わが闘争
スピーチとは、
その場を掌握するもっとも有効な手段である。
身ぶりは大きく、声は張り上げて!
胸を張って、暴論であろうが高らかに!堂々と!
さも演説者が絶対的に正しいのだと、
思い込ませろ
文面は、かの高名なパットンスピーチをもじりまくって仕上げる。
なーに、こっちの世界には“それ“を知ってるやつはいない。
パットン氏は死んで何年もたってるから著作権もとうにきれてる。問題ない。
ショーを、一心不乱のショータイムを!
さぁ、歌い上げようじゃないか。
「諸君らは、椅子取りゲームに負けた。
少なくなる仕事に、賃金は減らされ、誇りも、名誉も、パンすらその手からこぼれ落ちた。
諸君
――――――悔しくはないのか?」
問いかけで関心を引く。
よし、奴さんたち、顔を上げなすった。
「悔いぬならばよかろう!そのまま朽ちていけばよろしい。
だがこれだけはそのちっぽけな脳に刻み込め!諸君らには、今、二つの道が示されている。
ひとつめは!このまま、働かず、安寧と怠惰の中でゆっくりと、蝕まれるように死んでいく道!」
おれの言葉に村民たちの顔が歪む。当然だ、働きたくても働けない相手に、自分は怠惰だと理解している、そしてそれを悔いている人間にこの言葉は、よく効く。だからこそ、情報を見て職がないやつらの中から自らの意思ではなく解雇や働き口の無さによって仕事をしていない人間を集めたのだから。
「ふたつめは!
戦場に出向き、戦い、自らの故国を、友を、家族を守り、守りきり、勲功と栄誉を胸に華々しく散り果てる道である!」
さぁ、飾れ、美辞麗句とおためごかしでもって。
地獄としか形容できぬ、誇りも命も尊厳もすべてをかなぐり捨てて、兵の腹から飛び出た臓物と糞尿と泥濘の中を這いずり回り、狂乱と共に突撃してきた敵兵を銃火と下品な哄笑でもってぐちゃぐちゃに引き裂く、あの地獄を
「諸君…………故国が、我らが戦いを望まないというのは全てデタラメだ。我らは闘争を愛している。戦いの痛みを嫌悪しつつも、それを対価として得る
――――――勝利を愛している。
諸君が子供だった頃、諸君ら誰もが賞賛したのは最強の騎士だった!
諸君らが大人に成ったとき、諸君ら誰もが頭を垂れたのは権力闘争を勝ち抜き、立位した王だった!
我らは勝者を愛し、敗者を認めない。
権力争いに、なにより、戦争に―――――“試合“に負けたものに、賞賛は送られない。
故国は、常に勝つために戦争をする。これこそ、我らがタスマニアがこれまでも、そしてこれからも負けを知らぬ理由だ負けを考える事は故国に対する冒涜である!
負ければ、全てを失う!
地位も、名誉も、そして、ときには、自らや自らの愛するものの――――――命も。
諸君?もう一度聞くぞ?
悔しくは、ないか?」
彼らの眼に光が点る。
騙されたとまだ知らぬ子羊たちの眼に。
「このまま、負けて、失い続ける気か?」
口は固く結ばれ、歯軋りの音がここまで聞こえる。
場が、俺の色に染め上げられる。
「勝ちたいのなら、我が手を取れ!私は!諸君に勝利を送ろう!
抱えきれぬほどの薫陶と称賛に満ちた――――――」
仕込は上々、あとは仕上げをごろうじろ、だ。
「勝利をっっっ!!!!!」
拳を固く握り、振り回し、大喝する。
目の前の若者たちは喉が裂けんばかりの歓声でもって俺の言葉を受け入れる。
拳を高く突き上げて、熱に浮かされたように騒ぎ立てる。
さぁ、煽動は成った。勝利と守護という大義名分も与えた。彼らには、地獄に落ちてもらおう。