ハードとソフト
さて、
俺が不覚にも妹を泣かした次の日。
俺たち兄弟はまたもや鍛冶屋に来ていた。
すでにマリアと職人たちとの顔合わせは済み、彼女には俺たち謹製のコンピューターが与えられていた。
何を隠そう、こいつの前世はあのペンタゴンにクラッキングするほどのプログラマーにしてクラッカー。
オフラインですべて内部完結するシステムを、どうやって外部から乗っ取ったのか、俺はいまだに全くわからないし知りたくもない。
難民として生きていれば発掘されない、稀代の才能は、この異世界でも健在だった。
すでに彼女はいくつかの火器管制、姿勢制御といったハイテク兵器に必須のプログラムを組み込んだソフトを完成させていた。
記憶用のICチップに保存されたそれは、まさしく俺たちへの福音。
マリア曰く、これらは
「あっちで、暇なとき、に、組んでた、ソースコードに、肉づけして、つくっ、た」
ものらしい。
なるほどね、暇潰しとして現代兵器の脳みそとも言える兵器運用のためのシステムや機体を動かすシステムを組んだ、と。
ちょっとマリアがなにいってるかお兄ちゃんにはわからない。
そんなものすごい天才様なウチの妹はさすがだなって思いつつ、俺たちは俺たちができること、つまりマリアのソフトで動かす、ハード部分の作成に入る。
今回作るのは電波発生装置、そして受信装置に、赤外線探知装置。
前者はコイルにコンデンサー、つまりゴムをアルミ片で挟んで成形したもの、そして増幅素子を組合わせて作り、受信機は、アンテナ素子を規則的に配列して作る。それらをひとまとめにして、小型のユニットにする。
それを一面に配列して金属カバーを被せる。電波の発信、受信は一つ一つのユニットが別の方向に対して実行する。
これが、フェーズドアレイレーダーだ。
後者、赤外線探知装置はアンチモン化インジウムというレアメタルを素子として面配列し集光レンズと組合わせて作る。
まー他にもいろいろごちゃごちゃ細かい仕組みはあれど、死ぬほど複雑かつ長くなるので割愛。
それらを組合わせて、マリアのソフトで統合し、演算し、結果を出力する。
そうして何十回かのトライを経て、電波の送信、受信に成功した。
赤外線も、大分前に作った液晶ディスプレイに探知した結果がしっかり写った。
―――――――成功だ。
わぁっと歓声が上がる。
わかるぞその気持ち。自分等の作ったものが形になることは喜ばしいよな。俺も死体作りは………………って、喜べるかんなもん。
はぁ、ま、なんとか第一段階はクリアだ。マリアのお陰もあって、この世界にはじめてのレーダーと赤外線探索システムのベースが生まれた。
ただ………………みんな飛び上がって喜んでるけどさ、まだ精度とか感度を高める作業があるんだよね。
「また産みの苦しみがやってくるぞぉ。」
俺はなかば白目になりながら呟く。すると、右手に柔らかな感触がやってきた。そちらに目をやると、優しい俺の妹が手を握っていた。
ニギニギと感触を確かめるように、その熱を離さないというように、マリアの手が動く。
「だいじょう、ぶ。お兄ちゃんは、わたしが、ついてる。」
華やかとは言いがたい微笑み。
でも、幽玄、そんな言葉が似合うような柔らかで妖しい微笑みを浮かべる彼女は
美しい。
「わたしたち、は、比翼連理。ソフトとハード、ふたり、で、もっと先に。」
あぁ、そうだ。
なにを心配することがある?
俺には、頼もしい比翼がある。
二人で一つ、俺たちで、この世界の戦争を変えてやる。