万軍屠る火力
さて、初めてミサイルの試験に成功して、幾ばくかの時間が流れた。
今、俺は10歳になったばかり。
そろそろデビュタントを控える俺と、令嬢として日々努力を怠らないわが妹は、すっかり精鋭の兵士と化したお嬢様付き専属侍女のうちの三名ほどをお供に、いつも通り鍛冶屋に来ていた。
いや、もっと正確に言うと、鍛冶屋の主人名義で所有する土地か。
人里から大分離れたそこは黒の森近くの広い土地だが、その入り口は有刺鉄線で防護され訓練された歩哨に見張られている。彼らの手にあるのは、お馴染みのHK417
俺たちが作った初期のHK417コピーから、なんとか実用化した冷間鍛造技術を使ったバレルに交換し、フレーム等をプレス加工のに置き換えたものである。
それの性能はこの世界の優秀すぎる鍛冶師たちの作だけあってオリジナルに勝るとも劣らない。
弾丸についても、ハーバーボッシュ法や接触法、オストワルト法によって工業的に混酸を作り出せるようになったため、生産力が向上した。
顔を見せると敬礼が返ってきて、中に入る。
そうして辺りを見渡すと、広がっているのはコンクリートの地面と、管制機能を有するタワー。
まさしく空港と呼べる光景である。
この土地はM1小銃の製造法と引き換えに得た鉄の一部を鉄が不足して困っている領に高額で転売して買った。
また、それとは別口で友好国にはM1ライフル自体の輸出販売もしはじめたのでそちらでも儲けている。
ここに建てられているのはモジュラー式敷設と呼ばれる事前に部品を作り現地でそいつらを組み立てる方法で建設した施設である。この建築方は工期が短縮でき、とても便利な方法だ。
重機もフル活用してこの世界基準では考えられないほど短い期間で完成させた。
さて、この空港にはお馴染みのF16のほかにも、海から侵攻する艦船に対して多大な効果を有するF2多用途戦闘機や、対地対空、様々な任務に高い適正を誇るF15eストライクイーグルが鎮座する。
なかでも目を引くのは緻密に計算された角度の、直線とアールで構成されたエレガントな戦闘機。
それの名は、“ラプター“
前世地球で最強の戦闘機と呼ばれた、F22ラプターである。
コンピュータシミュレーションにより敵機から照射されたレーダー波はあさっての方向に反射されるような形状になっている。
これにより敵のレーダーはラプターを捉えられず、こいつの先制攻撃を甘んじて受け入れるしかなくなるのだ。
それだけではない、フェライト系の電波吸収塗料により濃淡の灰色で構成された制空迷彩が空に溶け込み背景と調和する。
その他にもエンジンノズルの形状等の工夫は赤外線による探知を困難にし、ありとあらゆるセンサーから逃れることが可能だ。
ん?レーダーやセンサーがこの世界に存在するのかって?
ははっ、
ナンセンス。
自然の動物の中には音波によるレーダーや赤外線などで獲物を探知するものも居る。
そういった生態を持つ巨大飛行生物が居たとして不思議じゃないこの世界では、ステルス機は有効な攻撃手段となってくれるはずだ。
それらの素晴らしき機械仕掛の猛禽たちを眺めながら歩くと、今度は軍用ヘリの群れが出迎えてくれる。
UH60とよばれる兵員輸送や偵察、対潜水艦戦闘とマルチに使える傑作ヘリ。
独特な形状のレーダーをローターの上に設置し兵器搭載用の小型の翼の下に、大量のミサイルや、ロケットランチャーを搭載した空飛ぶ戦車ことAH64アパッチ戦闘ヘリ。
そして高い兵員輸送能力と同時に戦闘ヘリ並みの火力も有するMi35スーパーハインド。
これらのヘリで構成される部隊は、その戦闘力を解放する時を今か今かと待ちわびているように、俺には見える。
しばらく歩いて空港を抜けると、今度はハンヴィーが車列を作って走り抜けていった。
恐らく今から演習に行くのだろう。スカーやHKといった高性能のアサルトライフルを装備した兵士や、M60と呼ばれる、個人で運用する機関銃を装備した火力支援要員を乗せてそれは疾走する。
別の方向に目をやれば、先程のものと同型のハンヴィーや、M1エイブラムス戦車、IFV、そしてストライカー装甲車などの地上兵器が駐車している。
M1は、火器管制システムを使用した120㎜滑降砲を搭載する現代のMBT
IFVは、小口径の砲を搭載した装軌式で走行する戦闘車輛で、ストライカーはタイヤで動くタイプの装甲車だ。
さて、そうして鍛冶屋の土地、いや、俺たちの“基地“を歩くこと10分。
今度は潮の音と臭いがしてきた。
ここも、鍛冶屋の名義で俺が購入した土地だ。
そこにあるのは、巨大としか言いようがないスケールの、ドック。
艦艇を整備したり製造する設備を有したそこは、空港と同じくモジュラー式で建てられている。
そのドックの中には、数十隻の船が停泊していた。
そのなかでも特に目を引くのは、ひとつの艦船。
「やっぱり、何度見てもゾクゾクくるな……………。」
「ん。」
俺たちの後ろで控えるメイド達からも息を飲む音が聞こえる。すげぇだろ、うちの妹が作ったんだぞこれ。
俺の目の前にある、俺やマリア、メイド達を圧倒するその艦は、全長269メートル、排水量60000tを誇る、巨艦。
前世地球の人間がそれをひと目見たときに抱くイメージは、
―――――――大和
極東の島国ジャパンがかって建造した、通常兵器の中では人類史上最大の火力を誇る戦艦である。