現代の空戦
視界の端で雲が後ろに流れていく。
F16戦闘機、お嬢やマリア曰く高性能かつ安価を体現する傑作戦闘機を操りながら、この俺―――鍛冶屋から戦闘機パイロットと言う訳のわからん転職を遂げた、お嬢から「オヤジ」と呼ばれる鍛冶職人は操縦管を引く。
戦闘機と言うのは機体を傾けるロールと機首をパイロット視点から見て上下に動かすピッチ操作でコントロールする。
水平飛行中に操縦管を引きピッチアップを行ったことで俺の機体は高度を上げていく。
空中戦というのはより上空に居た方が有利だ。
上から下に攻撃するには重力が手伝ってくれて加速し、機動のためのエネルギー消費が最小限で済むが、下から上に攻撃するには重力が邪魔をしてより大きくエネルギーを損失する。
空戦においては旋回を行う際に運動エネルギーを消費する、そして、それを消費しきってしまえば飛行機は失速し、動きが鈍り良い的となってしまうのだ。
このエネルギーは溜め込むことで、より継続して、鋭い機動をおこなえる。
蓄積する方法としては、より速く機体を直進させることで運動エネルギーとして溜め込む方法とより高空に位置することで位地エネルギーとして溜め込む方法とがある。
前者であれば機動の際には直進の運動エネルギーが旋回のエネルギーに変換され、後者であれば位地エネルギーが降下機動の際に運動エネルギーに変換されることになるのだ。
だから、まずは上空を取って位地エネルギーを溜める。
「Wolf quarter Climbing Flight level 40」
E767からの通信によると相手の高度は3000フィートほどでこちらに気づいていない
フライトレベル40、つまり4000フィートまで上がれば優位に戦えるだろうと考え、自らが指揮する部隊―――ウルフ隊の愛称がふられた戦闘機部隊に指示を出す
彼らは俺についてきて高度4000フィートでピタリと編隊を組み直した。良い練度だ。
そうして進むことしばし、アンノウンがロックオン可能な距離まで近づいてきた。100キロちょいの距離だ。相手は全く見えないが、攻撃は届く。
空戦の際に重りとなる増槽、追加の燃料を入れる装備を機体から外して投棄する。
後方で飛んでいる早期警戒管制機の支援を受けて、火器管制システムをホットにする。
ミサイルのシーカーがオープンされ、敵機を捉える。
だが、まだだ
「Wolf quarter waitattack」
皆に攻撃を待つよう指示し、距離を50まで詰める。なるべく近くまで行った方が回避されても長く追尾でき外れにくいし、ちょっとした狙いもある。
そして
「lock FOX3.FOX3」
FOX3、中距離用のAIM120アクティブレーダーミサイルを発射する合図をコールして、ミサイルを発射する。
威嚇も確認も必要ない、こんな大勢で詰めかけといて友好的だなんて言わせない。
このアクティブレーダーミサイルというやつは最初こそ戦闘機が誘導して目標を割りふりしてやる必要があるが、一度発射してしまえばあとはミサイル自体につけられているレーダーが敵を捉え、そこに向かって軌道を変更しながら飛んでくれる。
俺に続いて、無線からFOX3の声が聞こえて次々にAIM120がかっ飛んでいく。
俺の僚機が発射したのだ。
今出撃しているのは俺を含めて20機でそれぞれに4発づつアクティブレーダーミサイルを持っているため20×4で80発。
計80発が防御手段をもたないアンノウンに対して猛威を振るう。
「Bullseye all」
ミサイルに備わった高性能レーダーと高い運動能力、そしてラムジェットエンジンによるマッハ4の速度は相手をなすすべなく刈り取る。
これで残りはだいたい120ちょいか。
アフターバーナーを吹かし、加速する。こいつは連続で20分も使えば燃料が切れる恐ろしく燃費の悪い代物だが、機体の速度を音より早くすることができる。
ミサイル着弾によって相手が混乱するこの機を逃してはいけない、一気に20キロまで距離を詰めて、ゴマ粒ほどにも見えない的に対してAIM9を2発撃つ。
AIM9はサイドワインダーとも呼ばれる短距離用のミサイルで、赤外線により相手の熱を探知してヨコバイガラガラヘビのように蛇行しながら相手を追いかける。
俺の隊が放ったサイドワインダーは開発部の連中が作った探知装置により敵の温度を捉えて、着弾。
一気にレーダー上の、敵機を表す輝点が消える。
未知の攻撃で混乱したとこに先程のものより運動性が高いサイドワインダーが飛来したのだ、避けられるわけがない。
――――残りは80超。
本来ならミサイル発射直後に相手から飛来したミサイルを回避する行動を挟むらしいが、そんなものは来ていないので悠々直進する。
見えてきた、どうやらお相手はドラゴンのようだ。
「brake engage」
交戦の合図を出して、全機突っ込む
さぁ、格闘戦だ。