武力
「発言を失礼します、武力…………ですか?メイドの、私たちに?」
俺の行動と言葉を訝しんだ様子で、栗色の髪の少女が挙手する。
「そうだ。あぁ、君、名前は?」
「申し訳ございません、挨拶が遅れました。お嬢様の専属侍女筆頭を勤めさせていただきます、アンともうします。」
アン、ふむ、フランス語の1で、筆頭か。覚えやすくて大変よろしい。
「アンか、覚えておこう。
さて、ではときに、アンよ。君の目の前に世俗騎士団一部隊、約10名がいるとして、どれくらいの時間でこれを“殲滅“できる?あぁ、もちろん。鍛えるのは無しだ。」
俺の唐突過ぎるほど唐突な問いに、アンは面食らったように目を見開く。
「それは、先程おっしゃられていた、武力を贈るということと、関係が?」
「質問を質問でかえすなぁぁぁー。と、言いたいところだが、そうだ、と言っておこう。」
軽口を叩いてみるけどなるほど通じねーな。益々なんだこいつと思われた気がする。
ま、しゃーない。
「わかりました、まず、私のような一介の侍女は、当然ではありますが、騎士団どころか騎士一人にすら殺されてしまいます。どうかご承知を。」
なんぞ哀れなものを見る目でアンが回答する。それを、俺は
「いいや、ちがうな。アンよ、お前は、いや、ここにいる全員。騎士の10程度、10秒もあれば、いや、一月もすれば騎士全軍100余名ですら、30秒で撃滅、殲滅、鏖殺できる。」
真っ向から、バッサリきっぱり否定する。
まーこれは端的に事実だが、彼女達は
このイカれはなに言ってんだ
という目を向けてくる。辛い。
「君たちには残念なことに、これは事実だ。証明して見せよう。ついてこい。」
そう言って俺は部屋を出ていく。メイド達はしぶじぶではあるが、ついてきていた。
ま、数分後にはわかるさ。俺が今手に持っているスカー、そして、銃ってやつの恐ろしさを。
さーて、またまたまたまたやって来ましたよ。鍛冶屋さん。
到着した俺たち一行を、先に来て準備していたマリアが出迎える。
「仕込みは?」
俺の問いに
「ばっ、ちり。」
マリアの頼もしい返事とサムズアップ。
マリアの宣言通り、俺たち一行が移動した鍛冶屋の裏手、黒の森の入り口近くには準備万端の“的“――――――金属のプレートメイルが10ほど並べられていた。
上等、じゃ、いっちょ度肝抜いてやりますか。
「メイドたち!前方の鎧に注目!!」
彼女達の視線が鎧に向いたことを確認し、俺はスカーをコスタ撃ちで構えてサイトを一番右の鎧に向ける。
親指でセイフティをはずして
カチン、と、
トリガーを引いて、俺が持つアサルトライフル、その内部のボルトが7.62㎜弾のケツを叩く。
ショータイムだ。
ブゥアアアアア!
文字にするとしたら、そんな音。
とてつもない連射速度のせいでひとつなぎに聞こえるスカーの銃声。
薬莢が次々吐き出され、射出された鉛弾が10ある鎧を次々に食い破っていく。
20発の銃弾を叩き込み、弾倉は空に。
10ある鎧、その全ての胸部や腹部には穴が空いている。
初弾発射から全ての鎧に穴が空くまで、きっかり二秒だ。フルオートで全弾命中させれば、このタイムを出せる。
ヘッドショットは狙ってやるもんじゃない。狙うのは、胴体中央。重要な臓器が集まったそこに中てれば相手は助からないし、よしんばズレて着弾してもどっかには中たる。
生きてる限り動けるのは、ゲームの中だけ。
現実じゃ足でも肩でも中たれば人は動けなくなる。ま、止まった的だし演武みたいなもんだし頭狙ってもいいけど、つい癖でね。
「近くに寄って見てみろ。」
メイドたちに指示を出すと、彼女達は恐る恐る鎧に近づく。
だいじょぶだって、撃ったりしないから。
「穴が…………背中にも………これは、貫通してるの?」
「本で読んだことあるわ、鎧の中でもっとも固いのは胸部だって。熟練の騎士様でも貫けないって…………。」
メイドたちが戦く。
聡い彼女達は理解したようだ。
これを持った相手に相対した騎士が、どうなるか。
「これは、武器だ。武器であるからには、当然君たちも使える。」
俺の言葉を聞いて、こちらを振り向く。
「これを一人ひとつ贈ろう、使い方も教えよう、それが、君たちへの贈り物だ。」
俺のその言葉は、彼女達の眼に光を灯した。