エースオブエース
E767という航空機を知っているだろうか?
空軍や海軍の、現代の戦闘機というものはレーダーによって敵を発見し、ロックオンし、撃墜する。
その際、より早く敵を発見し正確な位置を探れたら有利なのは言うまでもないだろう。
そのために戦闘機はより性能のよいレーダーを積み、パイロットは索敵に躍起になるのだ。
そんな戦闘機部隊の心強い味方が、E767と呼ばれる機体だ。
こいつは大型旅客機を改造した早期管制警戒機と呼ばれるタイプの機体で、戦闘機のものより遥かに遠くまで探知できる大型レーダーを備え、戦場の状況をリアルタイムで友軍の部隊に伝えつつ出撃した戦闘機に指示を出すことができる。
あとミサイルのロックオンとかも支援してくれる。
今、俺たちはそのE767から送られてきた戦闘データが表示されるディスプレイを見て
固まっていた。
うちのE767はマリアのプログラミングと元鍛冶屋、現在は開発部と呼称されるヘンタイ集団によって魔改造された3次元レーダー、つまり上下の動きまで捉えられるレーダーで友軍機と敵機の位置を把握できる。
そのデータはわかりやすいよう、各戦闘機を矢印状のアイコンによって表してディスプレイに表示することができる。
イメージがわかないならエー〇コンバット3のデブリーフィング画面を見てくれ。
あんな感じだ。
そんな感じで、搭乗員は戦闘の状況が立体的かつ直感的に理解できる画像を見て戦闘機たちに各種の指示を出すのだが、その画面はリアルタイムで空軍の基地の司令部にある大型ディスプレイにも
表示される。
で、俺たちが見ているのはそのディスプレイなのだが……………。
「一機………頭おかしい機動のが居るな。」
「う、ん。」
一つの矢印、うちの軍所属の戦闘機、F16ファイティングファルコンを示すアイコンの動きがおかしい。
具体的には、こー、角度が180度のターン…………反転ってことじゃないぞ?こう、カックンと突然後ろ向きになるんだ。
それをキメて自機の後方についたアンノウンを一瞬でキルコールしたり、確実にGで内蔵飛び出るレベルの急減速、てか失速機動で相手に自分をオーバーシュートさせて背後を取ったり。
しかもそれを呼吸するようにやるもんだから如何にヘンタイかと、もうね、アホかと。
「通信、から、して、鍛冶屋の、オヤジ、さん。」
げぇっ、オヤジの機体かよ?
あのオヤジものつくりに関しちゃすげーすげーとは思ってたが戦闘機乗りとしてもヘンタイか。
南部から進行してきたアンノウン、200ほどいたそれのうち50ほどがすでにオヤジに落とされている。
………オヤジの部隊に配備されてるのはF16、装備してる対空ミサイルは通常8発。つまりミサイルで落とせるのはそこまででありヤツが落とした敵50あまりのうち
「40以上、は、ガンキルコール、して、る。」
俺のとなりでマリアが青ざめる。
あれに搭載されてる機関砲、M61バルカンの装弾数は600、それを40で割ると
「敵ひとつ、に、つき15発。」
ごくりと生唾を飲み下しながらマリアが話す。
バルカンは一秒につき100発弾丸を発射する。
概算だが0.1秒ほどの射撃で一体を仕留めているということだ。一撃必中で。
とはいえ、まだまだ元気に敵機を落としているのを見るに一体に使っている弾の数はもっと少なそうだが、な。
「俺は戦闘機に関しちゃそこまですげー詳しい訳じゃないが、これだけは解る。
……………あいつあたまおかしい。」
俺の言葉にマリアはこくりと頷く。
「ジェット、戦闘機、でもっとも多く、敵機を撃墜した記録が、17機。」
前世の話だな。そして、オヤジは一回の出撃で数倍落としてんな。相手がジェット機じゃないとはいえ。
いや、むしろ今みたいな巴戦、つまりはケツの取り合いなら体が曲がるぶん高速で重いジェット機よりこの世界のモンスターのがよほど得意なんだが……………。
モンスターはジェット機より鈍足だから相手を追い越させて後ろを取りやすいし。
「ワンディ、エース・オブ・エース…………」
ぽつりと言葉がこぼれる。
一日でエースと称されるようになった凄腕パイロットはワンディエースと呼ばれ尊敬された。
そして、エース・オブ・エースとは、エースを越える凄腕のことだ。
それは、一日で、エースを越えたもの。
それに対する称賛としてふさわしいように思えた。
「………まぁ、でも、相手が竜騎士やワイバーン、なら。」
「あー、遠距離攻撃使えないからな。戦闘機に対する攻撃手段ないか、あいつら。」
そんならオヤジは攻撃されないしまぁ、いける………のか?
と、思っていたら俺たちと同じようにディスプレイを見つめているであろう早期警戒管制機のクルーから無情な通信が入る。
「画像によりアンノウンを識別。フレイムワイバーンとファイアードレイクの混成部隊です」
へぇ~~~~ファイアードレイクってワイバーンと共闘するんだー
なにぶんこの世界ではドラゴンの標本なんて無かったし生態調査しようにも竜にぶっ殺されるからあんまり生態知られてないし、知らなかったよ~~~~
「って!そうじゃねぇよ!フレイムワイバーンもファイアードレイクも!あの距離なら十分オヤジにブレスが届くだろうが!!」
オヤジの機体は大体1㎞もないくらいの距離でアンノウン………ドラゴンたちと戦っている。
ワイバーンは炎を吐かないが、フレイムワイバーンは変異種らしく普通に火炎放射でも火球でもぶちかましてくる。
ファイアードレイクに至ってはなにをかいわんや。
1キロくらいならやつらは悠々ブレスを届かせるし、その熱量、火力は中りさえすればコクピットの中に居るパイロットを蒸し焼きにするにもエンジンをオーバーヒートで吹っ飛ばすにも足りる。
つまり、あれだ。
フツーに、少なくとも機銃程度には有効な攻撃をバカスカかましてくる自身よりはるかに機動力が良い相手を、よりにも寄って機動力がものをいう巴戦で圧倒しているのだ、あのヘンタイは。
「あたま、おかC…………。」
静まり返った空軍の管制室に、マリアの言葉が染みていった。