蒼空の覇者
さて、マリアが俺たちの兵器開発に関わるようになり、戦力拡充を始めて7ヶ月がたった。
その間にも孤児達は次々に我が領に集り、訓練を受けて兵士となっている。
あと、特筆すべきは、俺の専属メイド達だ。
SEREと呼ばれる、尋問に耐える訓練や、冬の野外を薄手のシャツとズボンのみで走る体力錬成、そして小屋のセットでのCQBによる屋内制圧訓練もやった。
それに、わりと初期からシラットやシステマ、クラグマガなどの軍隊格闘から、個々に適したものを俺が選びみっちりと鍛練させた。
射撃訓練では、通常のものを銃口が煤で真っ黒になるまでやりこませたあと、的の脇に人形を立たせて、走りながら的に中てる訓練、その人形を仲間のメイドに置き換えた訓練などと、ステップアップさせていっている。時には、カバー射撃と呼ばれる遮蔽物に隠れながらの射撃や、横向きにねっころがった姿勢での射撃訓練も織り混ぜて。
あとは、チームを組んで海をカヤックのみで数十キロ渡らせたり、水中に沈めて本当の限界まで耐えさせたり、黒の森に放り込んでナイフとマチェットだけで数ヵ月過ごさせたり。
まぁ、聡い人はお気づきだろうが、これは前世の特殊部隊の訓練のごった煮だ。死人が出るやつだ。
とはいえ、少人数を教えるため俺も一人一人を気を付けてフォローしている。その甲斐あってか、脱落や死亡は今のところゼロだ。
資質からして凄いという可能性もあるが、それは知らん。
と、まぁこんな感じで、兵器だけでなくそれを扱う人員の方もわりと充実してきた。
そして、今日、兵器開発も次のフェーズに移行する。
今、俺、マリア、オヤジの三人の視線の先にあるのは、空をまっすぐ切り裂くように飛翔するもの。
それは、アフターバーナーをオフにして亜音速で飛ぶF16戦闘機。
プレンデットウィングボディのセクシーな駆体に光を反射するジェット戦闘機であった。
「ALPHA1 to CP,enemy contact request weapon's free」
俺の耳に填まるインカムが、今F16を操縦しているパイロット、アルファ1の識別番号が与えられたそいつの声を拾う。
この通信機はマリアが指導して作ったものだ。
どんな仕組みでできているのか、俺が前世ブルーベレーで使ったものよりクリアに音声が聞こえてくる。
俺はパイロットの求める通りに、射撃許可をプレゼントする。
「CP to ALPHA1 all weapon's free」
通信機の向う側、俺からは見えるはずもない戦闘機のコクピットで、俺からのプレゼントを受け取ったパイロットが笑みを浮かべた気がした。
「copy」
短い返答、俺たちの上空でF16がその翼から細く延びる白煙を前方に吹き出す。
翼の故障ではない、戦闘機の翼に取り付けられたAIM120が投下され、刹那の間を置いて内蔵するロケットに点火、ミサイルのケツから白くたなびく噴流を吐き出して音を置き去りに前方に撃ち出されたのだ。
ミサイルに搭載されるレーダー、マリアがソフトをプログラミングしたそれは目標を――――――訓練や試験のために作った金属盤をくっつけた風船を確実に捕捉し、そちらに向かって自らの軌道を修正しながら蒼空を翔けて
着弾。
俺たちの立つ場所からは数十キロ離れたところで爆発が起こる。
レーダーと連動して起動する近接信管はその役目を見事に果たしたようだ。
俺たちが作り上げたAIM120………モドキの信管は、電気式で起爆する。
航空機などから投下、射出した瞬間に、内蔵する点火プラグがホットになり、レーダーによって目標が効果範囲内に接近したことを検知。
そうしたらゴムによって作られた、爆薬とプラグを隔てる仕切りがオープンし、点火プラグのスパークが爆薬に着火しドカンといく。
炸裂によりミサイルはバラバラになり、金属製の部品や破片が周囲にばらまかれる。
そのばらまかれた金属片で目標をズタズタに切り裂き破壊するのだ。
爆薬にはTNTを使用。原油を精錬する時にでたトルエンを、複数回に分けて混酸でニトロ化して作る。
前世地球でも有名な高性能爆薬だ。
本来ならばヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンと呼ばれる爆薬の方が威力が高いのだが、あれを作るには工業力が足らなかった。
「target clear」
目標の風船を破壊し、完璧に仕事を、武器システムの実用試験を終えたたパイロットが通信を寄越してくる。
「CP copy area clear good job」
最後に労ってやり、相手がRTBと報告してきたのを確認してから通信を切る。
そして
「スゥ…………………ぃいいいいいやっほおおおおお!せいこうだぁぁぁぁぁああ!!」
俺は年齢にしてまだ二桁にも満たない小さな体を跳ねさせて歓喜した。
ガキっぽいが、仕方ない。
「良かったな、あんだけ苦労した兵器システムが無事に完成して。」
そうなのだ、今完璧に作動した武器システムだが、実はICを作り始めた頃からオヤジや職人には相談していた。
完成の目処も立たず年単位で進捗は無かったが、4ヶ月前にマリアが来て状況が一変した。
生半可な知識では決して作れない、緻密で精密な兵器の作動プロトコル。
それを作れる人材を運良く手にいれたのだ。
これによって俺たちの技術レベルはブレイクスルーを起こし、ほぼ完璧な対地、対空、対戦ミサイルシステムが完成した。
いやー、ほんとに、妹さまさまだね。
愛してる!
俺が感情のままに抱きついて誉めちぎると、マリアは照れ臭そうに俯いて真っ赤になっていた。天使か。
しばらくいちゃついてオヤジに苦笑いを浮かべさせてからマリアを解放してやる。
ここからだ、ここから、俺の、俺たちの軍隊は始まる。
神に会うては神を討ち、仏に会うては仏を狩る。
悪魔も鬼も、まとめて焼き付くし、蹂躙する。
そんな軍勢を、今から、作り上げる。
半年と少し前に新しく入った兵士たち、俺のスピーチで勧誘した元村人たちは、順調に練度を高めて兵士の顔になってきている。
空には戦闘機が飛び、ヘリが地上で待機している。
他の軍隊はまだ剣や槍、弓が主流で、大国には魔法部隊がエリート扱いで存在する程度。
何ヵ国かでは俺が売り付けたM1ライフルを使い始め、戦果をあげているらしいが、こちらはそこから何十年もの時間をかけて熟成した自動小銃や火砲、ミサイルに火器管制システムが揃っている。
蟻と巨象?
ナンセンス。
そんな僅かな差なものかたとえ相手にこちらが流した単発式ライフルがあったとしても、その戦力格差はミジンコとシロナガスクジラよりなお大きい
大国が、剣と剣とで誇りをぶつけ合う大戦。
騎士が馬を駆り歩兵の首を飛ばしていく、貴族の戦場。
――――――そこに顕現せし我が軍勢は、農兵や雑兵が撃ち出す爆炎と銃火でもって敵対者を悉く皆殺すだろう。
俺はマリアと手を繋ぐと、上機嫌で更なる開発に取りかかった。