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Dea Ex Machina ~~悪役令嬢戦略譚~~  作者: 中腸腺
タスマニアン・ラプソディー
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平和のための闘争

昼過ぎになって俺たちは辺境伯邸に到着した。本来は試し斬りの後は基地に帰る予定だったが、騎士団をつれ回すのもよろしくなかろうと思って彼らの目的地でもあるこちらに帰ってきたのだ。

このことはハンヴィーを呼び出すときにすでに基地に連絡してあるので心配ない。

到着後

団長はうちの客間に、それ以外の騎士は宿を取って泊まることになった。

長身で筋肉を鎧う騎士団長は名をアーダルベルトと名乗り、辺境伯との顔合わせを行っている。


この間に、俺はアンやマリア、オヤジと言ったうちの軍の幹部クラスを集め、俺たちの―――俺の目標を話すことにした。

意思疎通を徹底することはとても大事だ。聖書にも書いてある。ないけど。


「はいいらっしゃい。テーブルの上の菓子は自由に食ってくれ。まずはかけろ。」


全員が着席したことを確認し、話を切り出す。


「揃ったね………?

んじゃあ今日は俺がなぜお前らを鍛え、武器を与えたかについて話そうと思う。」


前にちらっと言ったと思うが、それは、簡単に言えば。


「一言で言えば世界平和のため(・・・・・・・)だ。この世から争いを無くす。そのために俺はお前らを組織した。」


戦争と言う戦争を無くし、この世界を浄化する。

文にするとやべー臭いがプンプンするが、その予感は間違ってないな。

と、俺の言を聞いたアンが口を挟んでくる。


「マジェスティ、ですがそれは、随分と矛盾しておりませんか?マジェスティは“殺すこと“を躊躇わずに実行してこられました、そのうえ、我々に与えられた武装兵装はそのための力であり手段だと訓練の際におっしゃられていた。

もし平和を、平穏を望むならなぜ人を殺すのための力を望まれるのか…………お聞かせいただけませんか?」


ふむ、なるほどそこを疑問に思うか。

まぁ普通の感覚だろうな。だが、それじゃあダメだ。


「平和、を、作るのに、一番、てっとり、早いのは、この世の人間を、一人を残して、殺し尽くす、こと。」


マリアがつまらなそうに呟く。そう、この世界に存在する人間が一人以下なら人間同士の争いは起こらない。

自分と争うことなど不可能だからな。


アンはそれを聞いて眉根を寄せて、聞いてくる。


「マジェスティは………人類の廃絶をお望みで?それならば―――――――」


はたしてそれ(・・)をやる気なのか?と、

平和のために人類を殺し尽くすつもりか?と。そういう問いだ。しかも、オヤジはともかくこいつは俺がそれをやれと言ったら間違いなくやる、そういう悪寒がする。

でもな、そんなわけないだろ?


「アーンー…………俺がそこまでイカレポンチに見えるか?さすがにそれじゃ本末転倒だ。俺は、戦争なんぞと言う糞みたいな地獄を無くそうって思って行動してるんだぜ?

ガキが銃を持ち兵士がそれを撃ち殺しては心を病み、先進国が利権のために内乱を誘発させて民兵を育て前線に送る。はては無人機で一方的に敵を殺し尽くす。

そういう理不尽と悪徳を煮詰めたかのような代物を無くしたい、そういう高潔な願い(・・・・・)からお前らに銃をやったんだ。

なのにそれ以上の地獄を作り出してどうするよ。」


マリア以外の全員がこちらを胡散臭そうに見つめてくる。

お前がそんなタマかウォーモンガー、そう目で言われているようだ。

心外な。

たしかに俺のやってることは“民兵を育て前線に送る。はては無人機で一方的に敵を殺し尽くす“ことそのものだけれども。鏡をみるのは大事だね、うん。


冗談はさておき、マリアはわかってくれてると思うが。こいつは本心からの言葉だ。

なんせ俺の前世は兵士だったからな。

そこ(・・)が、戦場がどれ程悲惨で、陰湿で、物語に語られるような崇高な物じゃないというのはよくわかってるし。

俺が今みたいにならないと(狂わないと)やっていけなかった程度には地獄だ、あれは。

なにより、


戦争がなければマリアはきっと今でも俺みたいなのに引き取られず全うに暮らしていけてたはずなんだ。


おれがさんざん撃ち殺した少年兵も、いまごろ親にバースディーパーティーで祝われて笑ってたはずなんだ


死んでいった戦友たち、そして俺が殺した敵国の若者たちも、恋人や家族と暮し続けれたはずなんだ


容赦はしなかったしこれからもする気はねぇけど、でも、やっぱり見てて胸くそわりーんだよ幼気な子供や未来のある若いやつが脳ミソぶちまけるのとか犯されるのとかその他もろもろ。


それは、どうしても変えられない俺の存在原理でもある。

国連治安維持部隊に入ってたのも、そういうことで


「たしかにマリアが言った方法は手っ取り早いが、そんなやべーことやってもクソほどの意味もない。だから次善の策を取る。

俺が考えてるのは、全ての国家(・・・・・)間での不戦条約(・・・・・・・)の締結だ。」


それは、荒唐無稽な夢物語。前世でも今世でも誰一人なし得なかった、妄言。それによって場の空気が一変する。

はたして、そんなことができるのか?いやそもそも


「手段、は?」


マリアはまっすぐにこちらを見つめて問う。

そうだな、実行する方法がなきゃダメだよな。条約をどうやって結ばせるのか、どうやって成立した条約(ルール)を守らせるのか。

そこがなきゃあ戯れ言でしかない。


「手段か、手段はな、火力と暴力と武力(・・・・・・・・)だ。実効的な、敵対者に死を振り撒く恐怖と畏怖でもって、この世界を平定し、支配する。そして、俺たちは、俺は、全ての争いを強制的に禁じる。そのために、俺たちは負けてはならない。敵対するもの全てを踏み潰し、殺戮し、粛清する。」


全ての戦争を罪科とし、それに対して武力による制裁を加えることで、戦争を無くす。

国が滅びると解ってでも争うバカなどそういないし、もしいたら本当に、草も残さず焦土にすればいい。


「おいおい、お嬢。そりゃ犠牲がでかすぎるんじゃないのか?控えめに言って、狂人の所業だ。」


「ん、それ、に、そんなもの、前の、とこでも、考えられて、た。でも、ダメだった(・・・・・)


オヤジと妹からの反論。

なるほどたしかにそれは事実だろうよ、だが。


「人類がこの世に生まれて幾星霜の年月を経て、数百数千ですら足らぬほどの数の天才が考えてなお、一時たりとも世界からなくならなかったもの。それが戦争だ。

それを無くそうって人間が正気でいられるか、少ない犠牲で成せるものか。平和を成すためにはな、狂人じゃないとやってられねーんだよ。」


そうバッサリと切り捨てる。

人死にも、虐殺も、それの前ではコラテラルダメージでしかない。


「あとな、マリア、お前が今考えてるそれ(武力制裁)、本当に制裁足り得るものか?」


俺の言葉にマリアは軽く口の端を持ち上げる。

ほんとうは気づいてたよな、お前は、賢いから。

あえてここで聞くことで俺に考えを纏めさせるつもりだったんだろ?


「制裁ってのは圧倒的な力でもって悪徳に対しなければ成立しない。反撃されてダメージを食らうようじゃ意味がない。一方的に嬲り殺しにして初めて“裁き“たりえるんだよ。“争い“になっちゃだめなんだ」


前世での武力制裁は、軍の軍とのぶつかり合いを指した。

たしかに制裁を行う側とやられる側で兵員の数量や使う兵器の質に差はあっただろう。

だが、それでも反撃の余地があった。その差は絶対的なものではなかった。

ベトナムとアメリカ程度の差で痛い目に合わせようと思っても、戦争は止まらない。なんなら、反抗されて食い破られるまである。

だから


「力が居る。この世界の輪幹から外れた異形の、強大な、一瞬で国家をも潰せるほどの力が。」


そう、それはさしずめ―――この世界においての現代地球の兵器みたいな、な。


「世界平和っつーのは、狂気の道だ。さっきは人類廃絶を本末転倒と唾棄したが、下手すりゃ俺がやろうとしてることも充分“地獄(戦争)を消すために地獄(虐殺)を作る。“ことになる。

だが為さねばならん。どれだけ屍山血河を築いたとしてもだ。だから、倫理と道徳を備えた人間はそこから踏み込めない。踏み込めないからできない。なら、俺みたいな、倫理も道徳もぶっ壊れて、他者を鼻唄混じりに踏み潰せる人間(クズ)がやるしかないだろ?お前らは、そのための力だ。お前らは、武力は、俺のソースコード(根幹)なんだよ。」



そこまで言って、皆の顔を見る。

こちらを見る目には確かな熱を感じる。よかった、有り難いことに彼らはついてきてくれるようだ、こんな狂人に。全てをさらけ出した甲斐があると言うものだ。

だから応えよう。俺も、彼らに。

武力と暴力でもって、必ず、この世界から戦争を無くしてやる。


――――――たとえそのために、どれだけ血にまみれようとも。
















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