行き先を変えウェズン、セントリ兄弟の父親イーヴァルディの仕事場へと向かう事とした。


三人が歩くその道は日の光の差さない地底であったが、所々に設置された燈台と岩石に埋まる数々の宝石の光が三人の行く先を照らしていた。



ウェズン達の父親、イーヴァルディの職業は鍛治職人である。


巨大な鍛治工房の棟梁であり、幾人もの鍛治職人達の仕切り役であった。


イーヴァルディ達の腕前の噂は神々の耳にも入り、工房は過去に何度も神々の武器や道具の製作を請け負っていた。


そして現在は神々と巨人族との最終決戦での切り札となるであろう主神の大槍を[建造]している最中であった。


「おい、押すなよ。痛いよ」


「だって暗くてよくわかんないんだもん。ここどこ?」


「ウェズン、ティーラ、静かにして。見つかっちゃうよ」


その工房の隅で、そう話し声を立てながらモゾモゾと動く布袋があった。


「あん?なんだこりゃ…」


一人の職人がその布袋に気付いた。


「あぁそうか。親方〜、またお子さん達来てますぜ〜」


「ああん⁉︎なんだと!」


職人に返事をする野太い声が工房中に響く。


「まずいバレた!逃げろ!」


すると布袋の中からウェズン、セントリ、ティーラが這い出て外に逃げようとした。


しかし一度に出ようとした為に袋口に頭が引っかかり三人はなかなか出られない。


「こら、オメエら、また来たのか!ここは遊び場じゃねぇって何度言ったら分かんだ!」


野太い声の主はその袋を持ち上げ、そして引き裂き、中の三人の放り出した。


三人を叱るこのドヴェルグの男こそウェズン、セントリ兄弟の父親イーヴァルディであった。


身の丈は百四十センチ弱、浅黒い肌に筋骨隆々の肉体、顔には三つ編みに縛った長い髭を蓄え、太い眉と眉の間にはシワを寄せていた。


「ごめん父ちゃん、いや、セントリが見に行こうって言い出して…」


「うわ!ウェズンずるい!違うんだよ、ウェズンが地上に出るなんて言い出すから父ちゃんに止めてもらおうと思ってワザと工房に行こうって言ったんだよ」


「うわ!セントリずるい!」


「あんだって?地上だぁ?地上に出たらドヴェルグは石になっちまうって何遍も耳にタコができるほど言ってるだろうが!」


「いやでも…こういうのって確かめてみないと分からないでしょ?」


「馬鹿たれ‼︎」


イーヴァルディは鈍い音が鳴る程のゲンコツをウェズンに喰らわせた。


「いってぇ…なんで俺だけ」


「当たりめぇだろうが!兄貴のおめぇが弟やティーラを引きずり回して何かあったらどうすんだ!」


「だって俺、外の世界が見たいんだもん…。このまま一生地底なんて嫌だよ…」


「地上なんておめぇが思っているような良い場所じゃねぇ、子供は大人の言う事聞けばいいんだ」


イーヴァルディに一人説教されるウェズン。


その側でティーラは今にも泣き出しそうな顔をし、セントリは少し申し訳なさそうに上手くこの場がまとまる手立ては無いかと辺りを見回してこう言った。


「そうだ父ちゃん、神様の槍はどれくらい出来たの?」


「んん…そうだな、折角来たからグングニルでも見ていくか」


イーヴァルディはそう言うと、工房奥の最も広い区画に三人を連れて来た。



「この部屋にあるのが魔槍グングニルだ。あとは仕上げだけで完成間近なんだがな」


その部屋は天井が高く造られた構造で、そこには長さ五十メートル程の大槍が塔のように建てられ、その大槍を完成させるべく数人のドヴェルグ達が作業していた。


「すげぇ!もうこんなに出来てたのか」


ウェズンは先程まで説教されていたのが嘘だったかの様に目を輝かせ大槍を見つめた。


「そうだ。グングニルが完成したらそれは主神の手に渡り、最終戦争に決着が付く程の重要な兵器となるんだ。その暁に俺達ドヴェルグは褒美に神様の国に連れてってもらえるんだ。地上なんかよりずっと素晴らしい所なんだぞ」


「わぁ…すごいなぁ、すごいなセントリ!」


「すごいねウェズン、やっぱり地上じゃなくて工房に来て良かったでしょ」


「じゃあ私とウェズンはそこで結婚するのね、素敵!」


「うわぁ…」


三人はすっかり元気を取り戻してはしゃいだ。


工房には職人が作業する音と子供達の声が鳴り響いていた。



しかし程なくして、それとはまた別の音が微かに彼らの耳に触れてきた。


ズン…ズン…ズン…。



「え?…何が聞こえない?ねぇ父ちゃん、他の部屋でも何かしてるの?」


セントリが言った。


「…いや、知らん。今動いているのはこの部屋だけのはずだ。何だこの音は…」


その音は段々と大きくなり、やがて地響きの様な振動を伴って工房中に広がっていた。



ズドォ‼︎



その大きな音と共にウェズン達の上から何か降ってきた。


それは天井そのものであった。


天井の破片の岩石がボロボロと工房中に落ち、その衝撃でドヴェルグ達は慌てふためく。


そしてさらに大きな破片が落ちた時、工房の天井には一つの穴が出来た。


「ああ!」


その瞬間、ウェズン、セントリ、ティーラ、イーヴァルディ、その他全てのドヴェルグ達が空気が張り裂けんばかりの絶叫をした。


太陽の光が降り注いだのである。

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