肉の巻藁
「ブオオオオ!」
ここは黒の森の手前に広がる平原。オヤジにつくってもらった刀を手にする俺の前方5メートル、少しだけ距離を置いて、オークと呼ばれるモンスターが吠える。
このモンスターは鋭い乱杭歯と人間に良く似た顔、体を持ち全長は三メートルにもなる。
彼らのような人形モンスターの特徴、というか厄介なところは、武器を使うことだ。
実際今俺と対峙するそいつは手にメイスを持っている。
あれで叩かれたらドタマカチ割れるぞ……………。
俺は、相手の足の筋肉に動きがあるのを見て取ると、左足を軸に体を回転させた。
右足を引いて、上から見たら時計回りにくるりと回る。
直後、さっきまで俺の頭があったところを、突っ込んできたオークのメイスが通り抜ける。
人間を遥かに越えた筋力と脚力から繰り出される一撃は、風圧だけでもその威力を伝えてくる。
とはいえ当たらなければ意味は無いわけで
視界の端にもう一体オークが殴りかかってくるのを確認しつつ、回転の遠心力を乗せて刀を横に薙ぐ。
振られた刃は今、俺への攻撃を外して隙だらけの敵の延髄を切り裂きそれを絶命させる。
その瞬間、突っ込んできていた二体目の敵が俺の頭に向かって唐竹にメイスを振るってくる。
俺は、そのメイスを持つ手に自らの刀身を添えて、その力のベクトルを変えるようにいなす。
オークの一撃は空を切り、ガードも攻撃も出来ない一瞬の間が生まれる。
そこに刃を突きこむ。
俺が繰り出した刺突は相手の喉に吸い込まれ、速やかに息の根を止めた。
「うん、やっぱいいね。弾薬が切れた時には重宝しそうだ。」
オーク二体を秒で切り伏せて、俺は刀を一振り。
血振りとよばれる、刀に付いた返り血を落とすためのものだ。
「さすがです、マジェスティ。刀剣の扱いもできるとは。」
後方でマグプルを構えて待機していたアンが声をかけてくる。
いざ俺が負けたときのための保険としてついてきてもらっていたのだ。
俺は刀を腰の鞘にしまい、言葉を返す。
「この程度はね、銃弾が切れた時のために一通りの近接戦闘はこなせるさ。」
どちらかと言うと現代ではナイフやバヨネットの方が使われているが、ある程度剣も扱えるようにしていた。
俺が相手にするテロリストたちの中にはマチェーテを使うものや、シャムシールと呼ばれる曲刀を使用するものも居た。
弾も無くなりナイフも折れたギリギリの状況だとそいつを奪って格闘に持ち込むこともあり、ナイフ術のみで扱うには不都合があったのだ。
主に長さとか重さとか。
「とはいえ基本的には射撃で戦うことには変わりはない。あくまでこいつはサブウェポンだな。
ナイフよりは威力もあるしリーチも長いが、取り回しやすさではどうしても劣るし、基本的には儀礼用が妥当な線か。」
オニューの武器の使い心地も確かめ終わり、俺たちは談笑しながら基地への道を歩いた。
オヤジよ、良いものを作ってくれてありがとう。帰ったら酒おごってやる。
そうして、基地まであと少しといったところまで歩いていると、遠くから音が聞こえてきた。
先程刀の試し斬りをした方角だ。
「んん?なんぞ?」
俺たちは顔を見合わせてどうしようかと目で会話する。
ここまで帰ってきて引き返すのもあれだが、まぁ、最悪基地から車を回してもらえばいい。
今歩いているのはひとえに気まぐれでしかないのだ。
「行ってみるか?アン。」
「御随意に。」
アンとともに音の発生源へと引き返す。
そこで、見たものは。
「ワイバーン、でございますね。戦っているのは騎士でしょうか?」
うちの国の騎士団の紋章を付けた兵隊と、ワイバーンと呼ばれる大型魔獣との戦闘だった。