人的資源
さて、俺のスピーチにより村人たちは俺の構想する軍団の一員となった。
また、俺は父親に頼み込んで、領内各地の戦災孤児や浮浪者、失業者の中から、10代後半から30代までの若者達を、なるべく沢山集めてもらうようにした。
「行き場の無い人たちに仕事と、温かい食事を与えるのですわ、お父様。もちろん、人道的な理由もありますけれど、そうすれば我がセレス家が一定の裁量権を持つ労働力も手に入り、我が領地や領民にとっても有益かと。
しかも、孤児や浮浪者が多いことは治安の悪さと直結しますわ。彼らに仕事を与えることで我が領、我が国の治安向上にも役立てるかと存じます。」
と言ったら父さんは涙を流して俺がノブレスオブリージュを理解したことを喜んで、すぐさまお触れを出してくれた。
それだけじゃなく、父さんは自らのコネクションをたどり、他領からも孤児を引っ張ってきてくれた。
このやり方は、兵士を集めると言う名目なら横やりが入るだろう、自らの影響の及ぶ範囲で他者が戦力拡充政策をしていたら俺なら妨害する。
いくらうちが常備軍を有することが認められてるからといってもそこまでほいほい王や周辺貴族の話も聞かず軍拡するのはアウト臭いからな。
だが、そこらへんのおためごかしは抜かりない。
たとえ真意に気づいたとしても、“孤児救済“、“職業斡旋“の名目を持ち出されて断れて見栄とハッタリで生きる貴族が断れるわけない。
ケチで心が狭いと思われるから。
いやー、どんどん戦力が集まってきて笑いが止まらんね。
父さんには彼らを地獄送りにすることがバレないようにしないと。
そうやって集まった若者たちは、その境遇が似たものをそれぞれ集めてひとつのユニットとし、最初に村人たちに行ったようなのと似た感じのスピーチを行った。ユニットごとに、もっとも“刺さる“であろう言葉を選んで、少しだけもじりながら。
ま、ユニットの分け方にはもうひとつ理由があるけどもな。
境遇が似たものをなるべく同じ部隊にすることで連帯感と仲間同士の共感を高めるためだ。
そうやって連帯と共感を植え付けた仲間が、目の前で殺されたとき、全く生き方の違うやつが死ぬよりも敵へのヘイトは大きくなる。
だから、くっつける、共感が生まれやすい組み合わせで。
より近しいものの死を見る確率が上がるように。
敵兵にヘイトが溜まり易いように。
ま、なにがあれってこの方法、下手すりゃ心理的ダメージの増幅がダウナー方向に働いて、より兵士が壊れやすくなるリスクもあるんだが。
閑話休題
そうやって、いろいろと趣向をこらして集めて引き込んだ彼らには現代国家の兵士と同じカリキュラムの訓練が組まれ、開始された。
少し意外だったのは、彼らは弱音を吐くこともなく、それについてきたことだ。
まぁ、よくよく考えれば当然か。下手をすれば運動不足からのスタート、基本的には学生から軍人になる現代人へ行う訓練を、いくら働いていないとはいえつい最近までは狩りやら鉱山労働やらを一日中当たり前にこなしていた彼らに行わせるのだ、ここに関しては現代人よりも、こっちの住人の方が優れているということだろう。
早くに起床し、体力錬成や射撃訓練、CQB、近接格闘、その他にもいろいろ。
それらを粛々とこなしていく。
これは良い兵士になりそうだぞ。