バレル作製
あれからしばらくたち、ドリルに改良を重ねた。
まず、素材を変えた。マグネシウム、アルミニウム、銅―――銅は今日日武器などにも使わないし、貨幣にも使われることは使われるのだが、基本的には銀貨が使われるためあまり需要がない。
この国には銅鉱山もあるので、銅の量自体は豊富だ。
なので銅は供給と需要のバランス的にとても安く仕入れられる。
アルミはこの世界では染料に使われており、普通に流通しているしうちの領地でも取れる。
オヤジはこいつをなにか別のことに使えないかと思って溜め込んでたらしいので使わせてもらおう。
マグネシウムに至っては、金属中毒の概念がないこの世界ではサプリ的な扱いらしいがあいにくそれもこの地方だけの話。ここ以外ではあまり使われてない。
そのためとなりの領地で溜め込まれてたこれも、鍛冶屋のおやじ、ながったらしいからオヤジでいいな。
と、一緒に買い付けてきた。
それらを使ってオヤジと一緒に大量に試作し、鋳潰し、試行錯誤して混ぜ合わせて、オヤジの工房の弟子数十まで巻き込んで記録を取りながら何百回かのトライアンドエラーを繰り返して―――――――ジェラルミンを作り上げた。
それは、零戦やらメッサーシュミットやらのレシプロ戦闘機にも使われていた、極軽量かつ強固な合金。
そいつを使うことで高出力化が可能となり、動力もを川から滝に変えた。
水流の運動エネルギーが、位置エネルギーから遷移したホヤホヤのエネルギーが失われてない状態、それが滝である。これでポンプの噴射口の口径も絞れる。川を動力にしてたときはあんまり口径を狭めると水でなかったからな。
そこからさらに、そのノウハウをフル活用して旋盤等の他の工作機械を作っていった。
旋盤というのは、素材となる金属を回転させて刃に当て、金属を削ったり切断したりするための工具だ。
さて、こうして改良された旋盤ならびに工作機械群で、俺たちは、まず、
「バレルを作ってみよう。」
俺が作ろうとしている“それ“の、機関部分。
すなわち“中に螺旋が刻み込まれた金属製の筒“を作ろうとしていた。
まぁ、とはいえオヤジもいるし、改良した機械たちもある。現代地球よりパワーは劣るが、堺の鉄砲鍛治は手作業で何百と鉄砲を作っていたらしいし。なんとかなるなる。
………………短期間でとは言ってねーけど。
さて、そこからまた時間がたって、この時点で製作開始からほぼ一年くらい。最初に俺がここに来たとき俺はまだ5歳だったから、もうすぐ俺も六歳ですよ。令嬢教育とかもまだ本格的じゃないし、それが本格化する前にさっさと“アレ“を完成させたいよね。
………………しかし、あらためてオヤジって頭おかしーよな。普通、いくら金だしたからって5歳の幼女の提案する武器にベットするか?
やっぱあれか、腕のいい職人ほど狂ってるとか言う。
ま、とはいえそこは腕っこきの職人であるオヤジ。弟子とともに糞ほど楽しそうに細身の棒を作り、ボール盤に付けたドリルでそいつに、正確に穴を開けていく。
それこそ―――最初の頃の、穴がずれて何本も棒をダメにしていた頃が別人のように…………。
そうしてできたパイプの中を削ってライフリングを刻んでいく。
さて、そんなこんなで、ほぼほぼ完璧にバレルが作れるようになったころ。
「おーい。みんな、新しいドリルだ。これからはこれらも平行して使ってくれ。」
俺は、口径や刃の形が違うドリルを複数用意し、職人たちに配っていた。
「これらはなんのためにこんなに種類がいるんだ?」
オヤジが聞いてくるが、苦笑いではぐらかす。
悪いね。俺はサプライズ好きなんだ。
あ、それと。今作ってるやつ、太さと長さにもバリエーション出すから。長さがかなり短くて、細い棒。
それより太く、かなり長さのある棒をどんどんつくってもらう。
「ん?こっちの短いやつの方が穴は大きく取るんだな。」
うん。そう。短いのはだいたい11㎜の、長いのは基本的に7.6㎜ほどの穴を開けてもらう。一番の難所はメートル、センチ、ミリを原器すらない状態から割り出さなきゃいけなかったことだ。
振り子が一秒に揺れる長さから割り出されたメートル法は、腕の長さや足の長さによって測るキュビットやフィートとは比べ物にならない発展を人類にもたらした。
地球では最初に作られた“1メートル“の基準となる棒は白金だったそうだがこちらでは鉄で作られた。
鉄だと多少の伸縮があって不満だが………ここは要改善だな。
閑話休題
聡い読者諸君ならもうお気づきだろうが、種明かしはもうちょいあとだ、こっからは、とうとう―――――――――
「さぁて、お楽しみの………………“カートリッジ“作りだ。」
苦難、おそらくこの製作過程で一番の苦労どころになるだろうそれを前に、俺はペロリと舌なめずりをして、不適な笑みを浮かべた。
チートものみたいに謎の液体金属で作ったり念じて出したりタブレットで召喚とかできません。知識チートはありますが、地道に作っていきましょう。