演習目標、海竜
海に浮かぶ333メートルの巨大な鋼鉄の塊。
うちの主力原子力空母“ジェラルド・R・フォード級空母“だ。
今乗っている艦はタスマニア南部を拠点にする第三艦隊、その中核となる第八空母打撃群の旗艦である。
その甲板上では今まさにタスマニア国王による条約調印が行われようとしていた。
「とてつもないものを作ったの……………、リアーナ譲。」
「スゲェだろ?」
王と、この俺リアーナ=セレス。
二つの勢力の長が互いに軽口を交わし会いつつ玉璽による調印が済まされる。
タスマニア王国が保管する用と俺たちが持っておく用で二枚ね。
片方はあちらさんに渡して、もう一方をアンに渡す。
これでタスマニアは俺たちの庇護を受ける権利と、防衛戦争以外の戦争をしない義務を負うこととなった。
「よーし、これで式は終わりだ、うまい飯を用意してあるぞ。」
そういって甲板から移動する。艦橋のドアから艦内に入って食堂へ。
料理担当には新大陸から持ち込んだトマトでミネストローネやらトマトパスタやらを作ってもらった、とても美味しいです。もぐもぐ。
アンと部下のメイドたちが給使して真っ赤な料理がテーブルに並ぶ。
「真っ赤じゃの……………。唐辛子か?」
王様たじたじじゃねぇか。トマトだよ。
「ムグムグ………ムググ」
あ、話そうとしたけど麺が口んなか詰まってて話せねぇや。
「なにを言っとるのかわからん。
どれ。」
王はスプーンでミネストローネを一口。
険しい顔で味わっているようだ。
「慣れん味じゃな、辛くはない。仄かな酸味でさっぱりしとるの。」
トマト尽くしなんで楽しんでってください。
と、そこから一時間ほどして着信が入った。食休み中に入ったその通信を頭がボーッとしながらも聞き取る。
「第八艦隊司令部からHQC。我が艦隊の潜水艦2隻が状況完了。あと数分でそちらに着く。」
今俺たちが居るこの機動艦隊の編成は、ジェラルド・R・フォード級原子力空母が一隻、マヤ型イージス巡洋艦が二隻、アーレイ・バーク級イージス駆逐艦が二隻、補給艦二隻、そして原子力化改修したばかりのバージニア級潜水艦二隻を配備している。
バージニア級は核弾頭や戦略級の弾道ミサイルを発射するコロンビア級やオハイオ級とは違い、通常兵器による攻撃を担当する攻撃型原潜だ。モジュラー式で組み立てられているため特徴的な細長いボディーをしていて、スクリューには覆いがつけられて静粛性も高い。
今回彼らの潜水艦部隊に頼んだのはタスマニア貴族達に見せる実弾演習用の標的を用意する任務
「潜水艦部隊からHQC、海竜の誘因任務を完了。あと三分で目標ポイントに誘導を済ませる。」
実弾演習の標的に使うのは――――海竜。
この艦隊の能力を見せるのにこれ以上のものはない。
「HQCから潜水艦隊、ご苦労。どうやったんだ?」
聞いてみると、どうやら海竜の巣に片っ端からピンガー、用はアクティブソナーを使用するときに目標探知に使う音波を打ち込んで、その音で挑発したらしい。
あとはここまで誘導すれば完璧。
素晴らしくシンプルだなおい。
「HQCから第八空母打撃群に通達、オープン回線なので聞こえていたとは思うがあと数分で演習の的がやって来る。対潜並びに対艦戦闘用意。」
さぁ、気を吐け。海の王者ども。現代艦隊の恐ろしさをこの世界に轟かせてやれ。
海上自衛隊最新護衛艦「まや」
タイコンデロガより大きい巡洋艦ですからね。