“銃“
例のあれのネタと被るかもしれませんね。
装置のうち、木製の弓と蔓は完全にぶっ壊れたが、金属の矢、本来の銃であれば撃針と呼ばれる部分は無事であった。しかも、ちゃんと薬莢が後ろに吹っ飛んだのだ。
単純なガス圧式のブローバックはこれでほぼ完成と言っていい。それは、ガスの燃焼エネルギーによって薬莢を後ろに打ち出し、それによってスライドを後ろに引く機構であるから。そしてバックしたスライドは、銃のハンマーを起し、内部に備えられたスプリングの力で元に戻る際にマガジンから露出した次弾を引っ掛け、薬室、すなわち発射待機位置まで持っていくのだ。
あとはフレームとスライド、マガジンの内部形状、そしてハンマー―――撃鉄と呼ばれる、撃針を叩いてプライマーにぶち当てる部位だ――――まわりを丹念に作り込めば、ハンドガンは大抵作れる。
そして、素人であれば難関となるであろうこれらのポイントは、何百何千回と、それこそ内部構造やその形状を完璧に暗記するまで銃をバラし、組み立てて来た俺ことリアーナ=セレスからしたら、さほど大きな問題ではない。
フルオートであれば、ブローバックによって起こされたハンマーに、トリガーを引いている間はロックがかからないように。
セミオートであれば、トリガーを引いた際の撃鉄のロック解除は一度ぶんだけ。
フルオートの代名詞であるアサルトライフルやマシンガンはブローバックとはちと違う作動機構だが、マシーネンピストーレと呼ばれるフルオート拳銃なら機構も覚えている。問題ない。
「夢が広がるな………………!」
目をキラキラさせて振り替えると、そこには
あんぐりと顎を目一杯開いたオヤジたちの姿があった。
「お、おい。なんだ、この………………」
あー、これは、この銃の“威力“に驚いている
―――――――――――訳じゃないな。
その推測を肯定するように、オヤジが叫ぶ。
「なんだ、このドデカイ“音“は…………!」
そう、彼らが驚いたのは、その音。
まずはそこなのだ。銃の強みといえば真っ先に思い付くのは、射程と、威力と、携行性と、連射性能。
だが、遠距離攻撃なら、二百三百離れた状態で狙撃銃でも使うならともかく、今試射した程度の距離なら弓がある。威力なら、それこそ投石機でも持ってこい。携行性は、まぁ、木にくくりつけといて携行も糞もない。これだけ初見で見たら、あんな風に発射のたびにどっかが吹っ飛ぶようなもん携行性最悪だろうし。見慣れたら金属部分は無事だとかいろいろ見てとれるかもだけど。
連射性能?さっきの、本格的な給弾機構としてのブローバックも搭載してない単発式の試射装置のどこにそんなもんがある?
というかこの五つの強みのうちで肝心要は、携行性なのだ。この威力と、この射程を、個人が自由に歩き回り走り回りながら運用できる、という点が銃の強みであり、そこに他の遠距離武器にはない連射性が加わるからこそ現代の歩兵戦力の根幹を成すほどの武器となったのである。
まぁ、………これらの、現代火器の強みは、このごくごく原始的な単発式ライフル擬きの、“弓による撃発装置をくっつけたバレル“には存在しない。だが、こいつには、それでもなお他の武器とは一線を画す強みがある。
それが、派手さ。
狙われていると、誰かが死んだと、あの、致死のつぶてが、つまりは銃弾が飛んできたと、とてもとても分かりやすい、ド派手な音と閃光。戦場の演出装置として、これ以上のものなどありや?
初見の人間であれば屈強な兵士だろうが腰を抜かし、士気を挫くのに十分だろう。
さて、そこらへんのことを理解しているのかしていないのか、オヤジは冷や汗をかきながらもじっと俺の、俺たちの銃を見ている。
そんなに見ても金貨とかは出てこねーぞ。
さて、やっとここまで来たし、ようやく、フレームと、給弾機構を―――――――
「大変だ!!モンスターが出たぞーー!!!」
ご機嫌な俺の思考は、無粋な鐘の音と怒号によってかき消された。