Hearts&minds
現在、王城で王と公爵の会合が開かれているとの報告を受けた俺はその内容を録音して保存しておくことを命じた。
これで何かあったときの証拠になるからな。
通信を切り、延びをする。筋肉が蕩けるー。
さーて、今日は何しようかねー。
午前の授業も終わったし、とりあえず昼飯かなー。
そんな呑気なことを考えながら歩いていると、学園のテラスに一人の少女を見つけた。
その子は椅子に座り、悩ましげな顔をしている。
んー、あの子は友好関係のある国からの交換留学生だったはず。
たしか、ウチの国の南にあるイタリカ王国の公爵の子供だったか。
俺は持ち前の優しさを発揮して声をかけることにした。………ん?敵対者以外には優しいんだよ?俺。
まぁ他国貴族に恩を売れるかなって打算もあるけどね。
Hearts&minds大事。その地域での作戦行動がやり易くなる。
というわけで
「や、お嬢さん。ひとり?」
突撃ぃー。
と、彼女の国の言葉で話しかける。
うちの国の公用語はドイツ語に似た言語だが、この子の国ではラテン語系の発音、文法の言葉が基本だ。
まぁ、前世は多国籍軍に居た俺であるし語学は得意なんですよ。すぐ各国の言語を覚えれました。
「えぇ、まぁ
―――――ヒッ!!リアーナっ………様」
あらぁ………めっちゃびびられとるやん、様付けだし。
まぁ、そりゃそうだよなとしか言えないけど。いろいろ派手にやったし。誰だって死にたくないもんな。
「あー、ごめん。昨日の今日だもんね。
いきなり話しかけたし、驚かせちゃったね。
怖かった?
大丈夫、俺はそっちからなんかしてこないかぎり何もしないから。ね?」
困ったような笑顔を浮かべて、優しい声で俺がそう返すと、その子は恐る恐るではあるがこちらを見てくれた。
警戒を解く第一段階、共感。つまりは相手の気持ちをこちらが言語化してやる。
「俺は親が政治屋だし、領地が辺境だから。
抑止力になるように他国の人間も居るこの場で力を示しとけって、言われて。」
少しだけうつむいて、声を震わせる。
ん?完璧に嘘だよ?当たり前じゃん?
「君も、わかるでしょ?俺たちは、自分を―――――女を捨てるか女を使うかしなきゃやってけない。俺も、君も。」
貴族の娘と言うのはかなりシビアな立場だ。
政治の道具として使い捨てられるか、そうなりたくなければ女を捨てて国と政治にすべてを捧げるか。
それは目の前のこの子も同じだ。
それを、理解していますよと、俺も同じですよとさりげなくアピールする。
警戒を解く第二段階、同一化。
互いの共通点を示してやる。
「君みたいな可愛い女の子ならまだしも。俺はそうなれなかったから、さ。
どんな手を使ってでも嘗められないように、色々と守れるようになんなきゃいけなかったんだよね。」
俺の言葉に女の子は悲痛そうな表情になる。
警戒を解くには自己開示が一番だ。
例えそれが、嘘っぱちの情報だとしても、な。
俺はどこまでも自由に生きてきた、今語ってるような息苦しさも無理も感じたことなど無い。
でも、今は、あぁ、演じよう。
無理して強がるしかなかった哀れな娘を。
この子の、同類を
すると
「なぜ、そんなことを話したの、ですか?軽んじられたくないと、領地を守りたいと思うなら………弱味は見せるべきではないのでは…………?」
彼女はそんなことを言ってきた。
これは、おそらく彼女のことだ。
貴族として弱味を見せないようにしてきた、弱味は見せるべきではないと律してきたのは彼女の方だ。
だからここで止めを刺す。
「何でだろうね、似てるからかな?」
俺の言葉が彼女に訝しげな表情をさせる。
「君もでしょ?無理してるのは。
何かを抱えて隠してる。それが俺と重なったからつい話したくなった、君をひとりで居させたくなかったんだ。」
話していいのだと、俺と君は同類だと
言い切る。
すると俺と相対する少女は、一杯に開いた目から一筋の涙をその白く滑らかな頬に走らせた。
―――――堕ちては
ない。
まだ
でも、壁はすでにない。
俺の言葉が事実と違っていても、今は関係ない。
自らの強がりで壊れそうな、脆く儚く弱いこの子と
自らの我を全て通して余りある力と傲慢を身に纏った俺とでは本質からして全く違うなどということは
悟らせない。