現代へと
それから三年がたった。
俺ももう15歳。学園入学の年だ。
この三年間で軍備にもだいぶん進歩があった。
データリンクシステム等の通信システム、そしてGPSのような兵器の精密誘導に欠かせない地形把握システムは、大量に打ち上げられた衛星によって完璧に構築され、効率的な指揮管制や兵器による正確な火力投射を実現する。
これにより航空機部隊には新風が吹いた。
クラウドシューティングと無人航空機の実用化である。
無人機については衛星通信によりリモートコントロールで機体を操縦する。RQ4グローバルホークのような高高度偵察機やMQ9リーパーのような無人攻撃機が配備済みだ。
クラウドシューティングシステムはレーダー情報やロックオン情報を友軍で共用するシステムで、戦闘機でロックオンした目標に無人機やイージス艦からミサイルで攻撃させる、などと言うことも出来る。
実質戦闘機部隊が撃てるミサイルの数が増えたようなもので、そのアドバンテージは単純な火力上昇だけでも計り知れない。
歩兵用のヘルメットやボデイアーマー、各種装備品も量産され今では全ての歩兵戦力がアラクネー繊維製の対弾、対刃防御装備を身につけ、行軍訓練の際はレーションとして支給されるシチューやらスープやらを食っている。
ヘルメットには各種センサーやガスマスクを取り付けるためのレールも着いており、それに加えてヘルメットと一体化したバイザー型ディスプレイに各種情報等の表示をするHMDシステムを搭載している。
これはもちろん安定のマリア印………ではなく、マリアから学んだ開発部の連中がプログラミングして仕上げたものだ。
妹のお眼鏡に敵う出来らしく、折り紙つきの性能ではある。
耳の部分は大きくえぐれており、通信用のヘッドセット、ヘッドフォンを装着しても干渉しない。
メット前頭部にある暗視装置取付け用のシュラウドには開発部の高性能汎用暗視装置、赤外線と光学的な暗視システムをひとつで賄えるやつを取り付けられる。
ボデイアーマーにはライフルのマガジンを入れるマガジンポーチが5つ備えられ、内部にはアラクネー繊維性トラウマプレートが仕込んである。
このプレートは7.62×39㎜の弾丸の直撃に耐えるため、カラシニコフでも抜けない。
こいつはベルトでしっかりと体に固定して装着する。
タクテイカルグローブはカンガルー皮製。人間工学にもとずく設計と滑り止めにより素早く確実に銃を構えられる。
腰回りには物が落ちないよう入り口に返しの付いたダンプポーチが大ふたつ、小ひとつ。
左右に大きいものを、後ろに小さいものをというかんじだ。各種備品はこいつで持ち運ぶ。
拳銃用のマガジンポーチも備えられているため素早くハンドガンのリロードが可能だ。
服はこれまたアラクネーから作られた防刃防弾仕様。そこにベルト、バックル固定式のニーパッドやエルボーパッドを装着するのだ。
また、脚部にはエグゾスケルトンと呼ばれるプラスチック製の外骨格が装着され、装備の重量負担を和らげてくれる。
履物は中にトラウマプレートを仕込み、強化ゴム、滑り止め付きの靴底のコンバットブーツ。
背中には防弾繊維で作られたリュックを背負い、戦闘用の物資やサバイバルキット、ハイドレーシょンを入れておける。
これの中には通信システムの本体も入っており、ケーブルがヘッドセットまで延びているのが見てとれるだろう。
銃のレールには空爆の際に誘導爆弾の目標を指示するレーザー照射装置やホロサイト、補助用のグリップであるフォアグリップなどが備え付けられゴテゴテした印象だ。
これらの装備品は全て、マルチカムと呼ばれる様々な環境でで高い隠蔽効果を発揮する迷彩に塗装され、銃に関してもタンカラーにより発見の困難さをあげている。
と、こんな感じでフルセット。あとはバンダナで顔を隠せば
「完成だ。かっこいいだろ?」
歩兵いっちょあがり、と。
自分でそのセットをすべて装備してみてわかったが、アラクネーの糸を採用したおかげでかなり軽量に仕上げられているなこれ。
「まじ、やば…………。」
「これは…………ものすごい威圧感ですね………。」
完全装備の俺を見てアンとマリアから感嘆の声が上がる。
ふふふそうだろそうだろ。
かっけぇだろ怖いだろ。
歩兵と戦術的なソフトウェアに金をかけるかどうかで近代国家の軍隊か、現代国家の軍隊かが別れると俺は思ってる。
ようやく俺たちも近代から現代に足を踏み入れたと言うわけだ。
「機は、熟した。
さぁ……………世界を蹂躙しようじゃねぇか。」
千年先まで語られる勇猛なる戦士たちの、神話。
それは、今、ここから始まる。