アラクネーの糸
店頭に並んだ布の中から、マリアがピックアップしたのはアラクネーの糸から作られた生地だった。
店主曰く
「アラクネーはここより隣の大陸に生息する蜘蛛のモンスターでございます。この種は大きさが2センチと小型ではありますがその吐き出す糸が大量であることが特徴でございまして。」
ふーん。
「巣の大きさは直系30メートルにもなると言われております。」
げっ。そいつはとんでもないな。
「その巣を集め、ほぐし、生地としたのがアラクネーの布でございます。強度、コシ、色艶ともに申し分ない最高級品でございます。」
にこにこと笑ってそんなことを解説してくる。
これあれだな、質とプラスして輸送距離がクソ遠くて大変だから値段上がってる感じだな。
と、俺の隣にいるマリアが何やら顎に手を当てて考え込んでいた。
「お、ねぇ、ちゃん。たしか、開発部のこたち、ボディアーマーつくってた、よね?」
ん?あぁそうね。
生地の目処がまだ立ってないらしいけど。
「特徴から、見て。アラクネー、は、ダーウィンズバークスパイダー、かも。使える。」
ん、んん?なんぞそれ。
マリアによるとダーウィンズバークスパイダーというのはアフリカに住むコガネグモ科の蜘蛛で。巨大な巣を作ることで有名らしい。
……………隣の大陸とやらの気候はアフリカに近いのか?
体長2センチほどのこいつが出す糸は強度と伸縮性に富み、防弾ジャケットに使われるケプラーの十倍の強度を持つそうだ。
その強度は鋼をも超える。
さらにはケプラーの弱点である耐水性、耐湿性もバッチリで、普通の繊維でできた布なら少しでも破けたらそこから連鎖的に強度が弱まる所をこいつは自動的に分子が結合して強度を保つという。
まさしく開発部のやつらが今求めて止まない素材だろう。
「とりあえ、ず、これを買って、試験して、みる。」
マリアが購入を決めたようなので、アラクネーの布を買ってやる。
とはいえこれではまた借りを作るかたちになってしまうので、もうあと数点ほど高級な反物を買ってプレゼントしておいた。
喜んだ妹はマジで天使でした。
「こいつがその蜘蛛の糸だったとして、どうやって量産するかな。」
「養蚕、みたい、に、蜘蛛を繁殖させて、飼育すれば、いい。」
なるほど蜘蛛自体をうちで増やして買うわけか。
ちなみにこのとき問題になるのが蜘蛛は共食いするということで、生まれたらすぐに隔離することと一匹ずつで区切られた十分な飼育スペースが必要となるらしい。
ガラスで区切った飼育スペースを作り、定期的に巣に餌をくっ付けてやれば良いか。
スペースの大きさは少しずつ試しながら詰めるとしよう。
というわけでさっそく基地に連絡して、なるべく多くの兵士を動員させてアラクネーを捕獲する作戦を命じる。
オスは極小で、巣に引っ付いているらしいので注意しろとマリアから伝えられたのでそれも付け加えて。
これでなんとか布地の目処がたった。
こいつで防弾性能のあるシャツを作ると同時に、トラウマプレートも作ろう。
このプレートはボデイアーマーの防弾性能を高めるためにアーマーの腹部から胸部にかけてと背中の部分に内蔵するもので、繊維を超高圧プレス処理によりプレート状にすることで製造される。
応用すれば軽量のバリスティックヘルメットやバリスティックシールドも作れるので開発部のやつらにはついでにそちらも製造してもらうとしよう。
いやー、豊漁豊漁。目的外の素晴らしい収穫だったね。
ダーウィンズバークスパイダーは実際に居ますしその特性も事実です。
とんでもないですよね。