狂乱
「貴様が俺の婚約者か!なんと貧相で、悪辣で、傲岸無恥な表情をした女だ!」
王子さまに出会ったとき、蔑んだ目と共に言われたのはそんな言葉でした。
彼に付き従う近衛兵や騎士たちは表情を出さずにこちらを見ています。王子を諌めたりはしないのですかそうですか。
彼に会うまで
「うーん猫被ろうかどうしようか、素の俺を見せるのが誠意なんじゃねぇかな。アンよどう思う?」
などとお話をしていたか弱い貴族令嬢であるこの私、リアーナ=セレスはその罵倒に心を痛め、胸を左手で押さえると
「オーライ ファッ〇ンボーイども。戦争だなクソッタレ」
そんな罵倒を返しつつ、太股のホルスター、ドレスのスカートで隠したそこから愛銃のM45CQBPをセーフティを解除しつつ引き抜きました。
スライドを引くことで、薬室に弾を送り込みつつハンマーを起こします。
胸に当てた左手は体幹のブレを押さえると共に心臓への攻撃を防いでくれます、タクティカルテクニックの基本ですね。
顔の前で構えて、騎士たちに銃口を向けて
―――――射撃
「ぎぁっ!」
「ヒギィッ!!うっ腕がっああ!!」
騎士たちの悲鳴が重なり調べを奏でて楽しいです。片手でもきっちりと中るので気持ちいいですね。
一人につき一発、足や腕を狙ったそれは過たず着弾し反応する間もなく七人ほどを無力化します。
45口径の大口径かつ対人徹甲弾を使用する私のM45なら、足や腕に当たればそこを大きく抉り、高確率で欠損させることが可能です。
「アン、order shot a escort」
その瞬間に通信機に吹き込んだ私からの命令を従順なメイドは聞き入れ、
「copy マジェスティ」
了承の返事と共に、既に構えて居たマグプルを王子の護衛たちに向けて発砲しました。
2発づつ放たれた9㎜の対人徹甲弾は騎士たちの手甲に包まれた手や、具足を着けた足を貫き引きちぎります。
「ぎゃひっ!!」
「あっ!ぎひっ………俺の………足…………どこにいったんだ…………。」
阿鼻叫喚ですねぇ。
フルメタルジャケットと呼ばれる弾頭を固い金属で覆った低殺傷力、ソフトターゲットへの貫通力のみしか取り柄が無いような軍用弾丸ならここまで大きな怪我は負わせられませんが、私たちの場合は高威力高貫通力の特殊弾丸がデフォルトですからね。
アンは撃ち尽くした瞬間にはすぐさまマグチェンジをしています。
そうやってまた射撃して、次々に王子の護衛の方の数を減らしていく私のメイドはすごく頼もしいです。
私の方も久々に人を撃つ大義名分を与えられた喜びを押さえきれず、唇の端を持ち上げていることを自覚しながらM45を発砲していきます。
今度は腰撃ちじゃなく、アイソセレースで、しっかり両手で持って、しっかり狙って、確実に痛みとそれに伴う恐怖を、与えられるように。
「―――――――あっ、ひ、ああっ!」
この惨劇のトリガーを引いた、私を罵倒してもれなくこの辺境伯令嬢リアーナとその護衛のメイドの逆鱗をぶん殴った王子さまは、涙を撒き散らしながら悲鳴をあげて蹲っています。
お前がやったことの結果だろうがしっかり見ろやク〇が
なんてちょっぴりはしたないことを思いながら二人して撃っていると、すぐに騎士の方々は後遺症が残るほどの大ケガをした者だけになってしまいました。
酷いですね、悲しいですね。
彼らも栄達を望んでくれる友が、彼女が、母や父が、養うべき妻が、子が、大切な方々が居たはずなのに。
王子さまの阿呆よりなお阿呆な一言で一瞬にして未来を奪われてしまいました。
まぁ臣下の義務を果たさなかった時点で同情の余地なし、私の脳内略式判決で有罪確定なので問題はありませんが。
とはいえめんどいな、こいつらの親しいやつからこっちにヘイト貯まるぞこれ。
俺悪くないよー、悪くない。こいつらの主君が先に喧嘩吹っ掛けて来たんだからねー。軍人なら連帯責任だよねー
うむ、言い訳はこんなとこで良いか。
対策として考えられる案は
フェイクを流してこのクソほどなめ腐った態度を取る王子さまの責任にするか、こいつらと親しいやつを片っ端から殺すか、こんなクソが権力者って時点でこの国に存在価値とか見いだせないしいっそ国ごとヤるか……………悩むわ。
コホン、ともかく今は婚約者さまとお話ししなければいけませんね。
「ヘイ、王子さま顔上げな。人と話すときは目を見て話せ、いいか?俺の目を見て話すんだ。それがレーギってもんだろう。
レーギを尽くせ、さもなきゃてめーも後ろで転がってるそいつらみたく穴ポコだらけになるぜ?アンダスタン?」
銃を指トリガーな状態で突きつけて、そんな風なことを言いながら少し凄むと、彼はものすごい勢いで顔をあげます。
こちらをジーっと血走った目で見ないで下さいませ、照れるじゃありませんか(嘘)。
「王子さま、目がうるせぇよ。」
ガツンッ!
「ぐぼっ!」
あぁほら、ついつい頭を銃の台尻で叩いてしまいましたわ。
「いいか?罵倒ってのは立派な攻撃だ。攻撃したなら、反撃される覚悟が無きゃいけねぇ。言葉には気を付けな、ボーイ。
お前は王族なんだ、ノブレスオブリージュを背負った王族なんだよ。軽率な行動は国を滅ぼす、万死に値する罪なんだよ。」
私のお説教が効いたらしく、婚約者様はコクコクと頷いておられます。
素直でよろしいですわね。
おや?アンからじっとりした視線を感じますね。
侮辱されて即発砲した私になにか言いたいのでしょうか?まぁ今は良いです。
「見ろ、お前の無責任な言動の結果を、彼らは、お前の護衛はお前の一言をきっかけにして騎士として生きれなくなった。ケンカを売る相手くらい選べ、クソッタレ。」
婚約者さまの顔を捕まえて、無理矢理後ろを向かせます。
そこにあるのは25体と少しの、もはや血を流して痛みに呻くのみとなった方々。
私は最大限の慈悲として
「サヨナラを言いな、ボーイ。」
その25の生ける屍の頭に弾丸をぶちこみ、脳漿をぶちまけさせて止めを刺していきます。
安らかに地獄に落ちろファッ〇ンガイズ
王族なら、戦争の時に誰かを大量に殺す決断を下す立場となるこの方なら、いくら12歳といえども大丈夫なはず…………あら、吐いてしまわれました。
そんな風にちょっとした騒ぎになっているといきなり扉が開け放たれました。
「こ!これはなんということか!き、貴様がやったのか!!?」
あらあら、王子さまの付き添いとして我が領に来ておられた宰相どのが部屋に入ってこられましたわ。
私のような可憐な令嬢に対して指を指すなんてどんな教育を受けてこられたのかしら?
うーん、この方は今までお父様と婚礼の打ち合わせをしておられたはずですが、さすがにあれだけ派手に銃声を轟かせたら気づかれますわよね。
と、いうわけで宰相さま
―――――――――どう落し前つけてくれんだ?