称賛と礼賛と侮蔑と
「まぁ、オヤジの言ったとおり、“皆が一発でドラゴンスレイヤーになれる“のが兵器で。それがあるってのに、武術や剣術、低火力の射撃術に拘る必要なんて無いってことだ。あくまで今回は暇潰しだから省エネってか高価な弾薬は使わずにアサルトライフル使ったけどな。
…………………俺がやったみたいな曲芸、ギリギリの綱渡りは、たしかにできたらすげーかもしれないけど、それはロマンなんだよ、ロマンでしかないんだ。」
つっても、俺からしてみたら綱渡りなんぞいつものことだが。
最後にそう締め括るとオヤジが引いたように吐き捨てた。
「お嬢は、なんつーかすげぇな。あれな意味で。」
え?なにが?
急に脈絡なく誉められると怖いんだけど。
…………誉めてませんかそうですか。
「マジェステイは…………驕らず、高ぶらず、唯唯効率的に相手を殺すにはどうすればいいか?それを是として機械のように実行しているように見えます。」
畏れを滲ませてメイドが言う。マジェステイってなんだおい。
これは一見誉めてるようで誉めてねぇな。ロマンが無いとかそういう感じの批判意識が顔にありありと出てるからな。
いやいや、普通にわかるじゃん?数の暴力は強い。火力は強い。
どっちも出せたら糞強いからそれを捨てる意味や如何に?
単純だろ。
「普通………にんげん、は、そこまで割りきれ、ない。倫理や、誇り、矜恃、プライド………そう、いった、ものが、邪魔をする。」
「妹よ、気のせいかね?おねぇちゃん今遠回しにクソサイコパスってディスられた気が?」
思わぬところからの攻撃に顔をひきつらせて聞く。
するとマリアはその愛らしい顔をことんと傾げ。
止めを刺す。
「聞こえて、とうぜん、だって、そう言ってる、し?」
ぐはっ!!?
「マリア…………ごめんよ…………おねぇちゃんもうちょっといろいろ自重する…………。脱サイコパスする。」
目の端に涙を浮かべる俺の頭をマリアとアンがナデナデしてくれる。
優しい。
「まぁ……………お嬢はなんつーか、人の皮を被った化けものだよな。」
まぁ、そうだな。
けして一般に英雄と呼ばれるような高尚な――――実際に英雄が高尚なものかはともかくとして―――ものじゃないし。化け物とか怪物とかのがお似合いだろうよ。
これがどこぞの村を守るために龍に立ち向かったとかなら素直に感動できるが、理由が理由だし。
こんなもんに焦がれるアンのが不思議な感性なんだよ、正直。
閑話休題。
ドラゴンもぶっ殺したし。今日はステーキだな。肉食うぞ肉。
そんなふうにワクワクしてドラゴンの死体に目を向けているとオヤジが呆れたように言いはなった。
「……………肉は数日置かないと死後硬直で固くなってて食えたもんじゃねぇぞ。お嬢」
………………………え?