入学
「しかし、マジェスティ?なぜここまでする必要が有ったので?」
アンが挙手して聞いてくる。
ここまでとは?
「いえ、今まで負けたことすら無いにも関わらず、戦争も起こっていないのになぜ軍拡を推し進められたので?」
ん、あぁ、やりすぎだってこと?
いや、そりゃそーでしょ。だって。
「いいか?アン。戦争ってのは一度始めちまえば準備してる時間や余裕なんざソッコーで吹っ飛ぶ。どんなに強い軍隊でも、だ。だから平和なうちに、負けてないうちに出来うる限りの事をしておくんだ。」
俺の言葉にマリアが頷く、理解しているのだ。戦争の勝敗とはそれまでに行ったことの集積であると。つまり戦争とは始める前にすべてが決まっているのだ、始まってからでは手遅れなのだ、と。
「“今まで負けなかった、だから次もこれで勝てる“んじゃない。“今まで負けなかった、でも次はこのままでは負けるかもしれない“んだよ。ベストは負けてから尽くすもんじゃない、負けないために、犠牲を出さないために、始まる前から常に尽くさなきゃダメなんだ。」
俺の言葉にアンとマリアは納得してくれたようだった。
よかよか
「ま、これだけやれば俺もそろそろネタ切れが近いし、しばらくは軍拡はゆっくりだな。」
そろそろ知識の限界が見えてきたのでね。
ベストは尽くして力を貯めた。あとは存分に振るうとしよう。
――――――平和のために。
あぁ…………楽しみだ。
「そういえば、あと三日でご入学でございますね。」
ん?あぁ、学園の話か。
そうだな、あと三日ほどで入学式だ。
貴族として必要なことを学び、コネクションを作るために入学するらしい。
正直俺には必要ないような気もするが、まぁ楽しそうだし。
「おねぇ、ちゃん、あと、一年、だよ。」
「あぁ。」
マリアのこの一年だよという発言、これは、あと一年でヒロインが入学し、タスマニアンラプソディーが本格的に開始する、ということだ。ヒロインは俺の一年後輩なんですねぇ。
彼女曰く乙女ゲーの悪役に転生するパターンはまず攻略対象を陥落させるのが王道らしいが、俺はむしろ唯一出会った攻略対象を思いきりビビらせてトラウマ植え付けてやってたからな。
もともとのタスマニアンラプソディーでは隣接する“帝国“と戦争が始まり。それに学園の生徒が貴族として従軍するってのがメインイベントだった。
で、このゲーム、少女漫画をモチーフにしているらしく、悪役令嬢もののテンプレートよろしくカタルシスたっぷりの断罪イベントがある。
敵前逃亡とか帝国との内通でリアーナは裁かれ処刑されるのだ。
ぶっちゃけ今の俺も反乱とか王子への攻撃とか玉璽偽造とか、処刑役満不可避なんだが、武力があるからね。
敵対したやつは滅ぼすからね。問題ないね。
気ままに学園生活を楽しみますよ。俺にはそれだけの力が―――――慕ってくれる味方たちが千万オーダーでいるんだから。