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Dea Ex Machina ~~悪役令嬢戦略譚~~  作者: 中腸腺
ドラゴンスレイとライフルマン
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それの在る意味。

今回はリアーナが情熱を迸らせて語ります

「いや、俺は弱いよ。考えてみろよ、いくら鍛えてるとはいえまだ9歳の人間のガキだぞ?」


睨み付けるようにして、オヤジやアンに言い放つ。

彼女たちは

なにいってんのこのイカレポンチ

と目で語っている。

失礼な。


「あのな、本当に強けりゃ武や技なんて要らねーの。」


考えて見てほしい。ライオンのオスはなにか、飛び道具やら針鼠のような針やらを持っているだろうか?

びくびく警戒して脳を片方ずつ休めたり、立って寝たりするだろうか?


全て否である。


そして、さらに考えてみよう。それはなぜか?

解は単純明快。彼らが強いからだ。少なくとも、強いと周囲が認識しているからだ。


だから、襲われることすらない。

だから悠々と寝て、悠々と食らう。

獅子はウサギはおろか、鹿や牛にも全力を尽くすどころか労力を注がない。

水牛の中でもよほど強い個体や、旧約聖書においてベヒーモス(至高なる獣)とまで呼ばれたカバども。そういった強敵にのみ、雄獅子は出張る。雌獅子のように集団戦法も風の流れと臭気を利用した策も使うわけもなく正面から。


彼らには余裕がある。自信と、それを裏付ける強さがある。

それが強者というものだ。間違っても


「俺やあのクソデカイだけのトカゲが見せたみたいな、智恵や技は要らない。まぁ、特に俺みたいに相手を観察してそこから動きの予測を立てて、相手が動く前にその効果範囲の外に脱出して、あまつさえごくごく一瞬の期を狙い済まして精密狙撃なんて無様極まる真似は、絶対にやらない。」


その言葉に、この中では一番の武闘派であるアンがハっと息を飲む。

気づいたか。


「当たって耐える防御力がないから当たれなくて避ける。見てから避けるための反応速度や瞬発、速さが無いから予測して先んじて動く。相手が最も弱る瞬間以外では攻撃を通せないから機を伺う、そこ以外に当てても攻撃を通して攻撃を受ける前に無力化する火力が無いから精密に狙う」


防御ではなく回避、反応ではなく先読み、機を伺い、精密に打ち抜く。


おおよそ、“武“と呼ばれる物であれば大多数がそれを是とするこれらを、俺は、強さという観点で見れば最悪だと、真っ向から断じる。


でも、そりゃそうだろう?

なぜなら武は、弱者が強き(・・・・・)ものに弱いま(・・・・・・)まで抗う(・・・・)ための(・・・)ものだ(・・・)から(・・)

―――――弱さを肯定する論理体系が強さの観点から見たときに是になる訳がないだろう―――――?


そして―――――――俺がドラゴンを殺したのは、強さじゃなくて、“武“のほうだ。そして、それは


「だから、俺は弱いんだよ。究極まで突き詰めた、それこそ体の根幹まで染み込ませた弱者の矛(武技)を使わないとトカゲ一匹殺せない程度には。」


それは強者の矛である“力“の類義ではなく、対義だ。


苦笑をひとつ。

思い出すのは前世、AKに撃ち殺されたあのとき。

弱者に弑されたあのときの光景。

自身の根幹を人質に取られるような形になり、そこまで追い込まれてようやく死んだ俺は、あるいは強者だったのかもしれない。

だが、今は、今回の龍殺しの時は明確に違う。


「先読みなんつーくっそギリギリの綱渡りで、ようやく取った一勝。少なくともあの糞トカゲは俺よりは強かったし、俺がやったのは蹂躙でも完封でも狩りでもなく、博打を重ねた果ての辛勝(・・)だよ。」


その言葉にアンが青ざめる。

俺がやっていたことの本質を理解して、自らの主がどれだけ阿呆なことをやっていたのかを理解して。

暇潰しのために、命を賭け皿に乗せたんだからそりゃあアホだよな。


「俺がやったみたいな車を降りて(速さを遅くして)わざわざライフル(低火力に)を選んで(落として)、武でもってやり合うってのは、究極的に無駄だし、コストがかかる。」


武を磨く時間、修行と実戦どちらでも使う労力。

それらはコストだ。それはリターンと……少なくとも釣り合わなければならない。

そして、もっとコスパが良いものがあるなら、それは究極の無駄なのだ。


「嗜好品なんつー概念もあるし、無駄が悪いなんぞとは言わんが、ぶっちゃけ、少なくとも俺らにとっちゃそういった弱者の戦法はコストだけバカスカ食らう無駄であり趣味の世界以外の何物でもねーだろ。だって」


そこまで言ったところで、マリアがポツリと呟くそれは、


「私たち、には、兵器が、ある、火力、も、装甲も、速度も、後付けで、だ、せる、そん、な“力“が。」


パーフェクトかつエクセレントな解。

真理を捉えたその発言に、流石マリアだという思いがオーバーフロー。思わず腰を抱いて引き寄せる。


「そうだ、俺たちには後付けでお手軽に大火力と広範囲への効果投射そして速力その他もろもろを、自分自身は弱いどころか武すらもなく労力も払わず手に入れる手段がある。それは例えばアンが、ドラゴンと戦うとなった時に真っ先に思い付き保険として車にこっそり乗っけてたパンツァーファウストだったり」


アンが目を見開いて驚きを溢す。なぜ車に乗せてたことを知っていた!?って顔だ。

いや、逆に一年も一緒に居るのに俺がお前の思考を読めないわけないだろ。初対面のドラゴンでさえ読んだのに。


「オヤジのお気に入りのF16戦闘機だったりといった」


オヤジがニヤリと笑う。うん、これは理解してるのかしてないのか。まぁたぶん大丈夫だろ。


「後付けの、“力“だ。」


それは、純粋な強さを与えてくれる(・・・・・・)、先人たちがもたらした福音。


「なぁ、思い出せよ。俺がドラゴン相手にやったような博打、あんな曲芸に惑わされてんじゃねぇよ。俺たちが今必死に作ってるモンはなんだ?お前らは、アンもオヤジも、俺のどこにに真っ先に魅了された?」


それは、何も持たない弱者が、弱者の矛を手に入れるコストすら惜しんだ真の最底辺(じゃくしゃ)が振るう、弱者の矛も強者の矛もまとめて食らう、抜け道。

簡単に振るえるが故に、本来強さとトレードオフでしかるべきである膨大な“数“をすら強みにできる力の形態。


「それが兵器だ。

全ての、強さも弱さもそれ(・・)以外の矛も盾も砕いて踏みにじって蹂躙する、俺たちの(・・・・)、俺たちだけの(・・・・・・)矛であり、(・・・・)盾だ(・・)。」








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