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ヘリボーン

余はガリウス=アーノルド=タスマニア。

タスマニア王国国王である。

本日はここ数日の悩みごとであるリアーナ=セレス辺境伯令嬢から提案された条約調印式の当日となってしまった。

日程は学園の休日に合わせて予定を組まれており、式典にはリアーナ嬢も参加することになっている。

あちらからの連絡によると、当日の昼12時頃には王宮へ迎えを寄越すので城壁内の広場にて待てとのことであった。


教会の時計塔がその刻限を示す少し前に、余と側近たちは指定された場所へと赴いた。


「城壁は開けておいたか?」


近衛騎士団の長へと確認する。

迎えの使者が城内に入れなくては話にならない。


「いえ、それが、なにやら城門は閉じたままで良い、と。」


そんなことを言ってきたではないか。



「竜騎士でも送り込むつもりか…………?」


竜騎士であれば、門が閉じられていようとも空から侵入することができる。

だが、一体のワイバーンに乗れるのは精々一人であり、それ以上の人数が乗り込むと重くて飛べない。

操縦する騎士でいっぱいいっぱいだというのに我々をどうやって運ぶ気なのだ?馬車などで追随しようにも速度に差がありすぎて不可能であるし。


と、そんなことを考えながら待っていると、空から強い吹き下ろしの風と爆音が降り注いだ。


「なっ、なんだ!」


皆が一斉に上を見上げる、すると、そこにあったのは


「空を飛ぶ…………方舟?」


それは、言うなれば鋼鉄でできた空飛ぶ船であった。

そいつは中から体に比して小さめな車輪を出し、地上に着地する。

芝生に柔らかく降り立ったそれの中からモンスターがわらわらと出てきて不思議な模様で彩られた杖を構える。あれが彼らの武器なのだろう。

昆虫のような目をして、複雑な模様の体表をしている。

顔の下半分は黒い布状の組織に覆われて口は見えない。

全体的な体の構造は人間に似ているが………?


片膝立ちになった人型モンスター達の後ろから新手が出てきて、こちらに走りよる。

そうしたら今度はその者達が地面に滑りながら伏せ、後ろに居る膝達のヤツが即座に立ちあがり伏せた仲間のそばに駆け寄り、立ったままこちらに杖を向ける。


なんという連携だ。オークやゴブリンなど比較にもならない。人間の騎士団の連携よりも明らかに錬度が上である。


ふと気がつくと護衛の騎士達が剣の柄に手をかけていた。警戒しているのだろう。


「…………この国には迎えに来た使者に敵意を向ような礼儀は無かったと思いますが?」


凛と、鈴を鳴らしたような声が場に響く。

声をあげたのは今まさに方舟から出てきた女性。黒髪を肩で切り揃えた黒いワンピースドレスとエプロンを付けた美しい女であった。

彼女の言葉からして、どうやらこのモンスター達はリアーナ嬢の寄越した使者であり迎えらしい。


「許せ、見たことが無いものたちに騎士達も警戒しておるのだ。」


「この子達は我々の軍の兵士です。


…………顔を出してください。」


女の言葉と共に、モンスターだと思っていた者達が次々と顔につけた布を外す。


「人間………か?」


白い肌と見慣れた人の目が出てきてようやく気づく。彼らは我々が知らない型の鎧を着込んだ人間………兵士だったのだ。


「モンスターにでも見えましたか?見慣れない格好ですし仕方ないかもしれませんね。」


顔を出したあちら側の兵士がそんなことを言いながら苦笑する。

こう見ると普通の青年だ。

モンスターと勘違いしたことを謝罪する。

本来王は簡単に謝ってはいけないのだが、今回はこちらより遥かに高い武力を持つ勢力の使者が相手なのだ。

ましてや少し前に公爵に謝罪を任せた結果、「トップを出せ」と言われて彼らの軍に竜騎士の部隊を爆殺されている。仕方がない。


そこから学んで、私自身が謝ったことが効を奏したかエプロンの女が少しだけ表情を緩めた


「私はアン、リアーナ様の側近でございます。以後お見知りおきを。」


この女はアンと言うのか。

どうやらあちらでもかなり高い立場の者のようだ。


「余はガリウス=アーノルド=タスマニアだ。王ゆえ敬語は使えんが了承してくれ。」


礼節を忘れず対応しなければとんでもないことになる。


「かしこまりました。では我々のヘリに乗ってください。」


空飛ぶ方舟はヘリと言うらしい。

余と側近達がそのヘリに向かって歩き出そうとした、そのとき。


白刃が煌めいた。


騎士達のうちのひとりが剣を抜き、アンに切りかかったのだ。


近衛たちがそやつを止めようと反応する。だが、これは間に合わない。


アン殿が切られる



―――――――皆がそう思ったそのとき



抜剣した騎士が地に突っ込んだ


――――――は?


「……………剣の一撃を半身になって回避し、足をかけてバランスを崩した後、襟刳りを掴み引き倒したか。

地面に倒した後はすぐさま倒れ込むように自らの右膝で騎士の手を押さえ込みつつ、相手の背を左足で踏みつけて完全に無力化している。



――――見事だ。」


騎士団長がそんなことを宣う。

なんと、こやつには見えていたのか。

いや、そんなことより今は今目の前で我々の騎士がリアーナの使者に切りかかったことの方が問題だ。下手をすれば、国ごと潰される。



「アン殿っ!すまない。そやつは――――「太刀筋から見て隣の帝国から潜り込まされた工作員ですね。我々とタスマニアの関係を壊すために送り込まれた、そうでしょう?」

我々の指示ではっ…………て、え?」


アン殿曰く彼の動きはシャシュカ術と呼ばれる、我々と仲が悪い“帝国“の軍で使われている剣術のそれでありタスマニアとリアーナ殿との不和を生むためにこのようなことをしたのだろうとのことだった。

我々の指示したことではないという言い訳はどうやら必要なかったらしい。

事後対策はあちらでしてもらえるらしく、工作員はすぐさまアンどのの鎌状の短刀で延髄を刺されて殺された。


「私の指摘の瞬間、彼の鼓動が早くなり発汗も増え息を飲んだことからほぼ確実であると思われますが、一応こちらで確認しておきますので。」


だそうで、我々は無事にヘリに乗り込むことができた。


…………とんでもないものを抱え込んでしまったなぁ。













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