オルトロスとミネルヴァ
さて、ちょっとした話をしよう。
俺の前で、公爵に新しいティーカップを出す少女―――アンの率いるメイド部隊、俺の前世での呼名と同じ「オルトロス」と名付けられた彼女達。
そのなかでもアンが直接指揮する10人の基本的な任務は警護だ。家の中を家事をこなしつつ巡回し、不審なものがあらば即座に対応するヤツが七人、家族のそばで常にその身を守るのが三人。
父さん、マリア、俺、それぞれに専属侍女という名のボディーガードがついている。
アンは俺の担当だ。必然的にそばに居ることも多いので仲は良い。
そんな彼女の率いる護衛メイド達の主力武器、それがマグプルである。
先に開発していたG18を少しいじりアタッチメントをつけて完成したそれは、一見鞄にしか見えないという特性上どこにでも怪しまれずに持っていける。
まぁ、怪しまれずに各所に持ち込もうと思ったら、ぴったりの武器だ。武器持ち込み禁止のとこでも使えるのはデカイ
アンはこいつをたいそう気に入ったようで、いつも手入れしている。
素晴らしい心がけだ。ジャムとか起きたら洒落にならんからな。手入れはしっかりせんと。
まぁそんな与太はともかく、図らずも公爵閣下は現代兵器の洗礼を受けたわけだ。
まだまだ、こんなもんじゃないぜ?おっさん。
もっと度肝抜いてやるよ。
そんな風に考えて俺が内心舌なめずりしていると、インカムに通信が入ってきた。
なんぞ?
「CP。こちら第7警戒監視小隊。緊急の報告がある。」
「どうした?」
警戒監視部隊は、うちの領地の哨戒を一手に担う部隊だ。
うちの軍の隊員からは親しみを込めてミネルヴァの愛称で呼ばれている。
規模は部隊総員で中隊、つまりは200名。それを20の小隊に分けている。
小隊ごとに担当の地域があり、洋上、陸上に付設した多数のレーダーサイトと無人偵察機グローバーホークによる監視網により、常に空と陸から領地をパトロールする。
異変発生から発見、連絡まで10分を越えることは今まで一度もない。
第7小隊は領地に接する海の、沖合いを監視する部隊だ。
洋上レーダーに反応でもあったのだろうか?
「こちらCP、第7警戒監視どうした。報告せよ。」
とにもかくも何があったのかを聞く。すると、とんでもない答えが帰ってきた。
「copy。沖合い50海里でレーダーに感あり。グローバルホークのカメラ画像で確認したところ海龍の大群を確認した。数は、30。
ドラゴンのスタンピートだ、繰り返す、ドラゴンのスタンピートだ。」