紳士のキス
宿に帰ると、ヴァイスヴルストを頬張ったマリアを発見した。
ハムスター見たいで大変可愛らしいと思いますはい。
「マリアー。」
「ん、もぐ………んく………お、ねぇ、ちゃん。」
マリア、ソーセージを飲み込むシーンがやけに艶やかだが気のせいですなこれは。
近寄って頭を撫でてやると、とても嬉しそうに俺の手に頬擦りしてきた。
そうして撫でてやりながら、今度は手を繋いで町歩きを再開する。
と、そこでひとつ気になることが
「マリアよ、そういやオルトロスのヤツはどうした?護衛ならあいつらが居るだろ?」
マリアにも専属の護衛メイドがついているはずなのに、なぜわざわざ護衛が主任務でないリーコンを指名したのか、ということだ。
「ん…………あのこ達、忙しそう、だった、から。たまたま、通りがかった運転得意な、ひと、つかまえた、の。」
あー、はいはい。俺がアンに出した指示に皆さん忙殺されてたのね。
なんせ王宮相手にするんだし、そりゃ人手もあるか。
無理すりゃなんとかなるだろうが、マリアは優しいのでそんなことしないだろうしね。
そんで運転が得意で、現在非番の兵士に声をかけたと。
俺のせいか、納得。
そんな風にじゃれていると、マリアがあることを相談してきた。
農地の生産力向上、というか飢饉の回避のために農村、農地を改革したいとのことだ。
で、まぁ改革な以上金が要り………予算は今のところ十分だがいざという時には頼むことがあるかもしれないと言うことだそうだ。
で、金の話、開発の話でふと思い至ったけど
俺、マリアにさんざ各種開発で助けてもらっといて給金とかその他でお返ししたこと………あったっけ?
これがアンやオヤジ、その他兵士たちなら正当と思える給金を払っている。
だが、マリアには姉妹という立場に甘えて、こちらが頼まなくても動いてくれることに甘えて、今まで賃金らしいものを支払ってなかったのだ。
ゆゆしき事態すぎる。これは早急に払わねば。
対価無く労働させるのは主義に反するし、なによりいくら親しくて信頼していたとしても禍根を残しかねない。
というわけで、一旦マリアのお願いを快諾し、これまで彼女が開発してきたぶんの対価を話し合う。
マリアは半分以上好きでやってることだしいいと言ってくれたがここは引き下がれん。
喧々囂々、話をまとめた頃には日は山々に懸かり、周囲は茜に染まっていた。
しばし妹のぷにっぷにな頬を堪能して、頭を撫でて、話し合いの疲れを癒したあとで宿に入る。
部屋割りは決めてあった通りで、ヤロー二人と俺たち姉妹で別れる感じ。
まぁ、ぶっちゃけあいつらもなにがとはいわんが溜まってるだろうし、男同士のが気安くプロの女性とかも呼びやすいだろうて。
プロの男性、かもしれんけどな。
と、妹がその愛らしい顔をこてんと傾げて
「えっちな、こと、考えて、る?」
心を読んできやがった。マジか。
「マリアみたいなかーわいい娘といりゃあ、そりゃね。」
ソッコーではぐらかすとマリアが軽く、目を細めて――――微笑んで
少しだけ俺の心臓が跳ねる。
こいつこんなに大人びた表情をするようになってたのか……………。
「じゃあ、ちょっと、だけ。ね?」
顔を近づけて――――耳元をくすぐる血の繋がらない妹の甘い声。
ちょっとだけ、つまり本番やその前のアソビは無し。
「どこまでする気かな………?フロイライン。」
平静を装って放った俺のそんな軽口に、マリアは
「ん……………」
小鳥の啄みのような、とても軽く、でも愛情を感じるようなキスを返してきた。