スタンドアローン
マジかよこんな反応するんだ。
目の前で泣く女の子を思わず抱き締めながら俺は困惑していた。
これが妹なら
「助けさせろ。拒否権は無い。」
なんて俺が言おうものなら
「だが断る。
私を、―――――――嘗めない、で?」
とか言いながら自前のクソヤバスペックの脳ミソをフル活用して鮮やかかつスマートに問題を解決して
「気持ち、だけ、受け取っておい、た。ありが、と。」
って優しい笑顔で言ってくるだろう、あいつはそういうやつだ。
俺とあいつは比翼連理、どちらかがどちらかを一方的に支配したり保護することなどあり得ない。
拒否権は無いなんて言おうもんなら反発されること必死だ。
いや、マリアだけじゃないな。俺の周りの女は前世でも今世でもだいたいそんな感じで、俺なんぞよりよほど強いから
こういう反応をされるのはあんまり…………………慣れてない。
まぁ、マリアなんかは俺と出会った初期は俺に頼りっきりの子供だったが。
って、あぁそっか、そうだよな。
俺がこの子の中に見たのは―――――――今の強いマリアではなく昔のマリアだ。
まだ雛鳥の、俺の片翼など到底言えなかった頃の、俺の手が無ければ生きられなかった頃の妹なんだ。こいつは。
そのせいかアディを見ていると懐かしい気分になる。
まぁ
郷愁に浸るのもほどほどにしよう。
あの頃の弱々しくて庇護欲をそそるマリアは死んだんだ。死んだんだよ。
今のマリアは頼りになってかっこよくてとても可愛い俺の愛しのパートナーだ、惚れるぜ。
「…………ちょっと、そろそろ、離して…………。」
ん?胸元から声?
って、あ。
慰めようと思ってアディを咄嗟に抱き締めてたんでした、俺のが背高いから胸の辺りにアディの顔がある。
困惑しすぎて現実逃避してて忘れてたぜ。
「あー、悪い。泣き顔見てたら咄嗟に。」
子供の泣き顔には俺みたいな大人の庇護欲をそそる何かがあるよね。
まぁ少年兵として敵対してきたらそれでも殺すけど。殺してきたけど。
「う、うん。
いいけど、その、どうやって解決するの?飢饉とか疫病とか。」
んー、もう3年続いてるもんなぁ。そーとー拗れてるよな。
まぁ、何とかするよ。いけるいける。
「こうするんだよ。
―――――HQCから南部軍へ、イタリカ国で疫病が発生した。
我々はこれより人道支援任務を開始、医療支援と食料支援のため防疫部と輸送軍から兵員を招集して部隊を編成しろ。
現場で俺も合流する。」
俺はインカムを使い、イタリカにもっとも近い統合軍に指示を出す。
これで明日にはすべての準備が完了しているはずだ、指示するだけで他力本願バンザイだね。
「???」
通信機と言うものを知らない公爵令嬢さまはポカンとしてらっしゃるね。
ひとり言バリバリのヤベーやつだと思われてるかも。
まぁいいさ、そんなもんは些細なことだ。
こほん。
現代軍隊はそのスタンドアローンでの完結能力が特徴だ。軍事行動に関わる様々なことを軍隊内部で完結させ、他の勢力への依存度を徹底して廃することができる。
それは、戦闘だけでなく災害時にも発揮されるのだ。
民間の輸送路が死んだ状態での食料輸送や水の配給、軍医と自前の救護車両による怪我人病人への迅速な治療。
今回のような案件には、まさしく最適解だろう?
はじめての国外での仕事、しかも人道支援だ。
張り切ってやろう。
マリアタイプのヒロインが増えてほしいのです。