戦士たち
アンがワイバーンを殲滅して、俺たちは騎士団と接触していた。
彼らは全身を成形した板金で覆った、プレートメイルという鎧を着込み、ロングソードとカイトシールドと呼ばれるタコの形をした盾を持っていた。
鎧の中で無事なものはひとつもない。その全てがどこかしらに傷をつけ、ワイバーンとの戦闘の激しさを物語っていた。
…………バッサリ裂けてるのもあるよ、良く無事だったな中の人。
さて、この騎士たちの着ている鎧、これは塗装などはせず、砂にまみれながらも地金そのままの輝きを放っている。
ファンタジーの世界では、黒や赤の塗装した鎧を着こんだ正規の騎士団なんてものが存在するが、ゲームの世界とはいえ今ここは現実であり、この世界基準なら彼らはいっぱしの戦士だ。
んな無駄なことはしないだろう。
とはいえ、現実にも塗装した鎧を実戦で使う“黒騎士“というのは居た。
そいつらは、仕える主人を持たない野良の騎士だ。
彼らは貧乏なため、鎧を少しでも長持ちさせようとサビ止めの黒い塗装を施した。
逆にいえば、俺たちの目の前の塗装をしていない鎧を着込むこいつらは、金に余裕がある、正規の、国なり領主なりに仕える騎士たちだ。
そんなことを考えていると、一人の騎士がこちらに片膝をついて腹に拳を当て、頭を下げる、俗に言う騎士の礼をしてきた。
「助けていただき感謝する。私は近衛騎士団団長のカーマインと言うものだ。」
ほらね?正規軍だったでしょ?近衛というのは、国王直属の騎士部隊だ。王国の中では最精鋭で、100人ほどの戦闘員を有する。
国としては唯一の常備軍でもあり、馬術、槍術、あるいは弓術が求められる。
と、なれば、なぜこんなとこにそいつらがいるのか、なんとなく予想はつくが聞いてみる。
「我々は今から南部辺境伯領へ使者として参る途中だ、これよりしばらくして、第一王子様と辺境伯令嬢の顔合わせがあるからな。その露払いも兼ねて王からの婚姻にかかる書簡を持ってきたというわけだ。」
やっぱりね、時期的にそうだろうよ。
密偵とかならこいつらじゃなく別の部隊だろうしね。
ここら辺はさっき俺が戦ったみたいな、オークとかのモンスターもちょくちょく出てくる。
だからこいつらみたいな精鋭の騎士たちに来させたんだろう。
「そりゃまたご苦労なこって、俺は辺境伯領のもんだから道もわかるしさっきのとおりここを抜けれる戦力もある。なんだったら送っていこうか?」
とりあえず、ついでだけどな。
こいつら見てると不安になる。王国最精鋭ってもワイバーン程度殺せないようなやつら、うちの軍からすればそこらのガキと変わらない。
そんなやつらを一人歩きさせられない。俺は優しいから。
ママがついてってやろうボーイども。
「……………マジェスティ、恐らくですが貴方さまが考えておられることは彼らに対してとても失礼な内容ではありませんか?」
「気のせいだ、我がメイドよ」
うちのメイドはエスパーだったようだ。
閑話休題。俺の申し出は騎士たちにすんなり受け入れられた。安っぽいプライドより実利を取るその姿勢はなかなか好ましい。
というわけで俺たちは道中の護衛を引き受けることになった。
……………基地に連絡してクルマまわしてもらお。