戦の輪幹
これで、うちの幹部クラスに周知すべきことは言い終わった。ちょうどいいタイミングで用事を済ませたらしく、騎士団が帰っていくのが見えた。
…………騎士、か。
「騎士ったら剣術………接近戦だよなぁ」
現在では俺たちが給与したM1ガーランドもじわじわと広まり、恐らく彼ら騎士のように剣と馬で接近して戦うやり方は廃れていくだろう。
だが、馬はともかく、接近して戦うことは現代国家の軍隊でも大抵は訓練に取り入れている。
一度は射撃のみが重視されほとんど軍で訓練されることがなくなった近接戦闘の技術が、なぜ現代で甦ったか。
それは、現代の歩兵部隊はCQBと呼ばれる市街地や室内で発生しうる極々近距離での戦闘を想定しているからだ。
銃黎明期からしばらく銃兵は野戦、つまり見晴らしの良い場所でのロングレンジ戦闘が主な任務であった。
塹壕に隠れるようになり、機関銃が出てきてもそれは変わらなかった。
だが、現代においてそのようなロングレンジかつ見晴らしの良い場所での戦闘は火砲や攻撃機等の任務となり、野戦での歩兵の任務は、そのいわば“耕された“戦場に残る敵兵士を綺麗に掃除するだけとなっていった。
さらには止めとして現代の戦争は国対国に加えて対テロ作戦も増加、一般人の多数住む市街地に潜伏する敵対勢力に砲や爆撃で攻撃しては過剰威力となり、市民への犠牲が大きすぎる。
自然、そこで取られる戦術はテロリストの住む拠点へ突入あるいは潜入しての、直接制圧となるわけだ。
ここに、密林などで隠れ潜むゲリラとの戦闘も加わる。
どこにいるかわからない上に広範囲に散らばるゲリラには、爆撃砲撃の類いはそこまで有効ではない。
このような経緯もあって現代の歩兵の主任務は市街地や室内等の、砲や爆撃が使い辛い場所での戦闘や、目立つ大型兵器を使えない潜入任務やゲリラへの対策任務にシフトしていった。
そこでは不意に敵に遭遇するような場面が多々発生し、もともと戦うフィールドが狭いことなどもあり、当然彼らの交戦距離は縮まった。
数キロ先まで見渡せる平原での野戦から、建物や木が立ち並ぶ密林及び市街地へ、そして、四方が十数メートルの広さしかない室内へ。
射撃には遠くまで中る精度よりも、即時に対応する反応と相手の手が届いたとしても自らの銃を奪われないためのテクニックが求められるようになった。
不意にゼロレンジで遭遇したときのために、近距離では射撃よりも有効なナイフ術や徒手格闘などが重視されるようになった。
―――――それらを纏めたものはCQB、クローズクオーターズバトルなどと呼ばれ今日の軍隊における歩兵戦力の必修科目となっている。
近接戦闘が主な戦術だった時代から交戦距離は遠くなり、また再び近距離での戦闘がウェイトを増す。
時代は巡り回る、それは戦争とて例外ではないのだ。
「基地の歩兵どもに顔見せに行くかー。」
ふと思い立って言葉に出す。
当然CQBはうちの軍でも教えており、それ専門の教官も居る。
まぁそいつは俺が仕込んだんだけどね。
「歩兵部隊の視察ですか?
ちょうどようございます、マジェスティ。オルトロスのものたちがマジェスティと組み手をしたがっておりました。胸を貸してくだされば喜ぶと存じます。」
ほう?
オルトロスといえばうちの最精鋭部隊だ。
特に念入りに近接での戦闘技術を教え込み、錬成している。
俺が彼女たちに与えたものが身になっているかどうか、たしかに俺も興味があるな。
「よし、決まり。今からオルトロスのとこに顔見せにいこっか。」
ハンヴィーをまた呼び寄せないとな。楽しみになってきた。