王と暴君
竜騎士の基地と学園を吹き飛んでより少しの日がたった。
タスマニア王国王宮、王と公爵が顔を会わせて頭を抱えていた。
「まさか貴様が言っていたことがすべて本当だったとはな…………。」
ガリウス国王は口の中で呟いた。
彼らが頭を悩ませているのはリアーナ=セレスと彼女の有する軍勢についてである。
公爵令息の証言や王都の民、そして王宮に居るものたち全てが、彼女の引き起こした大破壊を見ているのだ。
竜騎士たちが駐留する基地を一撃で壊滅させた爆発。
そしてそのすぐ後に空から降ってきた、見たことも無いような不可思議な鎧を着た兵士の群れ。
それらは圧倒的でありタスマニアの全戦力を結集しても勝てないであろう事は明白であったのだ。
「それで?令嬢はどのような要求を?」
「それが…………。」
王の問いに、忠臣は口ごもる。
リアーナが竜騎士の部隊を壊滅させてまで欲したもの、それは
「こちらの条約に批准しろ、とのことでございます。」
そういって彼が出してきたのは、一枚の羊皮紙。
条約、つまりは国家間での、あるいは国際社会におけるルールである。
王が印を押すことはそれに同意したことを示し、その国は順守義務を負うこととなる。
どうやらその内容が書いてあるらしい紙を受け取り、王は目を通す。
今回出された内容は
「不戦と、報復について、か。」
防衛戦争以外の戦争の禁止と、戦争時におけるリアーナの軍勢の武力介入を認めよ、というものであった。
また、これはタスマニアのみでなくこれから各国に提案する予定であり、侵略行為や不当な武力行使を行った国は即座にその軍を壊滅させるという旨が明記されていた。
不当、の基準を明記していない辺り恣意的運用を狙っているような印象を受けるが……………。
そして、王がなにより注目したのは「批准した国は他国から侵攻を受けた際にはリアーナの私兵団による武力援助を受ける権利を有する」という項目
国内発展において防衛はなによりものジレンマである。疎かにすれば他国から滅ぼされ、かといってそこにリソースをつぎ込めば国内の発展に割くリソースが無くなり内政が滞る。
これは日本がアメリカの軍事的な後ろ楯を得て軍の予算をカットした途端に急発展したことからも明らかであり、王とて政治家として軍事の功罪はよく理解していた。
この条約に調印すれば――――――軍を動かすための金を削れる。国が発展できる。
ただでさえ最近は市場から奴隷が買い占められて労働力が無いに等しくなっているのだ。これは素晴らしく魅力的な提案に見えた。
ただ、ひとつの懸念は
「まぁ、彼女がこの文言を守ってくれれば、の話だがな。」
そう、いざリアーナが条約を反故にした際に従わせるための強制力をこちらが有していないことである。
とはいえ、従うしかあるまい。
もし調印しなければ彼の令嬢は今度は王宮を吹き飛ばしたとておかしくないのだ。
「調印式は?」
王が聞く。
「三日後に。場所については迎えを寄越すゆえ知る必要は無い、と。」
知る必要は無い…………知られたくないと言うことか。
王はそのように解釈し、頷く。
三日後、その時がこの国の分水嶺だ。
ガリウスは調印式の事を考え、胃の痛い三日間を過ごすこととなった。